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ある皇后の一生  作者: 雪花菜
五章 帰還
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6

 無駄にいい天気だった。

 一雨来るといいのにと思いながら、関小玉はえっちらおっちら急な勾配を登る。



 実家に戻って早一月。

 なじられると覚悟していた義姉と甥が、自分の帰還を手放しで受け入れてくれた以外は、大体予想通りだった。


 村の者に遠まきにされているというあたりが特に。


 忘れてはならないことだし、忘れたこともないが、もともと自分は故郷の居心地が悪くなって出て行ったのだ。

 だから、彼らにとっては許婚に捨てられ、故郷を捨てた者が出戻ったという感覚なのだ。無理もない。ごく一部の人間が友好的に迎え入れてくれたというだけでも上出来だ。

 ……その一部のうちに例の王一族が含まれるのが、なんだか複雑だが。本当にあのジジイ。一生許さない。相手の一生もう終わっているが。


 あと、子ども達は素直だ。甥の友達がよくやってきて、都の話を聞きたがる相手をしてやるのも楽しいし、チャンバラのコツを教えてやったりすると、目を輝かせているのも可愛い。

 自分、教える立場とか向いてるのかもと、余人が聞けば目を剥くことを関小玉は思っていた。


 そのこともあるのか、里のものの反応は全然気にならない。負け惜しみだとかではなく本当のことだ。戦場で精神的に鍛えられたのか、加齢による図太さか……どちらかといえば後者な気もする。戦場と無関係な同い年の義姉もやたらと肝が座っていたことであるし。母は強しの法則かもしれないが。

 女も24歳になればすべからく度胸がつくものなのだろう。それなりに若いつもりだが、いつかは中年女になるのだと考えれば、そうならない方がおかしい。気弱な中年女など、輝く便所並の形容矛盾だ。

 自分は中年になった時なにしているんだろうなと関小玉は思って、すぐ苦笑いして考えれるのをやめた。別に意外な未来などは待ち受けていないだろうに。あ、結婚はしているかもしれない。最近その未来も「意外」の分類に入りそうになっている年齢だということはさておき、考えて詮無いことに思い至るのは、時間があるからだろう。


 忙しくないわけではなかった。田舎の暮らしだから、働いても働いても生活が楽になるわけではない。ただ、耕作や脱穀など、単調な作業のせいで、何か考えないとやっていられなかった。

 ここに来て、久しぶりに自分の未来に思いをはせた。



 軍に骨を埋めるのも悪くないと考えて7年。これまでその感覚で生きてきたが、今更になって違和感を感じるようになっている。

 むしろ今だからこそなのかもしれない。この9年間、軍属という立場から離れたことはなかった。今、一時的とはいえ、民間人となったことで突き放して考えることができているのだろう。


 はっきり言おう。現状に問題はない。


 えっちらおっちらと畑を耕す……まったく苦にならない。嫁き遅れ、出戻りとひそひそ言われる……全然気にならない。

 あれ? これって、このまま隠居してもいいんじゃない?

 むしろ、その流れの方が自然に感じる。それなのに、なぜか毎日素振りを欠かさない自分。なんだか中途半端だった。


 我は何ぞや。


 確固たる何かを持っているほどうぬぼれていないつもりだったが、それなりに自己を律している自負はあった。

 それがどうだ。9年前のあの時、許婚に捨てられた時に戻ったように思い悩んでいる。悩みの内容がまったく同じでないだけましなだけという状態。

 この悩みに比べれば、ほかの問題など瑣末だ。

 あの男が頻発に会いにくることなど。

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