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灰色の煙の中で  作者: 鈴埜


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3.青褐の底1

 机の上へ無造作に置かれた段ボールの山は、気付けばその周りも浸食していた。半端ない量にげっそりしつつも片付けなくては先へ進めない。

 白川雪之丞(しらかわゆきのじょう)は気合いを入れ、その山に臨んだ。


 特殊警防課の部屋は地下にあり、少々変わった造りになっている。扉を入ってすぐは来客用のソファーと机。これが実は高級品で、見る人が見れば分かる品。


 そこから奥への扉を開けると、白川や他のメンバーの机がずらりと並ぶ。今は十二あるが、実際の職員はもっと多い。普段から外に出ている者がほとんどなのでいつもがらんとしていた。


 そのさらに奥へ行く扉がある。ここが、最も奇妙な空間であり、この特殊警防課最大の目玉商品が鎮座する間だ。今は固く閉ざされていた。

 腕まくりをし、事件の証拠品をサイコメトリーしようと構えたところに内線が入る。


『ユキ、ちょっと来い』

 目玉商品からの呼び出しだ。


 大切な証拠品なのできちんと手袋をした手で片付けてから奥へ向かう。ノックをしてドアを開けると、そこにはすぐ眠りの旅へ出てしまえそうなくらいふかふかのソファーに座った特殊警防課課長こと藤本すみれと、見かけない青年が立っていた。二十二、三だろうか? 大学を出たばかりですといったような甘さを残した顔をしている。悪くないが、自分の方が上だな、と内心満足する。ジーンズにシャツと軽快な服装で、そのあたりも今の印象を補強していた。


「おはようございます」

「おはよう」


 女だてらに課長職についている藤本は、艶やかな髪の毛をセミロングに切りそろえた、服装がいつも挑戦的な美人だ。今日も真っ黒なミニスカートが眩しい。しかし、外見に騙されてはいけないのだ。この美人は、底なしの鬼だ。


「後でみんなにも伝達するが、こいつは今日から配属された新人だ」

 説明されると同時に、よろしくおねがいしますと新人君が頭を下げた。こちらも軽く頷く。


「深沢牧人です。マキトと呼んでください」

 どんな挨拶だ。バイト先で相手に名前を覚えてもらうためのものではないというのに。趣味を語り出さなかっただけましか。


「マキとユキ……女の子みたいな名前同士で良いコンビだ! てことでお前、こいつの担当な」

「ストォーーップ! なんですか、その運命の出会いみたく話を持っていって強引にことを進めようとするのは」

「不満なのか」

 鬼の眉がきりりと上がる。こちらの胃はきりりと締め付けられる。


「不満というより適正の問題ですよ。僕は朱鷺子ちゃんで失敗してますから」


 隣の部屋に唯一存在した少女。まだ二十と若くて可愛い彼女は警防課に入った当時白川が面倒を見ることとなった。とある事件で彼女たちを勧誘したのが彼だったので、その方がなじみも良いだろうとの配慮……だったはずなのだが。

 朱鷺子はそれでなくても性格に難ありで、能力者が必ず一度は入る訓練所でもものすごいことになっていたらしい。白川ごときに従うはずもなく、現在は課長の命で動いていた。基本的に内勤。彼女を御せる唯一の男が大学を出るまでの辛抱だ。


 とはいえ、朱鷺子も最近ではさすがに周りに慣れたのか、挨拶をすれば挨拶を返してくる程度には成長している。

 ――白川以外は。


「お前が朱鷺子に半端なく嫌われているのはこの際どうでも良い。私はマキをお前に任せると言ってるだけだ」

「だーかーらー、僕は教えたりするの下手なんですよ。彼を立派に育てたいならそこら辺上手な教育係に任せればいいじゃないですか」


 白川の攻撃ターン終了。次は課長の攻撃ターン。防御に身を固める。が、彼女は薄い笑みを浮かべたまま黙り込んだ。沈黙状態になるような強い攻撃を与えたつもりはない。これは、嵐の前の静けさ。最大奥義が繰り出されようとしている!!


「そう言えばこの間、航くんとえらい目に遭ったそうじゃないか」

「ぐっ……」


 顔が引きつっていくのが分かる。黒崎やつが余計なことを喋るとは思えない。この人は絶対……見ていた。間違いない。

 S級クラスの透視(クレアヴォヤンス)能力者である藤本は、この地下にありながら都内ならどこでも視ることができた。

 きっとあの時の黒崎と自分を視ていたのだろう。


「お前の能力は攻撃性に欠けるからな。運が悪けりゃ二人とも墓の下だっただろう。そこで、こいつだ」

 くつろぎまくった彼女は顎で深沢を指す。


「能力は念動力サイコキネシス」

「えっ!? マジっすか?」

 超能力の定番と思われがちのPK(サイコキネシス)は、警防課にはあまりいなかった。朱鷺子ともう一人だけだ。朱鷺子が難ありなだけに、もう一人の方はそれこそ目の回るような忙しさで特定現場へと連れて行かれている。深沢が戦力となれば仕事がぐっと楽になるだろう。


「でも、それこそ左近さんの元で訓練した方が良いんじゃないですか? 左近さん楽になるだろうし」

 同じ能力者の方が能力の理解も良く、教え方も心得ているだろう。

 しかし、そこが白川の愚かなところだった。彼女に対しての認識が、まだまだ甘い。


 藤本は心底不思議でならないという顔で白川を見返した。


「なんで左近を楽にしなければならないんだ?」

「え……だって、ほとんどここにいないし、忙しそうで……」

「馬鹿だなぁ。PKがこの部屋にいて何の役に立つ?」

「……」

 隣の部屋の朱鷺子を思い浮かべるが黙殺した。あれは規格外。


「部下はな、倒れる一歩手前まで有効利用してこそなんだよ? 大体あのマッチョがそうそう倒れる訳がない」

 ガタイが良く人の当たりの良い長谷川左近を思い浮かべる。彼がこの場にいたらなんと答えるだろうか。いや、何も言わずに笑顔のままであるだろ。それがここで生きるすべだ。


「ただ、その一歩手前状態でこれからしっかり勉強させなければならない若造を付けたらさすがのあいつも倒れるだろう? だからといって仕事量を減らしたら回らなくなってしまう。あいつはうち一番の働き者だからな」

 働かせているの間違いだ。馬車馬の如く。働き蟻は所詮女王蟻に敵うわけがないのだ。


「で、話が元に戻るわけだ。お前の能力は攻撃性がない。もしもの時があったら困る。勉強がてらマキの教育を宜しく頼むよ」

 もしここで引き受けなかったら本当にあの優しい先輩が倒れる可能性も出てくるわけで、もう断ろうにも断れない状況だった。諦めて深沢を見る。


「宜しくなマキ。俺は白川雪之丞。ユキで良いよ」

 彼に悪いところは何一つない。笑顔で向かえてあげよう。


「宜しくお願いします、ユキ先輩。僕はマキトで!」

「分かったよ、マキ」

 笑顔で。

 ちょっと意地悪な気分なんだ。




 そんな紹介が終わって課長の部屋から出てくると、白川はまず美味しい珈琲の入れ方を伝授した。豆は良いものを使っているし、水もちゃんとミネラルウォーターで入れる。


「警察って、こう、あんまりお金ないイメージだったんですけどそうでもないんですね」

 とは深沢。多分この部屋を見て言っているのだろう。


 よくある灰色の机ではなくファッション性が高いそれでいて機能的な、どこかのやり手ビジネスマン風なテーブルがいくつも配置されていた。その上に置かれているパソコンやタブレットも新しいものばかりだ。


 確かに、一般的な警察の風景とはかけ離れていた。

 ちょっと洒落たオフィスだと言えばそれで通る。


「いや、ないよ。金。だって血税使って贅沢なんてするわけにいかないじゃないか」

 白川の席の隣のやつはまだ来ていなかったので、その椅子を深沢に勧めた。

 そして声をひそめる。


「入り口から来てなんか思わなかった?」

「……豪華だなって思いましたけど」

「だろ? 実はあっちの方の扉の奥にかなりでかいバスルームまであるんだ、ここの課の部屋」

「え?! なんでですか?」

 当然の反応だ。


「うちの課長の能力は本当にすごいんだ。あの人も自分の使い方を心得ていて、犯罪現場を押さえることが多い」

「透視でですか?」

「そうそう」


 それでいて超能力というのはその時の個人の体調に左右されるところが大きい。彼女が発見し、通報した大捕物中、ちょっと頭が痛くなってきたと言って犯人を逃してしまいそうになったことが過去何度もあった。彼女の能力を知っている人間は電話越しに望みは何だと叫ぶわけだ。


 いつも無茶苦茶言うわけではない。たまに、相手が仕方ないなと思う範囲で。どうせ嘘だろうと分かっていても、それを証明する手だてはない。彼女は勤務時間外に善意で発見したことを報告し、あくまで協力しているわけであって、なんの責任も負わぬ立場にいるのだ。


「人の気持ちの動きを掴むのが犯罪的に上手い。残念なことにここへ来てしまったからには課長に使われる立場となったわけで……覚悟しろよ」

 心なし顔色が悪いように思えるが、深沢は素直に頷いた。


 まずは第一段階クリア。これくらいの伝説を植え付けておけば、さらに繰り広げられる新たな伝説にもなんとか対応できるだろう。

 この程度はまだまだ序の口だ。


「さて、どうしようかなぁ。もうすぐ六時か。マキは夕飯は?」

「あ、まだです」

 白川は今日は夕方から朝にかけて詰めるようになっていた。基本的に課長はここに住んでいるので、どんなときでも対応できると言えば出来るのだが、それはあくまで公になっていない共通の認識だ。よって一応誰かが常にここにいるよう割り振られていた。特殊警防課がらみの事件もいつ何時起こるとも分からない。


「朱鷺子ちゃんは、まだ帰らないの?」

 彼女はその割り振りの中に当てはめられてはいない。常に五時で上がりだ。

 朱鷺子は白川の問いに軽く頷いて、またパソコンの画面へ視線を戻す。

 会話が続かない。


「えっと……、なんでか聞いて良い?」

 沈黙が続き、深沢がそわそわとし出す頃、ようやく返事をもらうことができた。


「浅葱が七時に向かえに来る」

 彼女の席は結構遠く、テーブル五つ分ぐらい先だ。ギリギリ聞こえた返答に白川は頷いた。


「夕飯は浅葱君と一緒なんだね。そしたら、マキ、君は課長の部屋に行って俺と、課長と、自分の分の夕飯を作ること!」

「……夕飯?」

「課長の部屋には台所と食材もあるから。ちなみに不味いと机ひっくり返されるぞ。料理したことないなら無難なものを選べ。ゆでるだけとか、湯を注ぐだけとか」

 健闘を祈ると深沢が送り出されて一分もしないうちに課長が顔を出してきた。


「こら! ユキ、あんたが作りなさいよ!」

「新人教育の一環ですよ? 課長が僕にやれって言ったじゃないですか」

 美人な顔を醜く歪めて彼女は舌打ちをする。


「お前の手料理が食べられると思ったのに」

 ここでそんな言葉を聞きたくはなかった。可愛い女の子に言いたい言葉である。


 さらなる罵詈雑言が飛び出すかと思いきや、しかし彼女は打って変わっての笑顔を浮かべた。白川の後ろの方を見ている。


「失礼します」

 嫌な、声だ。天敵の声。


「ああ、いらっしゃい」

 その受け答えもどうかと思う。

 しぶしぶ白川は後ろを振り返った。

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


期待の新人PKのマキちゃんが参戦。

ご挨拶事件パート2!!

まあ、ようはお化け案件と、超能力者案件でやっていきたい所存。

こういった話が好きなの。

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