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ある皇后の一生  作者: 雪花菜
三章 異動
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「閣下がそんなことをなさる必要はありませんわ」

「閣下、これ召し上がってください」

「閣下、どうぞこれをお使いください」

 関小玉が毎日必ず聞く言葉だという。


「あと、なんか練兵の時は関係ないのまでびっしり集まって見学してる。むやみにきゃーきゃー言われる。一対一で会話するとなんかもじもじされる。特に年下の女の子には。嫌がらせされているわけじゃないんだけどさ、なんかね……」

 彼女は深いため息をついた。

「わかっちゃった気がするんだ、あんたの気持ち。同性にもてもてでもうれしくないね」

 そんな共感はいらない。


「身の回りに男がいないからじゃないのか、誰か紹介すればいいだろう」

「ああ、それはね、あたしも考えた。ほら、結婚願望ありあり男たちに紹介するみたいな約束もしたからさ、『会って話でもしてみない?』って言ったら、『男なんて必要ありません』って返された」

「そうか……」

「なんか、あたしが昔いた頃とずいぶん変わっちゃった気がする」


 関小玉はどこか遠い目をしている。周文林は「昔」という言葉に興味をもった。彼女の過去。気になる。


「昔はどんな感じだったんだ?」

 関小玉は、んーと言って、頬をかいた。

「みんな割と結婚して退職したい気持ち強かったな。あたしはそこまでじゃなかったけど、結婚相手見つかったら退職するだろうなとか考えてた」

「……今は?」

「なんか、それどころじゃないって感じ」


 なるほど、では……。


「男とつきあう気はないんだな」

「いや、あるよ」

 関小玉はばっさりと切り捨てた。

「え?」

「はい?」

 二人はなんとなく何となく顔を見合わせた。

「待って待って、あたし今言い方悪かった気がする。男とつきあったり、結婚したりするのが嫌って訳じゃないのよ。でも、結婚したら仕事やめてくれって言われたら、気持ちが冷めるなあってとこ」

「それは……つきあってみないとわからないだろう」

 したり顔で言う周文林に、関小玉は手をぱたぱた振って言った。

「いや、経験談だから」

「え?」

「実際、結婚したら仕事やめてくれって言われて、なんか違うなって思ったことがあったってこと」

 周文林は完璧に固まった。関小玉が胡乱な目をする。

「あんたまさか、あたしがこの年まで男とつきあったことないって思ってたわけ」


 思っていた。


 何の根拠もなかったが、周文林からしてみると、彼女と交際しようとする男性がいるなど想像もできなかった。あと、彼女が恋をするという機能を兼ね備えていることも。

 が、関小玉はそんな彼の思い込みを木っ端みじんに粉砕し始める。

「いや、それはないよー。ていうかあたし、軍にいる間、3人とつきあってるよ」

「……さんにん」

「あと、軍入る前に振られた許婚含めると4人」

「……いいなずけ」

「あれ、言ってなかったっけ」

 聞いてない。

「あと片思いの人もいたけど、それは今回、数に入らないよね」

 淡い初恋でした〜と冗談めかしていう関小玉を、周文林はまじまじと見つめた。関小玉が生身の女性だということを、頭ではわかっていたが、今初めて実感した。

 ちなみにそれ以前の周文林の感覚では、彼女は「関小玉という名の種族」だったりする。


「ところでさあ、文林」

 にしし、と笑いながら関小玉がずいと詰め寄った。嫌な予感がする。

「な、なんだ」

「あたしにだけ話させておかないで、あんたも教えてよ」

「お前が一方的に話したんだろうが!」

「いいじゃない、さあ教えなさいよ、文林くんの恋愛遍歴!」




 小料理屋を経営する夫婦はそろって天井を見上げた。

「なんだかにぎやかだなあ」

「あの子、いくつになってもかわんないわよね」

「なんか、妙齢の男女が二人っきりっていう感じが全然無いな」

「あら、急に静かになったわ」

 正座して頭を下げる関小玉。そっぽを向く周文林。

「……ごめん、聞くんじゃなかった」

「……」

「あのー、あたしそっちの職業のお姉さんとも面識あるから、紹介しようか?」

「いらん」

「あー……恋愛に慎重な男っていいと思うよ、うん」

「……」

「帰ろっか」

「そうだな」

 どんな会話があったかは、推して知るべし。


 後日、関小玉が黄復卿に「あいつちょっとお姉様たちの中に放り込んであげてくんない」と頼み、周文林がそれを知って激怒する一幕があったとかなかったとか。

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