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灰色の煙の中で  作者: 鈴埜


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11.梔子の狩人5

「犬養まつり。彼女の能力は人の記憶を読み取りそれを絵に表す能力。彼女の能力はとっても利用価値の高いもので、彼女を守るためにも、他の能力者を近づけて危険にさらさないよう、古賀さんは彼女と行動をともにする。俺とはよく仕事をするよ。俺がサイコメトリーで見たものを、まつりちゃんは俺から読み取って絵に描くんだ。今回狙ってるのは対象の顔だね」

「でもそんな風に守らなければいけない人なら、現場まで連れて行くなんてことしなければいいんじゃないですか?」

 深沢が当然の質問をすると、白川は悩ましげにうなずいた。


「そこが俺の能力の弱点というか……サイコメトリーしたものってさ、結構忘れやすいんだ。時間が経てば経つほど輪郭が曖昧になる。ぼんやりしたり、他の情報と混ざってしまったり。知ってる人の顔なら平気なんだけど、読み取ったものは情報の劣化が激しい。眼球を通して、視覚から得た情報でないってところがポイントなのかなとも思う」

 俺がもっとしっかりしてたらなー、とつぶやく白川の横顔に、思わずぶつけたくなる質問。


「きれいな人なんですか?」

 まつりの名を口にするときは一瞬にやける。今もそうだ。


「きれいになるのは十年後だな。今は可愛い可愛い子。今年で八歳」

 それは――、


「……犯罪ですよ? ユキ先輩」

 許容範囲が広すぎる。


「ばっか! 紫の上計画に決まってるだろう。俺は十年後を心待ちにしている」

 自分がさらに十歳分、年を重ねることは考えに入っていないらしい。


「もーさー、こーふわふわっとした綿菓子みたいに可愛い子でさ。お前、もしまつりちゃん泣かせたら俺はずっとお前をいじめ続ける」

「容姿がよい女性なら誰でもいいんですか?」

「なわけないだろう。さすがの俺も藤本課長は守備範囲外」

 さらりと恐ろしいことを言う。


 しかし、鼻息荒く語る彼に、深沢もちょっと楽しみになってきた。施設では他の能力者に出会うことは滅多になかった。会ったとしてもあまり言葉は交わさない。PKを使う何人かと一緒になってコントロールすることを練習してきただけだ。


「まあ、だから二人とは大丈夫だろうよ」

 思わせぶりなその台詞に次の疑問を投げかけようとしたが、車が霞ヶ関に到着した。

 車から降りると電話が入る。


「まつりと古賀は第八会議室だ。ちょっと長引いているみたいだから迎えに行ってやれ。そのまま行けばよい」

「はい。わかりました」

 第八会議室は、大勢が集って話し合うような広さの部屋ではなかった。

 しかし、小さな少女とよれよれのジャケットを着た男が二人だけでは、広すぎる空間だ。


 ノックをしようとすると、内側へドアが開かれる。顔を出したのは古賀だった。彼特有の能力で、二人の行動は把握済みだったのだろう。


 唇に人差し指を当てたので、二人は静に中へと招かれる。


 まつりは机の向こうで、一心不乱にスケッチブックへ鉛筆を走らせていた。

 親の趣味なのだろうか? 深沢にはなんというスタイルの服装かはわからなかったが、白と赤とピンクでレースやフリルがついている、とてもかわいらしい格好をしていた。黒くて長い髪に薔薇のカチューシャをつけている。


 白川が騒ぐのも無理はないと思った。

 確かにとんでもなくかわいらしい子だ。


 部屋に入って十分ほどすると、彼女は大きなため息をついて前を向いた。

 そこで初めて二人が来ていたことに気付いたのだろう。目を丸くしてから徐々に笑みが広がる。


「お疲れさま。描けた?」

 白川も満面の笑顔で彼女に近寄って行く。まつりはスケッチブックを古賀に渡した。


「うん。でもあれをあの子にもう一度見せないといけないのがかわいそう」

 そうなの? と白川が古賀を見ると、彼は頷いた。


「事件の犯人を目撃しているんだが、ショックで口をきけなくなっているんだ」

 古賀が、外見に似つかわしい低い声でぼそぼそと理由を話した。

 モンタージュという手もあったのだろうが、それでなくても精神的ショックの大きな子どもに対して迷うところがあったのだろう。まつりの能力は有効だ。それでも、もう一度確認を取るために本人に見せなければならない。


「これを届けてくるから、まつりをよろしく」

「はーい、任せといて」

「古賀さん、いってらっしゃい」

 彼が出て行くと、まつりは椅子に座ったまま深沢を見る。黒目がちのぱっちりとした瞳に見つめられると、なんだかどぎまぎしてしまった。そんな深沢を見て白川が笑う。


「こいつは特殊警防課の新人。深沢牧人。能力はPK。まだまだひよっこだから先輩としてびしばし指導してあげてね」

 すると、彼女は椅子から降りて深々とお辞儀をした。


「犬養まつりです。よろしくおねがいします」

「こちらこそ」

 慌てて同じようにして頭を上げるとき、目が合う。


「マキちゃんって呼んであげて」

「マキちゃん?」

「いや、マキトでっ!!」

「マキトさん?」

 あ、それはなんか寂しい。

 そう思ったのが顔に出たのか、まつりは少しだけ首を傾げた。


「じゃあ、マキトくんは?」

「それでお願いします!」

 完全にまつりのとりこになっている深沢を見て、白川は満足げにうなずく。


「まつりちゃん最近は学校行ってるの?」

「うん。おうちも近くにひっこしたし、なるべくいくようにしてるの」

「それがいいね。学校は楽しい?」

「とっても。先生もおともだちもみんなやさしいよ」

 二人して、そりゃあよかったと相槌を打っているところに、古賀が帰ってきた。

 少し離れた場所にあった白い帽子を取ると、まつりにかぶせる。その動作が手慣れていて、なんとなくほほえましい気分にさせられる。


「終わったかな? それじゃあ行こうか」

 白川が先に立って歩き、深沢もその後を追う。たまに出くわす署内の人間は、後ろ二人の組み合わせに好奇の目を向けてきた。


 駐車場にたどり着くと、白川は運転席の後ろのドアを開ける。


「さ、どうぞ」

「ありがとう」

 古賀はさっさと反対側から乗り込み、深沢も慌てて助手席に納まった。

「古賀さん、こいつ深沢牧人。うちの新人。PKだから今後も一緒に仕事することが多いと思う。宜しく」

「宜しくお願いします」

 後ろへ頭だけ向けると、古賀は軽くうなずいた。


「それじゃ、始めますか。古賀さん、いい?」

「ああ。クリア」

 古賀の号令に従って、白川は普段よりゆっくりと車をスタートさせた。


 法定速度きっちりに進む彼の車は途中煽られながらも目的地へ近づいていく。


「本当は深沢も現場に連れて行きたいんだけど、今日はまつりちゃんのボディーガードだからお前車で待機。古賀さん、運転席任せていいですか?」

 彼は言葉で答える代わりにやはり黙ってうなずく。バックミラーでそれを確認する。

 さっきから小さな携帯電話ぐらいの端末をずっと見つめていた。


「少し離れたところに止めよう」

 現場近くのパーキングに止めると、白川が車を降りる。古賀も同じようにして彼からキーを受け取った。

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