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ある皇后の一生  作者: 雪花菜
五章 帰還
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7

「誰?」

 その男に久しぶりに会った時、そう思ったのは、関小玉だけのせいではない。まあ、「関小玉だけのせいではない」という言葉のとおり、相手の顔をほとんど忘れかけていた関小玉の方にもむろん非があるが、相手の変貌ははるかにそれを上回っていた。

 どちらかというと……いや、穏便さを取り払っていうと、劣化していた。


 相手はまだ20代のはずなのに、なんかくたびれていた。どこか太っていた。うっすらはげていた。しかも、変化の度合いがどれも著しいものはないため個性というほど際立っておらず、それでいて総合点があまりにも低いので、「印象の薄い残念なオヤジ」になっていた。

 だれあろう、ほかのだれでもない。

 関小玉の元許婚である。


 別に9年前から美男子というわけではなかった。なんたって、関小玉と「お似合いだね」と言われていた程度である。それでも、ほかの女が横恋慕する程度には魅力的だったはずなのだ。

 何があった。

 義姉に聞くと、略奪愛の結果は、物語のようにめでたしめでたしというほどではなかったが、それでも不仲が噂されるようなこともなく、ごく普通の夫婦として、5人子どもをもうけたらしい。そして、妻の方は先年なくなったんだとか。

 ああそれでくたびれていたのか、納得した。気の毒に。

 と、すんなり思えるほど、彼は過去の存在だった。かつて、心の中に暗がりを作るほどの相手だったはずが、大した変化だ。そして、過去の男のままでいてくれると、大変ありがたかったのに、現在の関小玉に変にからんできやがった。


「結婚してくれ」

「無理」

 心の声がすなわち実際の声だったといわんばかりに、即答した。


 いつも、よく考えてから発言しろと言っていた周文林も、今回ばかりは拍手しながら頷いたことだろう。今自分は最善の対応をしたと、関小玉は確信していた。

 だから、相手が「なんで断るんだ」という顔をしているのが、本気でわけわからない。だって無理でしょ無理無理無理本当無理とこれも思いっきり口に出したら、なんだかふらふらしながら去って行った。



 相手の姿を見送ってから、関小玉は胸に手を当てて考えてみた。自分はまちがっていたのだろうかと。

 こればかりはごまかしようがないが、まず外見が好みでなかったのは認める。最近まで近くにいらんくらい美形な野郎がいたため、審美眼が無駄に磨かれたのかと思ったが、彼より数段顔で劣る歴代彼氏を今思い浮かべてみても、元許婚は最低位に入賞していた。身も蓋もない観点かもしれないが、好みって結構大事だ。

 そして、その外見の低評価をくつがえしようもなく、内面が気に食わなかった。


 だってあの男、自分の子供のこと全然考えてない。


 彼の子供からすれば自分は、父の元彼女である。しかも、あの男は入り婿だった。つまり、自分と彼が結婚した場合、後妻ののっとりになるわけだ。

 絶対に、井戸端会議の話題になるような事件が起こる。某家の小僧のおねしょでさえ、一度話題になると10年はその話題をひきずる土地柄だ。きっと永劫に語り継がれるだろう。

 そこらへんのことに遠慮せずにのこのこ来る性根が本当に気に食わなかった。


 うん、やっぱり自分は間違っていない。


 だが周囲はそうは思わないようで、それとなく「嫁に行ったら?」とか勧めてくる。実は兄嫁でさえも最初はそう言っていた。関小玉が自分の考えを述べると、「あ、それはイヤね」と納得してくれたが。妻として、母として、元許婚の妻に共感したらしい。

 だから、他の者にも説明すればわかってもらえるだろうが(特に奥様方)いかんせん、避けられてるせいで、弁明する機会がない。悩ましい。

 そして、なんとなく応援してる風の里人に力を受けてか、元許婚はしょっちゅうやって来るのだった。



 ほら今日も。

「あんたうっとうしいから帰れ」

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