表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある皇后の一生  作者: 雪花菜
四章 左遷
64/86

幕間〜上司と部下が〜

 怒りのあまり顔が白くなる人間は要注意だ。

 王敏之は、経験からそのことを知っていた。今目の前には、まさにその通りになった人間がいる。部下の副官という、割と遠い間柄の男だ。

「それで? 仮にそれが本当だとして、貴官は俺にどうしろと?」

「一つ聞きたいことがあります」

「……」

 無言で、言うよう合図する。

「将軍、あなたは……あの男の思惑を知っていて、彼女の左遷を許容したのですか」

 肯定したら叩き切られそうだなと思いながら、王敏之はあっさり答えた。

「そうだよ」

 後ろに控えていた自分の副官が、溜息をついて、自身の剣に手をかけたのが気配でわかる。

 目の前の相手は白い顔をさらに白くし、今にも抜刀しそうだ。

 さすがに少し可哀想になった。

「貴官は、彼女の状態をどう思っていた?」

「どうとは?」

「彼女、限界だったんだけど」


 左遷される前の彼女の仕事量は、それはもう殺人的だった。精神的な負担も大きかった。正直、遅かれ早かれつぶれるだろうと思うほどに。

 どうにかしようにも、自分とは別のところから来る仕事はどうしようもない。

 少し焦っていたところに、左遷の話である。一も二もなく頷いたときのことはしっかり覚えている。


 隣国との関係が悪化している今日この頃、正直、彼女に抜けられるのは辛かった。実際、彼女がいない間に戦死した麾下の指揮官のうちの数名は、彼女がいればまだ存命だっただろうなと思う。だが、今彼女に潰れられるより、彼等を失った方が長い目で見るとずっと益が大きかった。

 指揮官とはそういうものだ。常に引き算で物事を考える。それに嘆き、諦め、開き直った日々はもはや遠い。もはや「そういうもの」として存在する自分があるだけだ。


 目の前の男の顔色に血の気が少し戻った。どうやら王敏之が言ったことは彼にもわかっていたらしい。


 良かった、と思った。

 彼女の副官がそれすらもわからないような者なら、首をすげ替えねばならなかった。そうしなければ、きっと彼女は伸びない。


「もう、ころあいだよ」

 何の、と言わなくても相手には通じたらしい。

 そう、休みは終わりだ。近ごろ、ある高官の汚職による処刑で、人事刷新の動きが出てきている。それを、この男は何故か知っているようだが。

「そのうち、貴官に迎えに行ってもらうから」

「はい」

 踵を返す男にやれやれと思いながら、手元の筆に手をやる。彼女のことを心配してたびたび手紙をよこす旧友に、今度は良い知らせを返すことができるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ