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ある皇后の一生  作者: 雪花菜
三章 異動
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 皇帝崩御の報を受け、戦場から帰還するまでかなりの日数がかかっていた。だが、戻って来てもまだ皇帝の遺体は埋葬さえされていなかった。

 あたりまえだ。皇帝の葬儀ともなれば、数日で終わるというものではない。また、皇帝の死はあまりにも急であったために、まだ陵墓の準備も整っていなかった。陵墓自体は完成していたことが、唯一の救いであろう。

 関小玉は戻ってすぐ、戦後処理にかり出されつつ、埋葬の際の警備の準備に取り組むことになった。皇帝の娘……帝姫が参列しない訳にはいかないし、関小玉はその護衛という立場になる。

 また、父親が死んで半狂乱の帝姫をなだめるのも関小玉の仕事だった。


 まごう事なき激務。

 だから、彼女の顔色がどんどん悪くなっていくのを、心配する者はいても、疑問に思うものはいなかった。誰がその立場にいても、体調を崩すであろう。


 それどころか、こんなことを言った奴さえいる。

「なんで閣下、死なないんですか?」

「元農業従事者なめないで」


 どう考えても失礼な発言だが、言ったのが“さわやか自己中”こと簫自実であるため、誰も気にしない。常に若干失礼な男だからだ。そういう点は黄復卿と重なる。ちなみに、この二人はこういう場合の例に漏れず仲が悪い。


 とはいっても、かつての関小玉と周文林のように「仲良くけんかする」という感じではなく、お互い用がある時以外は接触しようとはしないという感じなのだが。いや、こっちの方がタチは悪いか。


 ところで、今回の遠征で簫自実と彼の麾下は、関小玉の指揮下で戦う場面がいくつかあった。関小玉の希望ではなく、指揮される側の熱烈な自薦の結果である。

「ああ、やっぱり有言実行だった」

 ぼそっとつぶやく関小玉の目は死んで三日目の魚のようだったとは、張明慧のお言葉。彼女はたまに自炊するため、食材の鮮度を理解している。




 話はそれたが、そういうわけで、周文林も彼女が疲弊している理由を疑わなかった。

 “彼”に会うまでは。

「こんちわー」

 今日も今日とて、関小玉は後宮からやってくる。すかさず周文林と張泰は、書類を左右から時間差をつけて渡す。

「本日、損耗した武器の補充について……」

「あー、それ、まだやってなかったね」

「それから、本日、陛下のご葬列の際の配置について、合議があるそうだ。あとで呼びに来ると言っていた」

「それ、直前に呼びに来られてもなあ……いつ頃にやるのかっていう、だいたいの見通しとかは?」

「そんなもの、あるわけないだろう。このクソ忙しいさなかに」

「あーそう。そうだね」

 書類に目を通し、印を押し、指示を出す。多分今、彼女は「文字勉強していて良かった」と思っているだろう。配下である周文林が「文字教えといて良かった」と思っているのだから。効率が全然違う。



 やがて、呼びに来た下士官の声に関小玉は椅子から立ち上がった。

「文林、行くよ」

「わかった」

 周文林は文房具を持ち、関小玉の後に続く。歩みを進めていると、あちらこちらから高級武官とその副官が、横から合流する。同じ合議に参加するものだ。やがて何人も増え、人がまるで川のように、一つの方向へと向かう。

 ふと、前の関小玉が歩みを止めた。思いがけないことだったので、ぶつかりそうになった文林も慌てて立ち止まった。


「何を……」


 後ろから来た者が、少し迷惑そうな顔をして、彼らの横をすりぬけていく。そんな様子も気にとめないで、関小玉はややぽかんとして、ある方向を見ていた。周文林は彼女と同じ方に目をやり、一瞬とまどいを覚えた。

 関小玉と同じように立ち止まって、こちらを見ている者がいた。その後ろには、困ったように筆記具を抱えて立っている男がいる。今の周文林と全く同じ立場の者だろう。といっても、とまどいの原因は、その困っている男ではない。


「閣下」

 どこか呆けた響きの声を、関小玉が発した。呼ばれた相手は、口元を優しく和ませて言った。

「久しいな」

 今関小玉が「閣下」と呼んだ相手。その性別を判断することが見た目ではできなかったからだ。

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