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AI探偵・上尾藍  作者: てこ/ひかり
第三幕
24/29

Case21. 全国最強探偵トーナメント

「探偵だって優勝したいよね」


 ある日のこと。真実が事務所のソファに寝っ転がって『H2』の続きを読んでいると、TVを観ていた藍がポツリとそんなことを呟いた。画面に映っていたのは、ナントカという、良く知らないスポーツ中継だった。どっかのチームが優勝を決めたのか、選手たちが歓喜の輪に包まれている。一方で、もう片方のチームはお通夜みたいに陰鬱な顔で項垂(うなだ)れていた。どうしたって、負けた方の気持ちを先に考えちゃうものね。


「今の時代は『全員優勝』なんだからさ。『生きてるだけでみんな優勝』なんだよ。だから、探偵が優勝したって良いはずだよ」

「探偵の優勝って何なんだよ?」

「最強の探偵を決める、『全国最強探偵トーナメント』みたいなのが開かれてさぁ」

「訳分からん。優勝してどうすんの?」

「優勝したら、歌う」


 藍が笑った。


「全ての探偵は、自分の推理ショーで武道館を埋めるのが夢だからね。ワンマンツアーで全国の殺人現場を回り、アンコールで昔の名推理を弾き語りするのがお約束なんだ」

「だからそんなお約束ねぇよ。推理の弾き語りって何やねん」

「あれは数年前のォ〜、蝉時雨が降り注ぐ、熱い熱い夏のことだった……ァ wow wow!」

「昔の推理を今さらwow wow聞かされても……」


 このポンコツ探偵の思考回路が、もはや一番の謎である。珍獣を眺めるような真実の眼差しにも意を介さず、藍は妄想を(はかど)らせた。


「毎年年末には紅白推理合戦が開かれてさぁ」

「ンな年の瀬に、殺人だの死体だの、聞きたかねぇだろ誰も」  

「僕だって、エントリーしたら良いとこ行けると思うんだけどね。周りの同業者からはアレだけど……こう見えて僕、AIからの評価は異常に高いからね!」

「おめでたいやっちゃなあ」

「開かれないかなぁ。探偵の全国大会」

『とても良い案ですね。だったら自分たちで開催しちゃったら良いじゃないですか♪』


 すると、床から和音が生えてきて、藍たちの前でにっこりと笑った。今日はチアガールの格好をしている。


『AIを駆使して、世界中から名探偵を呼び寄せましょう。あらゆる部門で探偵たちを競い合わせ、最強の探偵を決める大会を開いたら、面白そうですよね。洞察力、分析力、思考力、行動力、説得力、経済力、魅力、余力、歌唱力、戦闘力、暴力、霊能力……』

「途中からジャンル変わってんな」


 黒電話が鳴った。


「あーあ。いっつも良いところで電話が鳴るんだから……待てよ。僕にはもしかしたら、神通力があるのかもしれないな。神通力探偵」

「バカ言ってないでさっさと仕事しろ。無気力探偵」


 無気力探偵が探偵コートを羽織り、トボトボと現場へと出かけて行った。真実はため息を吐いた。全くあの男、依頼の内容によってやる気がジェットコースターのように上がり下がりする。漫画の続きも気になったが、一応バイト代はもらってるので、真実は仕方なく藍の後を追った。


◻︎


 事件は都内の某コンサート会場で起きていた。真実が現場に入ると、突然爆音のギターが五月雨のように降り注いだ。

「何だ……!?」

『二階席〜っ!』

 すると、割れんばかりの拍手の中、ステージから何だか聞き覚えのある声がした。真実は目を疑った。マイクを握り、ギターをぶら下げ笑顔を振り撒いているのは、他ならぬ上尾藍だった。


「何やってんだアイツ……!?」

『今日はありがとう! 犯人はこの中にいます!』

「うぉおおおおおッ!!」

 数万人の大歓声が会場を揺らす。藍が満足そうにギターを掻き鳴らした。

『今日は最高の推理(ライブ)にしようぜ!!』

「うぉおおおおおッ!!」

『ふふ。まさかこんな日が来るなんてね』


 藍がマイクを握り締め、熱心に語り始めた。


『思えば子供の頃、フラッと立ち寄った殺人現場で、そこで初めて”推理”を聴いてさ。アレは衝撃だったなぁ……』

「アホか。レコードショップ感覚でフラっと殺人現場に立ち寄るな」

『”推理”ってこんなにも自由で、カッコいいんだ。”推理”って何をやっても良いんだ、って。たとえ誰に否定されても、自分の心に響いたら、それが僕にとって最高の”推理”なんだって』

「お前は推理を大いに勘違いしている」

『人生で大切なことは全部”推理”が教えてくれた。最近良く世間の人が”あれはAIだ”、”あれはAIじゃない”なんて定義したがるけど……僕は正直どうでも良いんだ。それがAIだろうがAIじゃなかろうが、僕は僕の”推理”を掻き鳴らすだけ』

「AIをロックンロールみたいに言うなよ」

『ふふ。ごめん、前置きが長くなったね。それじゃあ、さっき出来たばかりの新推理(きょく)、聴いてください……”AIのままにわがままに、やっぱり犯人はこの中にいないかもしれない”』

「どっちだよ」


 ダメだ。このままでは埒が明かない。真実は和音を探した。案の定、会場のあちらこちらに投影機(プロジェクター)が仕掛けられてあった。真実が電源を引っこ抜くと、AIで創造(つく)られた幻の観客たちは、煙のように消え失せた。


「wow wow♪ ……あれ?」

「オイ」

 幻のステージで気持ち良く熱唱していた藍が、真実の視線に気がついてのけ反った。

「うわっ、真実君! い、いつの間に」

「またテメーは。AIに無駄なモン作らせやがって」

「む……無駄じゃないよ。イメージすることは大事だろ? 当時の状況を再現することによって……」

「嘘つけ。完全にカラオケ大会になってたじゃねーか」


 殺されたのは某音楽レーベルの社長。死因は撲殺で、死体の背中には血文字で『死んでるだけでみんな最下位』と書かれていた。


「そんな、星占いじゃないんだから……」

「お前が優勝がどうとか言い出すからだぞ」


 真実がジロリと藍を睨んだ。藍は少し困った様子で、

「別に僕、そんな意味で言ったんじゃないけど……単に生きてるって良いことだなって言いたかっただけだよ。ごめん、あの世のことまで深く考えてなかったっていうか」

「……あの世なんてあるわけねーだろ」

 真実がわざとらしく肩をすくめた。

「ナイナイナイ。ンな、有りもしないもんに一々気を遣う必要ねーんだよ。バカ言ってないで、現実を見ろ現実を」

「うん……どうしたの真実君? 何か慌ててない?」

「は? 何が??」

『結局”優勝”なんて言葉を使っている時点で、誰かと競い合ってるんですよね』


 すると、和音が藍のスマホから顔を覗かせて、小さくため息を吐いた。


『最初から戦わなければ、優勝も最下位も無いのに。どうして人間は戦いたがるんでしょうか? 比べたがるんでしょうか? それとも、何かを持ち上げると、意図せずとも何かが下がってしまう……そんな因果から、我々は逃れられないのでしょうか?』

「何だかしんみりしちゃったね……ごめん。和音君、犯人は?」

『田中です』

「もうお前が優勝で良いよ」


 問答無用で犯人は田中だった。夕陽を背に、パトカーがサイレンを鳴らして過ぎ去って行く。並んでその様子を眺めながら、真実の隣で、藍がポツリと呟いた。


「このままAIが発展したら……そのうち探偵も要らなくなっちゃうのかな?」

「……しっかりしろ。お前は何のための探偵になったんだ?」

「それはその……遊ぶ金欲しさっていうか」

「犯行動機じゃねぇかよ」


 やがてお約束通り、藍がフラフラと夕陽に向かって走り出し、この物語は終わった。

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