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AI探偵・上尾藍  作者: てこ/ひかり
第三幕
25/30

Case 22. 泣かせようとする殺人事件

「僕もクリエイターになりたい」


 ある日のこと。真実が事務所で『ルックバック』を読んでいると、藍が突拍子もなくそんなことを言い出し始めた。全く、今度は一体何に影響されたのやら。真実は呆れた。この男、英雄になりたいだの勇者になりたいだの、やたらと子供っぽいものにすぐ夢中になるのである。そしてすぐ醒める。どうせ3日後には忘れてるだろう。


「クリエイターってカッコよくない?」

 藍が目を輝かせて笑った。

「これと言って作りたいものはないんだけど……アニメにゲーム、漫画……どれも今や世界が熱狂するコンテンツだろ。自慢できるモノだったら何でも良いや」

「一番手っ取り早い方法教えてやろうか」


 そっか。京本のヤツ……私が学校行ってる間に絵の練習してんだ……。漫画のページをめくりながら、真実がニヤリと笑った。


「みんなが作ってない間にさっさと作っちまうんだよ。みんなが遊んでる間、寝てる間、ネットでクリエイターとは何ぞやと語ってる間に、良いからさっさとモノ作っちまえ。そうすりゃお前はいつの間にか最前線に立ってるぜ」

「でも……何をどう作れば良いの?」

「そんなん何でも良いんだよ。今までの常識・慣例(ローカルルール)全部無視して、好き勝手作って『これが新時代の作品(コンテンツ)です』と言い張ったら、それで」

「なるほどねぇ。僕らいまだに、この作品が小説なのかどうかも良く分かってないものね」


 少なくともミステリではないと思う。お偉いさん方に「こんなの小説じゃない」と言われたら、そうですねとしか返しようがない。自分でも何だか良く分からないものを、こうしてお届けしている次第である。


「うーん、でも何か違うんだよなあ」

 藍はしかし、それでも納得がいかないのか、腕を組んで唸った。

「何がだよ?」

「だって小説なんて今時、誰も読んでないし」

「それが小説の主人公のセリフか」

「それに、散々苦労して、モノづくりに人生賭けるとか大げさな話じゃなくて。僕ァできるだけ、楽してチヤホヤされたいんだよ。寝てたら朝には作品が完成してるなんてことないかしら」

「なるほど。お前は苦労や困難をすっ飛ばして、成功体験だけ手に入れたい……と」

「うんっ」


 真実が藍をぶん殴った。吹っ飛ばされた藍が壁に激突し、激しく腰を殴打した。

 

「いてて……真実君、暴力はダメだよ! 殴るのは全然クリエイティビティじゃないよ!」

「ふざけんなよ。真面目に語ったこっちがバカバカしいわ!」

『大丈夫です、AIなら出来ますよ。クリエイターごっこ♪』


 すると突然、床から和音が生えてきて、にっこりと微笑んだ。


『イラストも、動画も、音楽も♪ あらゆるコンテンツはぜーんぶAIで生成できる時代ですから♪』

「それはそれで物議醸してんだろがお前は」

「良いねぇ。そのうち食べ物とか飲み物とか生成してくれないかな。そしたら働かなくて良いのに」

「お前はお前でそればっかだな」


 黒電話がなった。


「あーあ。機械に働かせて、人間は遊んで暮らせる社会はいつ実現するんだろう?」

『でもそうなったらなったで、逆に働きたいって人間が増えるかも知れませんね。遊ぶのも結構疲れますから。お金ならいくらでも払うから、頼むから働かせてくれ……って』

「SFのネタ出しみたいな会話してないで、さっさと電話でろよ」


 依頼は殺人事件だった。藍が探偵コートを羽織り、事件現場へと出かけて行った。漫画の続きも気になったが、一応バイト代はもらっているので、真実は仕方なく藍の後を追った。


◻︎


 事件は都内の某クリエイター・スタジオで起きていた。殺されたのは某クリエイター。どうやら作品の制作過程で殺されたようで、被害者の背中には、血文字で『未完』と書かれていた。


「完成前に殺されちゃったんだ。最終回までちゃんと描けなかっただなんて、さぞかし無念だっただろうね……」

 藍が沈痛な面持ちで死体を見つめた。

「見てよこの死体。泣ける……」

「どこが?」

 眉をひそめる真実に、藍は死体を指差した。

「心臓にナイフが突き刺さってる……」

「…………」

「……泣けた?」

「だからどこが??」


 真実がイライラした様子で踵を鳴らした。


「意味分からん。さっきから何でそんな、泣かせよう泣かせようとしてんだよ?」

「だってこれ、ギャグだから。ギャグ作品は途中でシリアス展開にして高尚なお説教して美談を捩じ込んで、無理やり感動させるのがお約束だろ?」

「だからそんなお約束ねぇんだよ!」

「でも、人が死んだんだよ?」

「人が死んだら無条件に感動するとでも思ってんのか?」


 すると和音がスマホから顔を覗かせて呟いた。


『すると、真実さんの目にもいつの間にか涙が……』

「勝手なナレーション入れるな! 泣いてねぇわ!」

『AIによると、実に91%の人がこの殺人事件で”感動した”と言っています』

「91%の人が感動したんだって」

「だから何だよ」

「だってAIが……」

「知らんがな。お前は自分の感情まで機械に丸投げすんのか」

「あはは! 推理はAIに丸投げするけどね」

「丸投げするんかい」


 AIの提案で、関係者たちがスタジオに集められた。


「オイオイ探偵さぁん」

 すると、中途半端なクリエイターの1人が藍を睨み付け、

「何でわざわざこんな時間に集められたんだ? 俺たちゃ忙しいんだよ。締め切りが迫っててさぁ」

 如何にも『モノを創っている人間の方が偉くて、創ってない人間を下に見ている』と言った感じで、悪意を剥き出しにした。 


「さぁ……僕にも良く分かりません」

 探偵であるはずの藍が首をかしげた。

「でもAIがそうしろって言うので」

「何だコイツ」

 たちまちスタジオがざわつき出した。

「AIが推理するって?」

「新しいわね」

「ワオ! それってすっごく創造的だわ」

『意外に好評ですね』

「何でやねん。新しけりゃ何でも良いんかクリエイターってのは」


 真実が呆れているうちに、和音が推理を生成した。プリントアウトされたそれを藍が読み上げる。

 

「犯人は……一人一人の心がけが社会を良くしていくんだ……この中にいる!」

「ちょっと待て。無理やり意識高いセリフを捩じ込まなくて良いから」

「犯人は……僕らはみんな支え合って生きているんだね。だからきちんと労働し汗を流して然るべき税を納め、社会に貢献することが国民全体の幸福につながるんだ……田中さん、あなたです!」

「普段絶対言わないセリフ過ぎて、洗脳されたみたいになってる……」


 推理の途中で強引に美辞麗句を捩じ込み始めた探偵を、隣にいた真実が慌てて止めた。


「どうしたお前? さっきから公益社団法人のCMみたいなこと言いやがって」

「だってギャグだから」

 藍がキラキラとした目で笑った。

「ギャグ作品は有名になればなるほど毒を抜かれて、良識派の意識高いキャラに洗浄されるのがお約束だろ?」

「確かに、お前原作と丸っきり別人だろ! って言いたくなるキャラいるけど」

「たまに作者ごと毒を抜かれてる場合もあって、でもそうなると、元の料理とは全然別の味になっちゃってたりするんだよねぇ……むしろあの毒が良かったのに」

「なるほどなあ。毒人間も結構生存競争大変なんだな」

「誰が毒人間だ」


 毒人間が関係者を見渡し、毒を撒き散らし……もとい、推理を続けた。


「田中さん、動機を教えてください。地球環境保護のためにも」

「いきなり話がデカくなり過ぎだろ」

「犯行動機を、出来れば泣ける美談にして教えてください」

「お前は殺人事件に何を求めてるんだ」

「『今度のAI探偵は、泣ける……』」

「泣けるかどうかはこっちが決めるから。勝手に押し付けてくんじゃねぇ」


 そうして田中が逮捕された。パトカーで連行されていく犯人を、藍と真実が並んで見送った。藍が真実の顔を覗き込んだ。


「どうだった? 泣けた?」

「泣けるかぁ」

「中には人間の手で作られたモノじゃないと感動出来ないって人もいるんだよ」

『ふふふ。野菜は手作りしか認めないみたいな話ですね』

 和音がスマホから顔を覗かせて、クスクス笑った。

『だけど今時ほとんどの農作物は、機械化が進んでますよ。そもそもほとんどのクリエイターはパソコンを使って創ってるのに。むしろ機械を通さないクリエイティビティの方が、探すの難しいのでは』

「そう言う話じゃねーだろ。結局気持ちの問題なんだよ気持ちの」

『私には……良く分かりません。人が作ったつまらない作品と、AIが作った面白い作品だったら、先生だったらどっちがみたいですか?』

「…………」


 やがてお約束通り、藍がフラフラと夕陽に向かって走り出し、この物語は終わった。

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