表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある皇后の一生  作者: 雪花菜
四章 左遷
57/86

 黄復卿は女好きである。女性であれば何でも愛せるというようほどの博愛主義者ではないが、恋愛対象外の女性にも可能な限り優しくしたいと考えているくらい女性という存在を尊重している。


 それが高じて女装に行き着いた……という説が出回っているのも無理はない程度に。


 もちろん彼が女装に走った理由はそんなところにはない。ただ、女装を今日まで維持している理由としては若干正しい。なぜなら、女性と服や化粧品の最新の流行を語っているのが「楽しい」と感じているからだ。その結果、女性の心理により通暁つうぎょうし、審美眼というものが更に磨かれたと思っている。

 ……が、一般の人間には女装に走った理由と、女装を今日まで維持している理由が違うのだと説明したところで、違いがわからない可能性が高い。むしろ引かれる可能性が高い。


 そういう訳で、黄復卿は今の話を誰かに話すことはめったにない。


 一部、引いている様子を楽しむために話す場合はある。たとえば周文林のように。彼の反応は実におもしろかった。

 しかし、最近、その周文林の様子がおかしい。おもしろいと感じるおかしさならば放置するが、今回のおかしさは心配する類のものだった。


 昔話の出だし風に言えば、それは関小玉がいなくなった直後の事だったそうな。

 「最近の周某はすさんでいる」


 その頃にはすでに、そんな噂がこの衛の定説になっていた。「某」といっている割に、若干名前が伏せられていないのは笑えるところだが、なんといってもこの国は同姓の人間がかなり多い。そのため、「わかる人間にはわかる」という程度には個人情報に配慮した噂だった。そしてその噂は間違いではなかった。

 原因は「わかる人間にはわかる」。関小玉がいないからだ。



 近頃の周文林は誰が見てもわかるほど、関小玉に傾倒していた。心酔といってもいいほどだ。だが、見ていて危ないほど盲目ということでは断じてなかった。

 関小玉も周文林を信頼していて、非常に調和のとれた主従関係が完成しつつあった。とはいえ、戦史ものにありがちな理想的な指揮官と副官というわけではなく、周文林という人間が関小玉という癖のある指揮官に見事に合っていたという点で理想的だった。

 周囲もそのような二人を受け入れていたし、他の部隊からも「王敏之と米孝先の後継か」と噂されていた。あの組み合わせもなかなかにアクの強い関係だったりする。


 ともあれ、呼吸が合った片割れを失った周文林はしばらく荒れていた。もっとも、本人はそれを完璧に隠していた。他の衛の者とも和やかに話し、ごくまれではあるものの、冗談の一つも口にするくらいに。

 だが、身近な人間にはすぐわかる。軍内での周文林の身近な人間は関小玉に近しい人間ばかりだ。彼らも関小玉が目の前から消えて、大なり小なり喪失感だとか不安だとかを感じていた。

 そのため、周文林もまた同じような感情を抱いているだろうと予想し、そういう目で見ると彼の感情の動きは読みやすかった。

 関係の浅い人間は、周文林の態度を見て、「それほど深いつきあいではなかったのだな」と言うくらい、彼は表面上、平静を繕っていた。

 それほど自制のできる人間が、「すさんでいる」と噂されるような事態。相当なことだ。そしてそうなった事情の一端は黄復卿にある。


 ……と本人は思っているのだが、実は彼も今ひとつ事情の全貌を抑えている訳ではなかったりする。


 元気がない彼に声をかけたところ、相談を持ちかけられた。そこで人気のないところに呼び出された時には、「まさか告白か」と素で我が身を心配するほど思い詰めた様子であったが、話を聞けば何のことはない。

 まあ、普段の周文林を知る側からすると、驚天動地並の驚きだが。


 だってなー、と思う。


 お前、本当に男? ってくらい、女っ気のない奴から、妓楼に行きたいとか言われるとは思わなかった。

 しかも、何度か誘って、その都度断ってきたような男である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ