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ある皇后の一生  作者: 雪花菜
四章 左遷
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 とはいえ、今は遠き地にいる上司に「あいつ、おねーさまがたの中に突っ込んであげて」とか言われている身であることを思い出した。その場で快諾し、その日の夕方連れて行って、そしてそれなりに通っている状態を確認し、姐御、俺やりましたぜ! と汗をぬぐって報告書をしたためた訳だが……。

 ぬぐったばかりの汗が噴き出し、さらにそれが冷えるような事態が発生した。


 え、お前通いすぎじゃね?


 周文林がかなりの頻度で妓楼に通い詰めている様子を目の当たりにし、うろたえた。

 確かに、女遊びを始めたばかりの野郎が、はまり込んでしまって抜け出すことができなくなるということはよくある話だ。だが、まさかあの周文林がと、そのような事態は想定すらしていなかった。

 確かに、彼は金持ちだ。本人が高給取りな上に、実家が帝都でも有数の豪商だ。しかし、遊びにおいて、金とはいくらあっても足りないもの。

 妓楼のおねーさまといろいろな意味で親しくおつきあいしている黄復卿は、身を持ち崩している男を何人も知っている。別に自分以外の誰が破滅しようと、何ら痛痒つうようを覚えないが、周文林に対しては別だ。

 なぜなら、彼も特別な存在だから……という訳ではなく、上司に対して顔向けができない。上司は、彼が女に慣れることは望んでいても、女で破滅することまでは望んでいないに決まっている。


 手を打たなければならなかった。




 某日。

「よう文林、今日も美人だな!」

「……」

  声で答える気も失せましたとでもいいたげな周文林は、目線だけ送ってきた。「ぞっとするような流し目」と、本人の知らないところで言われるそれは、なるほどそっちの気のある人間にはたまらないものなのだろう。だが、黄復卿にはただの胡乱な半眼にしか見えない。もちろん、周文林としてはそれで正解なはずなので、問題はない。

「おまえ、今ヒマ?」

「そう見えるか?」

「いや全然」

「帰れ」

「ひでえなあ、イイ女紹介してやったってのに」

「その節はどうも」

 かけらも感謝していませんという口ぶりで感謝を述べられると、結構笑える。

「で、どう? オネーサマとのその後の調子は?」

 あくまでさりげなく、本題に入る。まず、どれだけはまり込んでいるのかを知って、対策を講じなければならない。

 しかし、周文林は、ああそういえばとでもいうような顔をしてこうのたまった。

「もう行くのやめた」

 いつのまにやら事態解決。めでたしめでたし。

「……」

 いや、本当にめでたいんだが、釈然としない。


 お前、本当に俺をやきもきさせる奴だな!

 黄復卿はそう思ったそうな。とっぴんぱらりのぷう。



 

「それで?本題はなんだ?」

「あ、ええ?」

 我に返ると、若干いらついたような周文林の表情。

「何のために俺を呼んだんだ?」

「ああ、それ……」

 特に用事はなかったと言って、彼の怒りを買うような真似を黄復卿はしない。口実はしっかりと用意してきていた。

「いやさ、小玉から手紙来たんだよ。多分近況だから、一緒に見ねえ?」

 懐から未開封の手紙を取り出し、軽く振る。周文林はあっさりうなずいた。

 そして……。

 ぱらりと開いた手紙には、墨痕鮮やかに近況と、こういうことが記されていた。


「ちょっとあんた、あたしの彼氏になって」


「……って、おい」

 突っ込みは、その一文と、黄復卿がその一文を認識したのとほぼ同時に、横で膨れあがった冷ややかな空気に対するものである。彼は妙に冷静に思った。

 俺の周り、おかしくないやつはいないのか。

 本人も相当「おかしい」人間なのを自覚した上の発想だった。

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