ブレノ博士の政治学講座ーその2
いやはや、昨日は大変でございましたな。幸い陛下はじめ皇族の皆様にお怪我はなかったようですが、それにしてもあんなことになろうとは。おっと、あまりよけいなお話でご機嫌を損ねてしまわれても困りますので、そろそろ始めさせていただきますぞ。
今日は外交のお話でしたね。貿易大国でもある我が国は世界中のあらゆる国々と関係を持っておりますが、今回は周辺国に限ってお話しいたします。すなわち、テルマ、シャリフ、都市国家連合、そして教皇領についてでございます。
テルマ、正確にはトリグレス朝テルマと申しまして農業を中心とした北の大国にございます。帝国とはヌベス山脈を境に長年にわたり対立と共存を続けてきた、いわばライバルですな。軍事力は強大で、隙あらば南部への進出を狙っております。もっとも最近では20年ほど前に戦争がありました。帝国の外交のうえでもっとも注意を払うべき国と言っていいでしょう。
シャリフは帝国の内海である中つ海の南側、セレスタ大陸北東部に位置する貿易国家でございます。かつてはセレスタ北部をその手中に治めていましたが、セイディエス帝国の拡大にともない現在の領土まで縮小しております。しかし侮ってはいけません。優れた航海技術を持ち、現在も海上貿易の重要な担い手であると同時に、強力な海軍を有しております。また戦象部隊を主力とした陸軍の実力も確かなもので、国力自体はまだまだ衰えを見せておりません。
以上の2カ国とは対立関係にあるものの、経済的には切り離せないパートナーでもあるのです。各国の情勢を見つつ、いかに良好な関係を続けるかが焦点となっているわけです。
さて、少々おもむきが異なるのが都市国家連合です。テルマの西部、アトラス大陸の西端には数多くの都市国家、あるいは小国が存在します。彼らは互いに争いつつも外部の敵に対抗すべく一種の連合体を組織しております。帝国とは、海とテルマ領に挟まれたヌベス回廊と呼ばれる幅数10キロの帝国領土を通して、わずかに国境を接しております。セイディエスとは基本的に中立を保ち、我々もすべての国と関係を持っているわけではありません。連合内にもいくつも同盟が存在し、帝国とは、国境を接しているアリエス同盟とは国交を持っております。小国の集まりであるため、周辺の情勢に伴う変化が大きく一種のバロメータの様に見られることもあります。
最後に教皇領ですな。これは厳密にいうと国ではないのですが、帝国の存在理由でもあるゆえ非常に重要です。ミラ教の成立は今から約1000年前といわれております。この成立を紀元としているのが、現在我々の用いている「聖歴」でございます。今年は聖歴1003年ですね。
ミラ=ナヌスや精霊の存在は世界共通の概念として認められていたものの、当時は教義の違いから対立が絶えず、教皇様は自身とミラ教を守る「守護者」を求めたわけです。そして、「守護者」として任命された人物は皇帝を名乗り教皇領を敵勢力から守る役割を負うことになります。この1000年でいくつかの帝国が守護者となりました。ここ300年はこのセイディエス帝国ガルダン朝がその任を負っております。
当然のことですがいずれの国家もないがしろにすることはできません。将来国を支えるクロード様にはぜひとも必要な知識である、と申し上げておきます。では、次回は財政と貴族階級のお話をいたしましょう。