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AI探偵・上尾藍  作者: てこ/ひかり
第二幕
21/29

Case19. 勝利探偵インタビュー

「今さら『見たことない』って言い辛い作品ってあるよね」


 ある日のこと。真実はいつものように、事務所で寝っ転がって『進撃の巨人』の続きを読んでいた。すると机に向かっていた藍が、その様子を見ながら、複雑そうな顔で彼女にそう言った。


「ん? お前まさか……」

「いや知ってるよ?」 

 真実が漫画本から顔を上げると、藍は慌てて首を振った。

「『進巨』だろ。知ってる知ってる。色々なところでコラボしてるし」

「そんな略し方聞いたことねぇけど」

「多くの人が熱く語ってるから、概要は何となく知ってはいるんだけど。でも正直、有名だけど、ちゃんと読んだことはないんだよね」

「ほぉん……ま、そういうこともあるか」

「アレだろ? 巨人と戦って……戦って戦って戦って戦って参ります、みたいな」

「何か混ざってんな」


 大したボケでもなかったので、真実は欠伸を噛み殺し、さっさと漫画本に目線を戻した。駆逐してやる!! この世から……一匹……残らず!!


「そんな話なの?」

「んぁ……ま、概ねそんな感じだよ」

「へぇ、そうなんだ……それで僕、一つ思いついたんだけど」

「んだよ?」

「知らない人からしたら、そう言われたら『へぇ、そうなんだ』って思っちゃうじゃん」

「はぁ」

「だから、ミステリを全く知らない人に、今のうちに『ミステリってこういう感じなんですよ』って刷り込んでおけば、僕も良い感じに尊敬されるんじゃないかな」

「……まーたアホなこと考えてるなコイツ」

「『へぇ、探偵ってAIに相談するんだ』みたいな」

「そんな奴いるか?」

「『私、誤解してた。探偵さんってとってもカッコいいのね』みたいな」

「ミステリが誤解されるようなことしかしてないだろお前は」

『面白そうですね♪ 先生がお望みとあらば』


 すると、和音が床から生えてきて、にっこりと笑いかけた。調査兵団のコスプレをしていたが、あいにく藍には伝わらなかった。


『ちょっとデータを改竄したりして、私がそう言う"場"を生成できますよ♪』

「ほんと? ありがとう!」

「良く意味が分からんが……何か碌でもないことしようとしてるのは分かる」


 真実が眉をひそめていると、ちょうど黒電話が鳴った。


「殺人事件だ! さっそく行ってみよう。探偵の、新時代へ!」

「そんな前向きなだけのキャッチコピーみたいに言われても……」


 藍が探偵コートを羽織り、颯爽と事件現場に駆けて行く。場を生成? 一体何を企んでいるのやら……漫画本の続きも気になったが、一応バイト代はもらってるので、真実は仕方なく藍の後を追った。


◻︎


『え〜放送席、放送席……♪』


 真実が現場に向かうと、ちょうど藍が、お立ち台に呼ばれるところだった。急遽作られたのだろう、みかん箱のお立ち台の前には、死体が横たわっている。死体の背中には血文字で『2-3×』と書かれていた。


『今日のヒーローは見事19勝目を挙げました、上尾藍探偵です!』

「どうもありがとうございま〜す!」


 名前を呼ばれ、藍が少し緊張した面持ちで観客に手を振った。真実は目を疑った。一体何処から集まってきたのか、殺人現場は大勢のギャラリーで埋め尽くされている。皆、手にメガホンや手作りのメッセージ入りうちわ等を持ち、今日のヒーローに歓声を送った。


『上尾さん。まずは今日の推理を振り返ってみて、いかがですか?』

 薄暗い部屋の中で。インタビュアーが藍にマイクを向けた。

「そうですね。初回、立ち上がり少し声が上擦っていたので、低め低めに、丁寧にしゃべることを意識しながら推理しました」

「何だこれ……」

 真実が思わずツッコんだが、彼女の声はしかし、周囲の歓声に掻き消された。


『なるほど。序盤は容疑者の反撃に遭い、2点を失いましたが、終わってみたら9回119推理15奪証拠』

「119球15奪三振みたいな?」

「119回も推理したんか」

 仮に週刊連載だとしたら、約30ヶ月、2年半近く延々と推理していたことになる。

「つーか15個も証拠見つけて、何で9回まで犯人捕まえられなかったんだよ」

 そもそも殺人事件で9回って何なんだ? ターン制ミステリなのか? 様々な疑問が真実の頭を駆け巡ったが、何一つ解決することなく、謎インタビューは続く。


『上尾さんの粘り強い推理が実り、最後は頼れるチームメイトが容疑者をバットで一撃。豪快にサヨナラを決めました!』

「本当に頼れるチームメイトです。ありがとう!」

「まさか殺したのか?」

『まだまだ殺人シーズンは続いて行きますが、今後の意気込みをどうぞ♪』

「そうですね。やっぱりシーズンは長いですから。殺されないように気をつけます」

「そんな殺伐としたシーズンが続いていってたまるか」

『それでは最後に、ファンに向けてメッセージをお願いします!』

「はい。今日は皆さんお忙しい中、わざわざ殺人現場に集まっていただきありがとうございました。まだ犯人は捕まってません。どうか皆さん、何か少しでも気付いた事があれば、情報提供ご協力お願いします!」

「まだ捕まってなかったのかよ!」


 痺れを切らした真実が、藍をお立ち台から引きずり下ろした。


「オイ。何やってんだお前?」

「何って……ヒーローインタビューだよ」

「ヒーローインタビュー?」

「だってミステリは、最後に『勝利探偵インタビュー』をやるのがお約束だろ?」

「ねぇよそんなもん。存在しないお約束を捏造するな」


 いつの間にか観客が姿を消していた。それどころか、お立ち台も、インタビュアーの姿もない。どうやらこのシチュエーション自体が、AIがホログラムで生成した、幻だったようだ。


「すごいんだかすごくないんだか……金のかかった無駄」

「行政の失敗事例みたいに言わないで。無駄じゃないよ。これからはもっと探偵も表に出て、スポットライトを浴びなくちゃ」

 藍が熱弁した。

「もっともっと活躍して、世間から注目を集めて人気が出れば、スポンサー付いたり、探偵のプロリーグだって作れるよ」

「探偵のプロリーグってなんだよ」

「全国各地に散らばった12偵団が、それぞれのリーグで、毎回事件を解決するために各地で推理合戦する……」

「殺人事件をリーグ制で回すな。どんな犯罪都市やねん。行きたくねーだろそんな血腥(ちなまぐさ)い遠征」


 真実が呆れてため息を吐いた。


「そもそも『勝利探偵』って、どうやったら勝ちなのかも良く分かんねーし」

「興行的に盛り上げたら、もっと人気出るかなって」

「あのなぁ。探偵なんて、本当は人気無い方が良いんだよ。探偵が活躍してる世の中って、大分荒れてる世の中だろ。平和な時代には必要ない、一過性の流行り病みたいなもんなんだから」

「真実君……」


 藍がハッとしたように顔を上げた。


「何か……カッコいい。名言みたいなこと言ってる。それ、僕が言ったことにして良い?」

「勝手にしろ!」


 やがて和音が犯人を見つけ出し、探偵が無駄にインタビューを受けている間に、事件は解決した。バットで一撃を喰らった犯人の田中が、パトカーで連行(サヨナラ)されて行く。東の空から登って来た朝日を背に、藍と真実が並んでその様子を見守った。


「やっぱりアレだね。探偵は活躍しない方が、世の中のためだね。これからは、AIだね」

「下手くそ過ぎるわ。同じようなセリフのはずなのに、お前からはさっぱり何も伝わってこない」

「僕もできるだけ、活躍しないように……仕事をセーブするよ。平和を願って……」

「オイ。職務放棄の言い訳にしてんじゃねーぞ」


 やがてお約束通り、藍が朝日に向かってフラフラと走り出し、この物語は終わった。

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