風呂無し駅徒歩5分の舞踏会付き物件はどうですか?
僕が親から管理を任されたこのアパート。築50年を超えて、しかも風呂無し。駅徒歩5分だけど、各駅停車の駅が見える線路沿い。軽快に通過する快速の音が毎朝を彩ってくれるので、目覚まし要らずだ。
しかしこの部屋では二ヶ月前から、それどころじゃないことが起きている。押入れが何故か、異世界に繋がってしまっていた。開ける度に、王宮の舞踏会ホールにある大時計の下に出てしまう。童話だったら末っ子のヤギが隠れそうな場所だ。
初めて気付いた時、舞踏会の最中じゃなかったのだけが救いだった。掃除中だった執事のアンリさんを随分驚かせてしまったけど。
この奇妙な状態で貸し出しは無理かと諦めかけたが、税金の支払い期日は近付いているし、この部屋を遊ばせて置けるほど余裕がない。
いっそ正直に明記したら大丈夫だろうと『舞踏会物件』と記載したところ、「誤植ですよ」と親切な連絡が三件も入ったらしい。うるさい。
「これこそ差別化なのに」
その矢先、初めて内見の連絡が来た。流石に鍵開けに立ち会うことにする。
「舞踏会物件ってどういうこと!?」
やって来たのは、やたらスタイルの良い女性だった。聞いてもないのに身の上話をあっけらかんと話し、プロのダンサーを目指している話まで辿り着いた所で、部屋の鍵を開けた。
「まあ間取りはフツーなんで割愛しますが、舞踏会はコレです」
「なにこれ!ヤバ」
押入れを開けた先では、ちょうど今は舞踏会の真っ最中らしい。
「どーゆう仕組み!?」
「さあ?気付いたらこうなってて」
「コレ、アタシもドレスとか着たら参加できます?」
「あ、ハイ。執事のアンリさんが、出入りの時しか招待状は確認しないから、此処からなら特に気付かれないって言ってました」
「マジウケる。アンリさん優しい」
「何度か話して、今じゃお茶する仲になりました」
「凄!管理人さんコミュ強じゃん。いいなー」
すっかりタメ口になった彼女は、舞踏会の様子を暫くぼんやり眺めた後、「ココにします!」と決めてくれた。
契約書には、特約事項も盛り込んでいる。友人の弁護士には微妙な顔をされたけど、舞踏会付きの保証が出来ないため、なんとか記載に漕ぎつけた。
「アンリさんと友達なんでしょ?今度アタシのことも紹介してよ」
引越し早々押されるままにSNSを交換し、彼女とはDMでのやり取りが始まった。舞踏会参加に向けて、約束が進む。




