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ある皇后の一生  作者: 雪花菜
五章 帰還
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 「孝」というものがある。

 親……ひいては祖先に礼節を尽くすことで、この国で最も浸透している考え方だ。

 この国では上下秩序の弁別が重んじられており、最も身近な上下関係である親子の関係は特に重視されている。

 最も身分の低い者からひいては最高権力者の皇帝まで。こればかりは誰もが守らなければならない。

 特に父母が死んだ際、決められた期間喪に服す必要がある。父は3年間、母は1年間である。これを丁憂ていゆうという。

 この丁憂はかなり徹底されたもので、服喪期間に慶事を避けるというだけのものではない。官職を持つ者は、期間中官位を返上し、死者を悼むことを最優先にしなくてはならない。

 そして期間が終わればまた官職に復することができるのであった。一般の商家等もこれに準じる扱いとなる。

 この丁憂をしない、あるいはさせないと、不孝者として白い目で見られ、場合によっては職を失うこともある。それは村八分などという生やさしいものではなかった。


 一見、短所しかない機構である。特に出世に目をぎらつかせている者にとっては、この期間に何もできないということは、大きな痛手だ。また、有能な者がこれだけの期間抜けてしまった場合、雇用主にとっても大きな痛手だ。

 だが、先にも述べたとおり、これは上下秩序の弁別の一歩であり、ひいてはその秩序の頂点である皇帝への敬意を保つ効果を持っていた。為政者に都合の良い考え方であり、そのことが短所に目をつぶってまでもこの機構が保たれている理由だった。


 でも、そんなことはどうでもいい。関小玉にとっては。

 

 身分の低い者ほど、制度について打算を小難しく考えず、単純にものごとをとらえる。そのことへの善し悪しはともかく、関小玉はごく幼い頃から、父母への敬意をごくあたりまえに受け入れていた。それを疑問に思ったことはないし、疑問に思うような父母でもなかった。

 彼女の両親は貧しいながらも関小玉をいつくしんで育て、真に敬意に値する対象であったからだ。

 だから、丁憂は当たり前のことだと思ったし、むしろ母への服喪が制度に裏打ちされて許されているということは福利厚生の一つだとも思っていた。


 今、関小玉の心の中には母のことだけがある。世の雑事にとらわれず、母への孝を尽くすことができるというのは、喜ばしいとまではいわないが、心の慰めであった。

 兄が死んだときに帰れなかった分、実家でできるだけのことをしようと思う。


 一人で家を切り盛りしているあによめは、関小玉の帰還を待っているはずだ。

 兄の忘れ形見である甥にも初めて会える。

 もう7歳になっているはずだった。

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