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ある皇后の一生  作者: 雪花菜
四章 左遷
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 翌日から関小玉の行動が本格的に始まった。街の有力者を呼んだり訪問したりと挨拶をする。細かいことだが、最初が肝心だし、付けいらせる隙は可能な限り排除する。関小玉にとって当たり前の行動だ。それは生存率を引き上げる。戦場でも処世でも。 

 

 対面した感触? はっきり言って悪い。


 そうでないほうがおかしいので、特に気にはしない。なにせこれまでが悪かった上に、新しく出てきた責任者が若い小娘ときた。これで諸手を挙げて大歓迎されたとなれば、どす黒い裏があるとしか思えない。

 収穫はもちろんあった。わかりやすい反応を取られるという点で、彼らの人間性も見えてくる。誰かを懐柔するために、相手の内面をつかまずに行動できるわけがない。 

 基本正直、でも排他的で頑固。それはそれでやりにくいところもあるが、手のうちようはある。

 挨拶回りが一通り終わると、関小玉は部下たちを呼び会議を開いた。これからやること、その上で得られるであろう効果、仮にそれが予想を下回ったとしても地域に与える利点。

 まがりなりにも部下を率いる立場になってから、関小玉が痛感したのは情報の伝達の重要性である。部下たちの納得なくしてよい結果を得られない。むろん、上官の強権を発動することも時には必要になるが、部下たちが納得した方が確実に仕事がなめらかに進むのだからよほどのことがない限り無視すべきではない。


 ……部下として、何も知らされずに振り回されたことのある恨みからも来ている経験則だ。


 よく部下にはなにも知らせず、独自に動いて、莫大な功績をあげ、後から「実はすごいんだ!」と周囲が見直すような人がいる。

 誰あろう、元上司の王敏之だ。

 

 あれは一つの才能だろう。若干遠い立場の部下ならば素直に尊敬できる。だが、正直言って、直属に近い立場の部下になるとあれは本当にいただけない。各方面との調節が本当に困難なのだ。

 だから長年王敏之の副官をやっている米孝先は「職人」とまで呼ばれている。彼によると「あの人はあれでいいんだ」とのことである。関小玉もそれはうなずける……が、自分には無理だ。

 そういう訳で、彼女は自分のやることについては即断を求められるような事態ではない限り、部下たちへの伝達や相談を怠ったことはない。

 

 ……本来、彼女は王敏之と全く同じ型の人間だったが、他者を困らせる面ではほどよい反面教師を得たせいで、自らの才能を伸ばすことができたといえる。

 ともあれ、現在の部下たちとの打ち合わせが終わったあと、関小玉は率いる軍の管轄地域を視察しはじめた。田舎なのでほぼ毎日が山歩きである。手元にある地図と照らし合わせ、差がある場合は修正し、「ある所」については書き込みを入れる。合間に書類を整備し、練兵の指揮を執る。

 はっきりいって激務だ。激務……のはずなのに、


 帝都より楽とか感じるのはなぜだろう。


 一日三食食べられるし、毎晩きちんと寝られるのである。(普通です)

 帝都にいた頃の、特に先帝が亡くなった時に比べると、「ぬるいぬるいはっはァ!!」とか意味もなく叫びたくなってくる。赴任当初こそ周文林などの戦力が恋しかったが、現在は特に必要ないなーとか思い始めていた。


 でも、この駐屯地の誰よりも働いているというこの状況。

 自分って真面目だったんだなーと、元部下が聞けば真顔で否定するであろう考えが関小玉の頭をよぎる今日この頃である。

 不満を抱くような状況かもしれないが、関小玉は今はこのままでいいと思う。相手をひれ伏させるためには、自分の方がすごいという点を見せつける必要がある。今、現部下達とつきあい始めてから日が浅い昨今、相手が感嘆しているという状況は有利に働いていた。


 近い将来には、お前らもー少し働けとか思っているが。


 そんな中、関小玉についてくるくると動いている少年がいる。

 楊清喜ようせいきという名前の彼は、関小玉につけられた従卒だった。初めて従卒というものを持ったので、扱いに悩むことはあるが、彼は本当にがんばっている。毎朝関小玉より早く起きるのにやや失敗しつつも、彼女の朝食を整え、一日中付き従って、夜は関小玉より遅く寝る。何より率直な尊敬のまなざしを向けてくるので無下にできない。

 でも時々、自分の従卒時代を思い出して「うわああああ」となる。自分もあんな感じで率直に「好きです!」という感情を沈賢恭に向けていたのかと思うと、恥ずかしさで死にたくなる嫁き遅れ女である。


 そんな個人的な事情はともあれ、彼がついたことで関小玉の仕事がますます楽になったことは否めない。従卒である楊清喜と関小玉は性別の違いがあるので、身の回りの世話の中で出来ないことはあるが、関小玉としてはそれぐらいでちょうどいい。なんでもかんでも人にやられるのは性に合わない。申し訳ないとかではなく、体がむずむずするのだ。



 おおむねうまくやっている二人。髪を切った一見少年にも見える女と本物の少年がてくてく一緒に歩いている姿は、なんとなく余人の笑みを誘う。

 関小玉のあずかり知らぬところであるが、楊清喜と一緒にいることで他者の感情が好意的になっていた。

 さて、関小玉が健康的に山歩きをしている最中、例の自警団連中がどうなっていたのかというと……。


 当然、関小玉が宣言したとおり放置である。

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