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AI探偵・上尾藍  作者: てこ/ひかり
第一幕
5/14

Case5. 怪盗少女登場!②

「な……なんか……」


 反AIを掲げる女怪盗を前にして、藍がごくりと唾を飲み込んだ。


「なんかカッコいい。僕も怪盗になろうかな」

「そこはちゃんと反論しろよ、探偵として!」

 同じく牢獄の中、藍の隣で真実が叫ぶ。

「何一瞬で(ほだ)されてんだ!」

「オホホ……間抜けな探偵さんたち。そこで指咥えて見てなさい。私がAIに毒された社会を浄化するところをね!」


 彼女がそう言うと、突然天井から大きなモニターが降りてきた。


和男(わを)!」

 女怪盗が叫んだ。すると、鉄格子の向こうからヌッ、と背の高い人影が現れた。しかし、どうも人間ではない。現れたのは3Dホログラム……和音と同じだ……スーツ姿のサラリーマン。怪盗っぽい髭を蓄えた、最初に藍たちが勘違いした、あのおじさんだった。


「和男。早速街に偽情報(フェイク)を流してちょうだい」

『かしこまりました。お嬢様』

 スーツ姿の、妙齢のイケオジAIが深々と頭を下げる。

「あの人……あの人も和音君と同じAIだったんだ!」

「和男て。いやお前もAI使ってんじゃねえか」

「オホホ。馬鹿と鋏は使いよう……」

 女怪盗がほほ笑んだ。

「包丁は使う人によっては凶器にもなるし、また別の人にとっては、美味しい料理を作るために欠かせない道具になるのよ」

「どうしよう……! このままじゃ、世の中がネットに毒されていない、健全な社会に戻ってしまう……!」

「良いことじゃねえかよ」


 和男と呼ばれたイケオジAIが、早速街に偽情報を流し始める。すると、モニターに次々と街の異変が映し出された。



「なぁ、聞いてくれよ」

「ん?」

「こないだ派遣切りにあってよぉ。おかげでいきなり仕事無くなっちまって。聞いてねぇよ。こっちは家も車もローン組んでんのに、どうしてくれんのよって」

「マジか。ヤベェじゃねえか」

「それがよ。システムの故障とか何とかで、奴さん、また戻って来て欲しいとか抜かしてんのよ」

「じゃ良かったじゃねえかよ。機械の故障のおかげだな」

「あぁ……でもなぁ」

「何だよ?」

「今更あんなとこ戻りたくねえなあ。散々人のこと下に見て、こき使いやがってよぉ。給料も低いし。こっちはしばらく休む気でいたから、またすぐ働けって言われてもなぁ」

「あぁ……」


 

「ねぇ聞いた?」

「何?」

「ウチのゼミの先輩、AIに卒論書かせたのがバレて、単位取り消しになったって」

「マ? えぐ」

「だけどそれがさ。教授もAIに添削させてたのが発覚して、解雇されたんだって」

「マ? えぐ」

「でもでもでも。解雇した学長も、実はAIで、来週大学潰れるんだって」

「マ? えぐ」

「ウチの学生の8割はAIらしいよ」

「日本は少子化だから。もうコンビニバイトが外国人留学生無しでは成り立たないように、教育機関も純粋な人間の生徒だけでは賄えない時代が来ているのかも知れないね。人間ひとり育てるよりも、優秀なAIを育成し、社会に貢献させた方がよっぽど役に立つかも。大企業がAIを新卒採用する時代も遠くないよ。しかしそうなって来ると、人間の社会的意義って今後どうなるんだろう?」

「……今の誰?」

「さぁ……?」

「えぐ……」



「『1+1=2』だ! それ以外は認めない!」

「何だ何だ? 何の騒ぎだ」

「私たちは『1+1=2』であることを世に訴えている、通称『2ファーストの会』です」

「『2ファースト』?」

「何だかややこしいな」

「だって、『1+1=2』なんだから! AIがそう言ってるんだから。それ以外あり得ない。他の答えを持っている人間は、全員異端者と看做し処刑します」

「オイオイ……」

「待って。それ偽情報だよ」

「何ですって?」

「どうした坊主?」

「『1+1=3』だって。ウチのじっちゃが言ってた」

「それは……」

(オイ。お前、ここでそのジジイがボケたなんて言ってみろよ。アイツの爺さん、大物政治家だぞ。アイツ泣かせたら、お前、消されるぞ)

「それは……それは3ですね」

「え?」

「3です。『1+1=3』です! さすがお坊ちゃん! なんと聡明な御子だ! 『1+1=3』だったんだ。早速法律を作り、AIにもそう学習させ、教科書を書き換えよう。わはは、わーはははは!」


 


「どうして……!?」


 モニターを見上げながら、I∀が頭を抱えた。


「バカなの!? 『1+1=2』に決まってるでしょう!? どうしてみんな、AIの危険性に気が付かないの!? AIは人類の敵なのよ!」

「怪盗I∀……君の方こそ気付かなかったようだね」

「何……!?」


 混乱する女怪盗を前に、藍が笑った。


「世の中には、むしろAIに仕事を奪われたがってる、働くのが嫌いな人間が一定数いるってことを」

「そ……そんな……」

「別に偽情報を流されようが……そもそも情報すらろくに確認してない人も少なくないってことを!」

「まさか……」

「さも誇らしげに言うなよ。どっちもお前のことだろ」

「そんな……まさか貴方みたいな程度の低い探偵に、お説教されるなんてね」

 

 I∀が自嘲気味に笑った。そんな彼女に寄り添う様に、和男がコートをかけてあげる。3Dの存在である彼が何故コートを持てているのか、作者にはさっぱり分からないが、とにかくイケオジ執事AIに支えられ、I∀がよろよろと立ち上がった。


「覚えてなさい……いつかこの借りは返すわ。何と言われようが、私は反AIを崩さない。AIが人類の脅威なんだって、いつか証明して見せる!」

「うん……じゃあその、ひと段落ついたみたいなんで」

 藍がソワソワと鉄格子を掴んだ。

「その……僕たちを解放してくれませんか?」

「……いやよ!」


 そう叫ぶと、怪盗I∀は身を翻し、隠れ家から出て行った。後に残された藍たちは、呆然とその様子を見守るしかなかった。


「……捕まえられなかったね」

「むしろ捕まったな」

「まさか……このまま終わりってことはないよね? 僕何にも活躍してなくない? これじゃまるでギャグだ」

「まだ自分のこと探偵小説の主人公だと思ってたのか」


 やがてお約束通り、監獄の中が徐々に浸水してきて、この物語は終わった。

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