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ある皇后の一生  作者: 雪花菜
四章 左遷
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11

 じゃあ、何が原因なんだということになるが、今問題なのはそのようなことではない。

 本人もわかってはいることだが、関小玉がどう見ても責任者に見えないということである。それは彼女が悪いわけではない。

 まあ、そんな彼女ですら、見ればわかることがある。通りすがりの自警団は、河原の灌漑事業を「おーおー、泥だらけになってお疲れさん」と冷やかし……その中でかつて口説いた女を発見したのである。言わずと知れた関小玉である。彼らはとりあえず彼女が軍属であることを理解した。ただ、それだけでも、彼らが(理不尽に)激怒するのには十分だった。


「なんだあの女!」

 つり目の、まあがんばれば美丈夫といえなくもない男が壁を蹴り上げた。

「落ち着いてください」

 細面の、両目を薄く開けば美青年といえなくもない男がそれをなだめる。「がんばれ美丈夫」が「薄目美青年」にくってかかった。

「これが落ち着いていられるか! 俺たちは騙されたんだぞ!」(※小玉は誰も騙していません)

「なぁんか、お仕置きが必要だよねー」

 間延びした声で言うのは、全人類に対する広い愛があれば魅力的ともいえなくもない少年。その他の面々も「人類愛少年」にうなずいた。



 ……陰謀が蠕動しているような自警団のやりとりをここまで述べといてなんだが、だいたい彼らの末路について予想はつくだろう。結果的に「お仕置き」されたのは彼らの方だった。


 しかも、最初だけでも関小玉を心身ともに煩わせたのであるならまだしも、彼らはあっさりと負けた。文字通り腕っ節で負けた。

「弱っ!」

 ……と、口には出していないが、表情には見事に出ている。けれども、そんな彼女を見て、周文林はそっと感涙をぬぐうであろう。そう、口に出さないだけでも偉大な一歩である。

 自警団の面々は、最初はせせこましい嫌がらせをしようとした。しかし、その頃には関小玉が彼らの親御さんたちをすっかり抱き込んでいたため、それらは不発に終わった。抱き込むというと聞こえは悪いが、

「いやもう、本当うちの息子がねえ……」

「大変ですねえ」

「もうね、小玉ちゃん、うちのドラ息子があんたんとこに迷惑かけてるんだったら、一発しばいていいから」

「いやあ、そんなあ」

「さすがに、うちの父ちゃん、あの馬鹿を甘やかしすぎなんだよね」

「男親って、先のこと考えませんよね、あんまり」

「そうそう」

 ……と、奥様方の話し相手になっていたのだ。家の覇権を真の意味で握る彼女たちの信望を得れば、もう関小玉に怖いものはない。

 かくて、

「あんた何やってるの、この馬鹿」

 と各方面でいろいろと言われた彼らは、しょぼくれ……中でも短気だった「がんばれ美丈夫」が往来でこともあろうか、関小玉に剣で勝負を挑んだ。

 

 で、負けたのである。それはもう見事に。


 実戦経験(戦争どころかいざこざでさえ)なく、実は正式に師匠について学んだことはないという木の枝持ってチャンバラしている少年に毛が生えたような彼らは、関小玉の前には束になっても敵わなかった。束になるという表現は誇張ではない、本当に一斉にかかってみてそれだった。

 関小玉にしてみれば、剣持っててその程度しか使えないのかよ! とか、自警団どころか、自分の身を守るのも難しいだろそれ! というくらいの弱さだったという。


 もちろん、彼女が標準よりは強かったのは確かだろう。だが、実は彼女はそこまでは強くはない。一時期、戦いの天才的のようにもてはやされた時期はあったが、それは関小玉が武術を始めた年齢が遅かったのに対して、あまりにも急激に成長しすぎたからである。最終的に彼女の技量は「上の下」程度で打ち止めになる。そして打ち止めとなった頃から、彼女の指揮官としての名声が高まっていくのだった。この頃の関小玉は、ちょうどその過渡期におり、中途半端な状況ではあった。



 ともあれ、無職の青年達を更正させても良い、むしろ更正させてくれと言われているのであれば、善良な軍人さんとしては否やはない。とりあえず、自警団連中のちゃらちゃら伸ばした髪を刈り上げ、現在彼らは便所掃除と灌漑事業の下働きをさせている。

 もちろん給料を払っているため、彼らは脱・無職を果たしたのだった。



 お母様がたは心の底から喜び、家庭内の平和はこれによって保たれ、お母様たちの心が関小玉に傾いているため、かくて軍への風あたりは格段によくなった。

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