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ある皇后の一生  作者: 雪花菜
五章 帰還
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「ご無沙汰しております!」

「あっ……えっ!?」

 もう、びっくりしたというものではなかった。

 家に戻った関小玉が目にした人物は、まさかの関小玉の従卒・楊清喜だった。

 しかも、床に正座してお客様然とするどころか、何故か義姉と共に夕食のしたくをしている。義姉の困惑した顔から、こうなった経緯が大体わかる。楊清喜がごり押ししたのだろう。


 とりあえず、手を止めさせて話を聞くことにした。

「なんでここに来たの?」

「従者たるもの、お仕えする方のお側に常に侍らなくてはなりませんから。光あるところ影あるように」

「それ違うから」

 従卒時代の自分も似たことを思ったことはあったが、そこまでは思っていない。


「というか、仕事は?」

「長期の休みを取りました」

 さすがに無断でここに来たわけではなかった。無断で持ち場を離れると、軍の場合、脱走兵ということになり、草の根分けての捜索・下手すりゃ処刑となる。下っ端でも叩き込まれている掟であるから、よほどのことがない限りそれはやらかさないとは思っていた。

「でも、どんな理由で休んだの?」

 現在、軍は慢性的な人材不足であるため、今回関小玉が休みをとったような理由でなければ、休みを取るのはかなり難しい。

「最初、閣下のご母堂がご逝去されたことを理由にしたのですが、却下されて……」


 当たり前だ。


 そりゃ、死んだのはお前の母親じゃないからな。というか、そんな理由で本気で休み取ろうとしたのか、驚きだよ。

 そう思いながらも、話の腰を折るのが嫌なので、関小玉は黙って聞く。

「ですから、周校尉に頼んだら、なんとかしてくれました!」

「……」

 関小玉は更に詳しい説明を待った。しかし、楊清喜は、言い尽くした! とでも言わんばかりの顔で……おい、まさかこれで説明終わりなのか。

「……え? なんとかって、どうやって?」

「わかりません! 結果の方が過程より大事なので、聞こうともしませんでした!」

「えー……」

 関小玉は頭を抑えた。楊清喜に対する呆れ……というのはあるが、それよりも胸を占めていた思いは……。


 あいつ、そこまで仕事できんのか。あたしももっと早く、あいつに休暇たのんでもぎ取ればよかった!


 誰から見ても、「今考えるべきことはそれじゃない」と突っ込みか入るところである。

「そういう訳なので、閣下の服喪が開けるまでお世話になります。夜は土間にでも転がしてくだされば結構ですから」

「いやそんな訳には……待て」

 思い出した。こいつ「長期の休み」取ったとか言わなかったか。おいまさか服喪あけるまでここにいるのか。

 返事を聞くまでもなく、部屋の隅に押し込まれたやけにでっかい荷物が無言で答えを発信しているような気がする。


 でも念のため本人にも聞いてみた。

「はい」

 こともなげに答えられた。

「うわぁ」

 思わず呻くと、楊清喜は殊勝な面持ちで言って来た。

「……土間が駄目なら、外で寝ますが」

「いや、そんなことじゃないよ。というか、遠慮するところが違う」


 とはいえ、追い返すこともできないのはわかっている。

「義姉さん、いいかな……」

 なんだか捨て犬を飼ってもいいかお伺いをするような気持ちで、義姉に了承を取る。捨て犬の時と違うのは、相手がこころよく頷いてくれたという点である。

「いいわよ。少し賑やかになりそうだし。ね、丙」

「うん……叔母ちゃん、すげーのな! 『かっか』だって!」

「ねー。おばあちゃんが叔母ちゃんのことを『偉くなった』って言ってたけど、本当だったねー」

 なんだか母子で盛り上がっている。ほっとこう。

「そういうわけだから、あんた、ここにいていいわよ。ただ、働いてもらうことになるから」

「もちろんです」

「嫌になったら、休暇終わるまで実家にいなさい」

「それは心配ないです」

 言ってもう荷ほどきを始める楊清喜は、やはり「いいタマ」だった。



「そういえば閣下」

「なに?」

「出したお手紙はきちんと返事書いてください。ここ一月、全然返事こなくて、僕たち心配したんですからね」

「だって、個人的なことしか書くことないし」

 左遷されていた時は、仕事がらみのあれこれがあったので、日常的に話題があったのだが、今は職務返上しているので仕事がらみで何も書けない。

「別に何書いてもいいんです!  閣下が全然連絡くれないから、周校尉が心配して、こちらに僕よこす手伝いしてくれたんですよ」

「えっ、なにそれ」

 つまり、お目付役か。

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