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ある皇后の一生  作者: 雪花菜
三章 異動
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「うそぉ……」

 関小玉は我と我が身を省みた。

 そうすることで何か変わって欲しいと思ったわけではなかったが、もしそれで事態が変わってくれれば、泣くほど喜んだだろう。


 窓からは明るい日差しが差し込んでいて、ちちちちちちとか鳴いている小鳥の声が耳に飛び込んでくる。


 わあ、良い天気。今日は洗濯しましょう。


 そんな風に思うことで日常に回帰したい。しかし、それをゆるさない物体が側にいる。


 自分の部下。なぜか裸。自分も裸。そして寝台の上。

 予断なく突きつけられる現実。


 状況から考えて、どう考えても情事の後である。記憶にないけど。

 密室で横たわった死体の近くに武器持った人間がいたら、「間違いなくお前犯人」と言えるくらい間違いない。

 というか、状況証拠云々以前に、やっちゃったことがわかるから、誤解ということはありえない。

 

 ……なんで記憶にないのにわかるのかは、ほら、まあ、あれだ。問うな。

 深呼吸して、状況を整理してみることにした。




 唐突だが、関小玉は左遷されることが決まった。理由は、新帝が父親に甘やかされた妹姫を苦々しく思って、嫁に出すことにしたからだ。その結果、彼女の側近くに仕えていた関小玉は、彼女が嫁に出されるのと同時に任を解かれ、僻地に赴任することが決まった。降格つきで。

「完全にあおりを食らった形じゃないか、それ」

 と、昨日周文林が言ったところは覚えている。よしよし、この調子で思い出せ。なんでこうなるに至ったかの原因を!

 そして周文林は酒をあおったのだった。ただ、関小玉は今回の処分に対して、あまり悲観していない。階級が下がるのは当然である。元々帝姫の側に仕えるために特別な措置として昇格したのだから、その任を解かれたら元に戻るのは当然だ。そして左遷されたことについてだが……実は、少し嬉しい。実家が近いから。

 うまくいけば、帰省だってできるはずだ。それも結構な頻度で。

 文林の手前、にやける面を隠すために自分も酒をあおったのだが……それ以上のことが思い出せない。ちくしょう自分の脳みその役立たずめ!


 しかし、だ。


 横で眠っている文林のヘタすればあどけないとさえいえる寝顔を見て、関小玉は思った。

 自分かこいつ、どちらが手を出したかといえば、間違いなく自分だろう……と。


 近頃男日照りの女と、童……失礼、恋愛に慎重な男。

 二人っきりのとき、どちらが相手に手を出すだろうか。

 というか、周文林の性格的に、自分に手を出すなどありえないだろう……と関小玉は思った。あくまで主観ではあるが。自分が周文林の上に乗っかったという説の方がはるかに信憑性がある。

 では、問題はこれからどうするか、だ。




「文林」

 呼ばれて起きたが、目覚めは最悪だった。

 頭が痛い。吐き気がする。しかし、妙にすっきりした気分もあって、何が何だかわからない。ゆっくりと目を開け……。

「……は?」

 視界に飛び込んだものを知覚して、さらに何が何だかわからなくなった。

 自分に向かって土下座する上官。

 そんなものを見る機会など、今後一切ないといえる。そんな希有な状況に加えて、自分が裸で、妙に体がべとついているという現実が何を示しているのか。聡明をもってなる周文林だが、全然わからなかった。単に経験がなかったからではあるが。


「小玉……これは……」

「えー……あー……大変、申し上げにくい、ことでございますが」


 ここまで歯切れの悪い関小玉に初めてお目に掛かる。彼女は土下座の状態から微動だに動かず、言葉を続ける。

「わたくし、貴殿を……えーその、『いただいてしまった』ようでございまして」

 ……それは、

「いや、わかるように言ってくれないか小玉」


 本気でわからなかった。


 その時、関小玉が「察しろ!」とか「それをあたしに言わせるのか!」と思ったかどうかは誰にもわからない。

 どこまでもこのような事態に不慣れな周文林だった。

 関小玉はしばしの沈黙した。言葉を探すかのように、「あー」だの「うー」だのつぶやいたあと、はっきりと言い放った。

「ごめん、童貞もらいました」

 周文林は思った。確かに「わかるように言ってくれ」とは言ったが、そこまではっきりと言えとは言っていない……と。

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