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LeGrand De LaGoon  作者: 新野篤史
トケイソウ
13/26

路地

 ペイジンの路地裏の広場で赤毛の女の子が一心不乱に何かを組み立てている。どうやら投石機のミニチュアのようだ。

 バルカがやってきて声をかける。

「リディア、なにしてるの?」

リディアは顔を上げると母親そっくりの快活そうな栗色の瞳でバルカを見て答える。

「このあいだエーベル先生が仕組みを教えてくれたから、面白そうだなって思って。」

「へぇ、あいかわらず機械好きだね。でも今は大砲があるから、投石機は使わないんじゃない?」

「そんなことないわよ。うまく使えばまだまだ現役だと思う。ようはその機械の性能をどう生かすかじゃないの?」


 二人が他愛ない会話に興じていると、路地の角を曲がってエーベルが表れた。彼は教え子たちを見つけて声をかける。

「やぁ、お二人さん。なにやってるんだい。ん?それは投石機かい?前に教えたやつだよね。リディアは機械工学に興味があるんだったな。また今度話してあげるよ。

 ところでなんだけど、ワキール見なかったかい?ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」

「私、今日は会ってないわ。いつもの子たちと水路に行ってるんじゃないかしら?」

「僕も見てないです。昨日はお父さんに診てもらってたみたいだから、もしかしたら具合悪いんじゃないですか?」

「そうかぁ、家にはいなかったけど具合悪いなら遊んでるわけでもないのかな?まぁいいや、そのうち出会うでしょ。

 そんなことより、二人とも昨日は大丈夫だった?なんか大聖堂で大変なことがあったらしいけど。」

「僕らは大丈夫でしたけど、大勢けが人も出たし、ガムザさんが焼け死んでしまったんです。」

「らしいね。なんでも全身炎に包まれた男が抱きついたとか。」

「みんな悪魔の仕業だ、なんて言ってたわ。」

「まぁ、精霊がらみだろうね。とにかく君たちに何事もなくてよかったよ。

 それからもう一つ。バルカ君、昨日からお父さんの所にお客さん来なかった?」

「今日の朝、誰かに会いに行ったみたいでした。どうかしたんですか?」

「いや、ちょっとね。もしかしたら、奇跡的に知り合いがきてたりしないかなぁ、とか思って。」


 エーベルが行ってしまうと、バルカはリディアに話しかける。

「エーベル先生、なんか変じゃない?絶対自分から人探したりしない人だと思ってたのに。」

「なにか事情があるのよ、きっと。奇跡とか言ってたわね。大変なことなのかしら。」

「そう言えばワキールを探してるって言ってたし。あの子、予言者なんだよね。先生は奇跡を待ってるのかな?」

「そうかもね。先生に奇跡が起こるといいわね。」

リディアの言葉を聞いて、バルカが難しい顔をする。「どうしたの?」とリディアが尋ねると、バルカは真面目な口調で話し始める。

「僕、正直言うと奇跡ってあんまり好きじゃないな。昨日の事件もある意味奇跡でしょ?みんながよろこぶ奇跡ってのは実は以外と少なくて、たいていどこかで誰かが悲しんでるような気がするんだ。奇跡が起こっちゃったから、今までの努力が無駄になった人とかもいると思うんだよね。そう考えると、僕は神様のことあんまり好きじゃないや。」

「うーん、そういう話は私よくわかんないや。でも実際、神様はいるし奇跡も起きるんだから仕様がないよ。だけど、どう考えるかは自由でいいと思うよ。」


 広場に面した扉が開き、10歳前後の年齢のわりには背の高い男の子が出てきた。浅黒い肌に黒髪、彫りの深い顔の奥で黒い瞳が光っている。ワキール・アブド・アル・アドルは典型的なシャリフ人の見た目をしている。貧民街に暮らしているにもかかわらず非常に身なりは整っている。ワキールの家はもともとシャリフの名門だったが、わけあって今はペイジンストリートで暮らしているらしい。

 バルカとリディアは広場に現れた彼を見ると、話をやめて駆け寄った。すぐさまリディアが口を開く。

「ワキール、どこ行ってたの?エーベル先生が探してたわよ。」

ワキールは心なしかうれしそうにこう言った。

「今日は聖堂に行ってたんだ。昨日は大変だったみたいだけど、どうしても確認したいことがあってさ。俺、昨日バルカのお父さんに頼んで、今日修道士と会わせてもらえることになってたんだ。」

「そうだったんだ。で、何を聞きたかったの?」

「うん、俺の能力についてなんだ。このあいだ、前に話したのと同じ夢を見た。で、昨日、訳の分からない事件で人が死んだ。俺の夢と奇跡が関係あるような気がして、それでちゃんと確認しようと思ったんだ。」

「で、結果はどうだった?」

「まだ、はっきり決まったわけじゃないけど、どうも神様の”足音”が聞けるみたいなんだ。その修道士さんの予想では、一回目の夢は俺がその能力に目覚めるって奇跡、二回目は昨日の事件なんじゃないか、って言ってた。で、もう少しすると、もっとはっきり能力が使えるようになるらしくて、夢じゃなくてリアルタイムに”足音”が聞けるようになるはずなんだってよ。」

「スゴいじゃない、ワキール。そしたら、奇跡が起きるときは私にも教えてよね。」

「わかったよ。じゃあ、俺、エーベル先生探しに行くから。」


 ワキールがいなくなると、広場は再び二人だけになった。リディアはバルカにこう言った。

「ワキールの奇跡は誰かを不幸にした?ワキールが悩んでたの知ってるし、私たちとってもうれしいじゃない。案外奇跡って悪くないと思うよ。」

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