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ある皇后の一生  作者: 雪花菜
二章 ある少年
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 周文林は驚愕に目を見開いた。目の前には直属の上官と一人の男。

 しばし呆然と立ち尽くすと、関小玉がこちらを見た。そして相手の男と2、3言葉を交わしてからこちらへと向かってきた。

「いやー、通りがかってくれてありがとう。あの人に捕まると話長くて……まあ、知ってる人で、話短い人、一人しかいないんだけど」

 階級上がると話長くなるもんなのかな、あたしも気をつけんと、などと呟いている。

「あ、いやまあ……」

 動揺さめやらぬ周文林は、曖昧に答えた。

「ああ、今の彼はね……」

 そんな彼を見て、関小玉は今話していた相手のことに驚いているのかと感じたようだった。

「簫校尉だろ……ですよね。存じています」

 うっかり砕けた調子で話そうとして、慌てて口調を丁寧なものにする。人目がある。いつもはそんなこと、意識しなくても切り替えができていたのだが。

「なんだ、知ってたの?」

 今度は関小玉が驚いた顔をする。簫自実と自分たちは所属する衛自体が違う。だから知っているとは思わなかったのだろう。

「士官、将官の顔と名前は一通り」

 そして、関小玉が簫自実の下で短期間働いていたことも知っている。だから二人が会話していたことに関しては、意外性のかけらも感じていない。

「そりゃすごい」

「大したことでは……」

 珍しく心底感心した顔をする関小玉に、いささか面食らった周文林も珍しく謙遜した。


 が、

「いや、大したことだよ。味方の死体確認の時にすごく役立つもの」

 そう来たか。いや、大事なことなのはわかる。 


「……」

 微妙な気持ちになったが、怒るわけにはいかず、周文林は黙り込んだ。そのまま、なんとなく沈黙が続いた。

 関小玉もなにかを思い出したのかどこか暗い顔をして、耳にかかるかどうかというくらいの短い髪をかき上げる。


 そう、周文林を驚かせたその短い髪。


 昨日まではこんな長さではなかった。関小玉の髪はもとから短めだったが、今日の髪の長さは「短め」などという生やさしい代物ではない。男だってここまで短くないだろう。最初、関小玉とは思わずどこかの従卒の少年かと思ったくらいだ。

 なぜいきなり髪を切ったのか。理由を聞きたかったが、質問する時機を逸した。それに、女が髪を切るなど、相当の理由があってのことに決まっている。 

 それを聞いていいものかどうかためらわれた。文林は、もやもやした気持ちを抱えたまま、関小玉と肩を並べて歩いた。



 だが。

「お、切りましたね髪」

「うん」

 こともなげに指摘する張泰。黄復卿も笑いながら言う。

「いや-、アンタが髪切ると戦の時期が近づいたなあって感じですよね」

 もはや風物詩扱いである。

「……いつも、戦の前は?」

「うん、切るよ」

 尋ねる周文林に、関小玉はさらりと答えた。

「……願掛けか?」

「えっ、あんたあたしにそんな可愛げ見いだしてたの」

「まさか」

「だよね」

 じゃあなぜ。そう聞こうとしたが、

「あ、小玉。悪いけど明日の件で書類……」

「ハイハイなに? ハンコおしますわよ」

 張明慧が横から口を挟んできたために、それはかなわなかった。

 答えを求めてちらりと黄復卿に目をやると、意をくんだ彼は肩をすくめて言った。

「楽だから、だとよ」

「はあ?なにが」

「いや、髪短いと」

 例えばかぶとをかぶっている時に蒸れにくいし、血をかぶっても流すの楽だし、シラミとかの対策も楽だし……。

「そんな感じらしい」

 周文林は目をむいて叫んだ。

「そんなことで!?」

 この時代、女の断髪はよほどのことがない限りありえないものとされている。周文林には、関小玉の言い分がよほどのこととはとても思えなかった。

「いや、俺もそう思うんだけどね」

 黄復卿も苦笑いしている。

「そもそも最初に髪切ろうと思い立ったのはなぜ……」

「いや、はじめて戦に行ったとき、たまたま髪短かったらしくて。それであまりの楽さに以後ずっと戦の度に髪切ってるんだと」

「最初は驚きましたが、なに、そのうち慣れますとも」

 張泰がはっはと笑う。


 ちなみに、関小玉の言い分は『どうせ生きてたらまた伸びるし、死んだら髪の長さなんて関係ないし』である。

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