変な女
残りは、近日中にあげます
浅井祐。僕の名前。
蓮杖院ハルナ。目の前の女子の名前、かっこ自称。
現在、高校の下駄箱前。
かえってドラマの再放送でも見ようとしていたところに現れたこの女は、さっきから僕の進路をふさいで動かない。
「頼むからどいてください…」
「いやだ」
「僕、とってもいそいでるんですよ」
「うそだ」
「このままだと取り返しのつかないことになります(ドラマを見逃してしまいます)」
「関係ない」
さっきからこの調子。こっちの都合なんて考えていない。
「私はな」
女が無表情にいう。
「お前のことが気になって仕方ない」
「……」
「こんな気持ち初めてだ」
「……」
「たぶんきっと恋なんだと思う」
「……」
「聞いているのか?」
「はぁ…」
どうしてこうなった。
この女が僕につきまとうようになったのは丁度梅雨明けの頃だった。
どこかの世界のお決まりのように校舎裏に呼び出され、あろうことか告白された。
いや、告白はいい。ただ、動機がおかしかった。
それは彼女の下校時の出来事だった。土砂降りの雨の中彼女は走っていた。目の前に一人の少年が、おそらく捨られたであろう猫の入った段ボール箱を見ていた。
少年はおもむろにカバンからタオルを取り出すと、そのタオルに優しく猫をつつみ歩き去った。
で、その少年が僕こと浅井祐で少女が蓮杖院というわけだ。自分のことを少年とか表現するのはぞっとするけどそれはともかくとして。
「ギャップにやられた…」
ちょっとほほを染めた蓮杖院が照れながら言ってくる訳で。
かわいらしいが、ちょっと待て。
整理しよう。
浅井祐は品行方正で生徒の鏡となる人間だ。人から見た僕は人格者だ。その人間がたかだか猫一匹を拾ってやった程度でだれが気に留めるだろうか。不良ならわかる。普段素行の悪い人間が良い行いをしている場面に出くわし好意を持つ。いわゆる剛田さんのところのたけし君理論だが、それならありだ。けど僕は違う。
じゃあこいつは何を見てギャップといったんだ。
いや違う。
そんなはずない。
だって、あんな昔の事。
ありえないありえない。
いや
いや、もう認めてしまおう。
こいつはたぶん僕の秘密を知っている。
だから僕は――
「蓮杖さん、だっけ。ごめん、僕は君のこと好きじゃないんだ」
――こいつに関わらない。
「浅井どうした?」
「…なんでもない」
いかんいかん。
過去を顧みてる時じゃない。
今週の標語。今を生き、今と戦う。
いい加減、はっきりさせようか。
いろいろ。
「ねえ」
「なんだ?」
「君はさ、僕の何を知ってるんですか」