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LeGrand De LaGoon  作者: 新野篤史
トケイソウ
11/26

誤算

 「なぜだ!なぜ、こんなことになる!警備は完璧だった。想定しうる事態にはすべて配慮した。にもかかわらず、これは何だ!」

ダスティンは目の前の凄惨な光景を前にして思わず床に崩れ落ちる。ナヴィアス大聖堂は黒煙に包まれ、髪と肉の焼ける強烈な臭いが鼻を突く。負傷者が多数出ているらしい。煙の向こうから響くいくつもの叫び、呻きが事態の深刻さを生々しく訴える。

 突然だった。全身に炎をまとった人間、いや、むしろ炎が人のかたちをしたもの、が聖堂内へと転がり込んできたのだ。灼熱のそれは聖堂いっぱいの群衆をその炎に巻き込みながら一目散にガムザ司教に向かって突進し、彼に抱きつくと自身もろとも司教を焼き尽くしたのであった。その熱と炎のため、警備はおろか誰一人として司教に近づくことさえ出来なかった。


 狼狽しつつもなんとか事態を落ち着かせたダスティンは事態を飲み込もうと必死である。現場に残されたのは全身真っ黒にこげたガムザ司教の変わり果てた死体のみであった。どう見積もっても犯人分の質量は見当たらない。完全に燃え尽きた、ということなのだろうか。「悪魔に憑かれたのか?」ダスティンはふとそんなことを考える。しかし、彼は信じられない。「悪魔などというものはおとぎ話の中だけだ」そう思い込んでいる。第一、生まれてこのかたそんなものを見たことがない。実際、教皇のお膝元であるセイディエスにおいて、悪魔がらみの事件などというものは全くと言ってよいほどおこらない。彼を含め多くの国民は悪魔とは無縁のところで暮らしてきたのだ。

 ダスティンは状況を整理する。

「まず、やるべきことは2つだ。犯人の特定、手段の特定。そして、結果として狙われていたのはルイ皇子ではなくガムザ司教だということが判明した。宰相のいうことが正しいとして、果たして誰が黒幕なのか?こちらは職務と切り離して別に調べる必要が出てきたようだな。」

 彼は部下を呼ぶと指示を与える。

「まずは犯人の特定だ。現場から割り出すのは全くの不可能だろう。さっき報告にあった『不審な男』との関係が濃厚だ。第十一分隊の者が帰還次第、調査を始めろ。それから殺害方法に関してだが、受言者がらみの可能性もあるな。これはナヴィアス聖堂の者に聞いた方が詳しくわかるかもしれない。以上のことに全力を注いでくれ。」


 聖堂を後にしたダスティンは警邏隊の制服から着替えると、ひとまずワイミー地区へと足を向ける。歩きながらも彼は思案に暮れる。「この調査は公に出来ない。つまり政権に近い人物へのアプローチは十分慎重に行う必要があるわけだ。そして、名前の挙がった五名の身の安全についてだ。今回のことからするとクロード様は確実に対象外だ。ルイ様に加担するならガムザ司教は有力なカードとなりうるからな。そうするとクロード様に近いマリア様、オレフィス将軍も除外でいいだろう。陛下にはウェイさんがついているとして、アプローチと護衛の両面から考えてヴァレスト先生からあたるのが正解だろうな。」

 しかし、ヴァレストについては決定的な問題がある。どこに住んでいるのか誰も知らないのだ。ワイミー地区に家族と暮らしていることはわかっている。普段は町医者として住民の診察をやっているらしいということも知られている。問題はあの貧民街のどこに住んでいるかである。「つまり、あそこじゃ結構な有名人ってことだろうな。」そう考えたダスティンはひとまずワイミーで人が集まりそうな場所を探すことにする。


 ワイミー地区は首都ナヴィアスでもっとも貧しい地区である。ミゼリ河に面した旧い地区で、現在は使われていない水路や100年以上前の建物がそのまま残っていたりと、ありとあらゆるものが混在した町である。その町並みもさることながら住む人も多種多様、あらゆる人種、民族が混ざり合って存在している。長年、犯罪組織やならず者の温床として、ダスティンと、管轄である第十一分隊の頭を悩ませている場所でもある。


 ワイミーに着いた頃には日も暮れ始めていた。家々にともり出した明かりを眺めつつ、ダスティンは行き交う人々で雑然と込み合ったメインストリートを歩く。彼は若干の息苦しさを感じ、人ごみを避けようと脇道を探す。ふと横を見ると酒場らしい看板が目に入った。中から漏れ聞こえる喧噪から、かなり繁盛していることがうかがえた。

「とりあえず、あそこで情報収集だな。」

彼はそうつぶやくと、『BRIGHT』と彫刻された木製の小さな扉を押すと、騒がしい店の奥へと消えて行った。

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