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AI探偵・上尾藍  作者: てこ/ひかり
第一幕
6/14

Case6. 謎の組織登場!

「ハックション!」


 ある日のこと。藍たちは近所の海水浴場にいた。

 青い……というよりちょっと濁った黒っぽい海。

 白い……というより、貝殻やゴミや、空き缶やらがそこらに転がった砂浜。


 事件の依頼があった……訳でもない。真実としては事務所で『名探偵コナン』の続きを読んでいたかったが、AIが

『ここら辺で一度水着回を挟んで、お色気ネタで読者の興味を惹きつけましょう』

と提案したからだった。

いやぁ、AIにそう提案されちゃ仕方ないナァ。作者は事務所スタートで良かったんだけどナァ。真実はいつも一つ!


「ハーックションッ!」

 水着姿の藍が震えながらくしゃみを繰り返した。風が冷たい。雲は厚く、小雨も降っている。周りに客は1人もいなかった。それもそのはず、季節はもう初冬である。

「ハーッ!」

「バカじゃねーの」

 肉まん片手に、遠目でその様子を見ていた真実が呆れた。こちらはニット帽に分厚いジャケットを羽織り、爪先から頭まで極暖(ぽかぽか)だった。


「なんでこんなクソ寒い時に水着になってんだよ。頭脳は子供か」

「クションッ! でも……でも人気のためだから。それに今の時代、裸で水風呂だとアニメ化された時ノイズになっちゃうかもしれないし」

「知らんがな。この作品のノイズじゃない部分どこだよ」


 まるで虎に翼でも生えたかのような苛烈なツッコミに、藍はただただくしゃみをする他なかった。


「ほら。帰るぞ」

「待って! ハー……もうちょっと……アンケートを獲るためには、ハー……女性人気に訴えなくちゃいけないから。ライバルイケメン探偵が現れるまで、もうちょっとここで待っていよう」

「帰るぞ!」

「クションッ!」


 真実に頭を叩かれ、藍は顔を真っ赤にして気絶した。明らかに風邪を引いた藍にジャケットを着せ、引きずる様にして事務所へと戻る。寂れた砂浜を歩いていると、ふと向こうから、見知らぬ人物が近づいてきた。まるでマジシャンみたいな派手なキラキラのスーツを着ている。舞台上ならいざ知らず、こんな海岸にいると何だか奇妙に浮いて見えた。


 やって来たのはイケメン探偵……ではなく、腰の曲がった白髪の老人だった。深く被った紺色のシルクハットの奥から、何やら2人の方をジッと見ている。老人の視線に気付き、真実が足を止めた。


「……何だ? 爺さん」

「ククク。随分と()()()()()()に馴染んどるようじゃな。無名萌真実」

「あ?」

「しかし……貴様は元来()()()()()()の住人」

 風が、雨が強くなってきた。老人は濁った眼を細め。真実を下から覗き込み、嗄れた声で嗤った。


「”貴様の()()()()()を……コードネームを忘れるなよ、『エクリプス』”」

「……!」

 波の音が響く。

 しばらく2人は黙って見つめ合った。


「……何? どうしたの?」

 すると、不意に眼を覚ました藍が、真実の前に立つ老人に気がついて尋ねた。


「誰? 真実君の知り合い?」

「いや……」

 真実は老人から眼を逸らし、首を振った。

「知らん。誰だこいつ」

「ククク。もう用は済んだわい。『あのお方』からの伝言じゃ」

「『あのお方』……!?」


 藍が声を上擦らせた。疑念よりもむしろ、期待に眼を輝かせている。立ち去ろうとする老人の背中に、彼が叫んだ。

 

「待て! お前らは何者だ!?」

「ワシか? ククク……」

 老人は振り返り、

「ワシらは『長い連載を乗り切るため思わせぶりな謎を残し読者の興味を引っ張るずくめの組織』じゃよ」

「『長い連載を乗り切るため思わせぶりな謎を残し読者の興味を引っ張るずくめの組織』!?」

「ネーミングセンスどうなっとんねん」

 白髪の老紳士は嗤いながら去って行った。後に残された藍が首を傾げた。


「何だったんだろう? ……”謎の組織 検索”」

「オイ。いきなりAI検索して謎を終わらせようとするな。まだ六話だぞ」

『おかしいですね……検索にも引っかかりません』

 スマホの中から、和音が戸惑ったように小首を傾げた。


『何度調べても、世界中の何処にもそんな組織は存在しない……と』

「どういうこと?」

 和音が不安げに目を泳がせた。

『もしかしたら私たちは……とんでもない闇の組織に目を付けられてしまったのかも知れません……』

「そうなの!? 僕はてっきり、長い連載を乗り切るため思わせぶりな謎を残し読者の興味を引っ張るためだけの組織かと」

「そう言ってたもんな」

『まさかそんな……そんなヘンテコな組織があるわけないじゃないですか』

「だよね……何だか先行き不安だけど、ちょっと楽しみになってきた……!」

「とりあえず適当なこと書いといて、後から『これは伏線だったんだよ!』ってこじつけるパターンな」


 事務所に戻ると、早速黒電話が鳴った。どうやら事件の依頼らしい。風邪でダウンした藍の代わりに、真実が出向くことになった。


「何だよこれ。結局いつもと同じじゃねーか。だったら冒頭丸々いらねーだろ」

「まぁまぁ。人気のためだから。電話が鳴ってAIで即事件解決じゃ、一行目でこの物語終わっちゃうよ」

「終わったんじゃなかったのかよ」

「終わったら風邪薬買ってきてね〜」

「ガキの使いかよ」


 ブツクサと文句を言いながらも、真実が現場を訪れると、水風呂に裸の死体がぷかぷかと浮いていた。サービスシーンというには余りにもノイズである。


「……そして被害者の背中には、血文字で”この殺人現場では水着をご着用ください”と書かれていた」

『まぁ。それで皆さん、海パン刑事みたいな格好してるんですね♪』

「何で素直に従ってんだよ」

「そしてお腹には、”靴下は履いたままで”と書かれていた」

『まぁ。それで皆さん♪』

「さらに腕には”ムダ毛は処理するな”と、脚には”ネクタイは外すな”と書かれてあり」

『あらまぁ♪』

「顔中に”ノイズで何が悪い”と」

「耳なし芳一じゃねぇんだから」


 刑事たちが変態と化した現場に、真実は頑なに入ることを拒否した。水着持ってきてねーし。どうせAIが一瞬で事件解決するんだから、入っても入らなくても同じである。


『ノイズで何が悪いんでしょうか?』

「ん?」

 藍から借りたスマホの中で、和音が小首を傾げた。

『人間は、そんなに綺麗なものでしょうか? 汚い部分を覆い隠して、美しい部分だけを見せていれば、それで世の中は本当に良くなるのでしょうか?』

「……また始まったよ」

『汚い部分もありますよ。醜い部分もありますよ。それも人間じゃないですか。なのに……文章を黒塗りにしたり、いじめはなかったとか、臭いものに蓋をしてそれで事件解決した気になっていませんか?』 

「はぁ。どうもお前の話は説教臭くて苦手なんだよなァ」

『でもでもでも。ノイズがなくなった社会はきっと怖いですよ』

「殺人は明らかに社会のノイズだろ」

『殺人事件がニュースになるのも怖いですが、殺人事件がニュースに()()()()()()()()、もっと怖くないですか?』

「フン。まぁミステリーなんて殺人やら死体やら、存在自体がノイズみたいなモンだわな。それで犯人は?」

『田中です』


 田中は逮捕された。

「どうしてこんなことをしたんだ!?」

 変態刑事たちに詰められ、田中は項垂れた。

「アイツが悪いんだ……アイツが……」

「何?」

「アイツが……ちょっと有名人だからって、SNSで正義ヅラして俺を無理やり悪者に仕立てやがったッ! おかげで俺は奴の取巻きどもに袋叩きにされて……だから、だから殺してやったのさ!」

「なるほど、ネットの炎上騒ぎが動機か」

「うーむ。多少同情はするが、しかしだからといって殺して良いとはならんぞ。世の中には理不尽なことだってある。だけど、周囲の雑音にばかり耳を傾けてないで、もっと自分を信じてる人の言葉も聞いてあげたらどうだ?」

「海パンじゃなかったらもっと説得力あるのになァ」


 すると、変態刑事の一人が慌てて部屋に駆け込んできて、叫んだ。


「警部! 被害者が生き返りました!」

「何!?」

 死体は生きていた。懸命の救護もあり、奇跡的に被害者は息を吹き返したのだった。

「そうか」

 変態がホッと胸を撫で下ろした。

「良かった。裸の死体はノイズだから……社会的に除去されて生き返ったんだ……」

「んなわけあるか。何だその不条理ホラー。そっちの方が怖いわ」

『もしかしたら私たちは……とんでもない闇の組織に目を付けられてしまったのかも知れません……』

「もう良いからそれは!」


 こうして事件は解決し、変態たちは全員風邪を引き、公然わいせつ罪で逮捕された。やがてお約束通り、真実が帰りにドラッグストアで風邪薬を買ってきて、この物語は終わった。

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