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ある皇后の一生  作者: 雪花菜
四章 左遷
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幕間〜友人と知人が〜

 カナカナカナ、と蝉の鳴く声がする。

 陳叔安は、首から下げていた手ぬぐいでしたたりだした汗をぬぐった。暑い。生ものが僅かな時間で腐りそうなほど。


 だから、この場には堪え難い悪臭が漂っていた。先程から何人もの人間が、見るものを身終えると、顔をしかめたり、鼻を摘まんだりしながらこの場を通り過ぎて行く。



 処刑された罪人の首を晒す場。


 陳叔安のような人間にとっては、普段ならば好き好んで近づくところではない。だから、普段とは違うものがあるのだ。

 幾つも並ぶ首の中に知己のものがある。けして親しかったわけではない。ある事件が起こってからは一切交流がなく、はっきりいって嫌っていた人間だ。

 かつて、陳叔安と、彼の長い付き合いの友人と共に働いていた男だ。陳叔安が距離を置いた事件によって急激に、出世した男。

 それがあっという間に転落し、もはや命すら持っていない。残った首もいずれ腐りおちるだろう。

 嫌っていた相手とはいえ、死ぬと気が滅入る……というわけではなかった。いろいろと悪辣なことをしてきた男だ。いずれこうなるだろうと思っていた。そして、事実を受け入れても動じないほど、自身が大人になっていた。


 ただ、気になることがある。

 彼によって追い落とされた友人。だが、彼の手口からすると生易しいといっていい。


 お前、あいつのこと、どう思っていたんだ?


 その答えを知っている気がするが、間違っているかもしれない。

 もう、確かめる術を持たない。永遠に晴れることのない疑問だ。きっと自分は誰にも……友人にもそれをなげかけたりせず、一生腹に抱え続けるのだろう。


 蝿が飛ぶ。

 魏光の濁った眼球にとまった。

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