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AI探偵・上尾藍  作者: てこ/ひかり
第二幕
18/31

Case16. 没ネタ供養回

「春だねぇ」


 ある日のこと。読者が次のページをめくると、季節は春になっていた。藍と真実は、とある事件を無事解決し、麗らかな日差しの中事務所へ帰るところだった。


「春と言えば、出会いの季節だよね」

 桜咲く小径をゆったりと歩きながら、藍が目を細めた。

「だから……AIも言ってたけど……そろそろ新キャラクターを出してテコ入れしようかと思うんだ」

「……時系列がぶっ壊れてるのはもうツッコまねぇけどよぉ」

 藍の隣で真実がため息を吐いた。


「何で事件が解決した後に新キャラ出すんだよ」

「だって容疑者は多い方が何か、頭良さそうな、壮大で複雑怪奇な殺人事件っぽいじゃないか」

「三流ミステリー作家かお前は」

「新キャラオーディションをやろうと思う。こんな犯人は嫌だ、みたいな」

「フツー、どんな犯人だって嫌だろ」

「テコ入れって正直、行き詰まってるみたいでやりたくないんだけどさ」 

 藍が肩をすくめた。

「でもAIがやれって言うから」

「知らんがな。AIが死ねって言ったら死ぬんかお前は」


 一体どこの世界に犯人をオーディションで募集する探偵がいるというのだろう? 事務所に辿り着くなり、藍は早速黒電話でどこかに電話し始めた。真実はそれを尻目に、ゴロンとソファに寝っ転がった。本棚に手を伸ばし『遊☆戯☆王』の続きを読み始める。俺のターン! ドロー!


「さて……そろそろ僕のターンのようだね」

 電話を終えた藍がウキウキと顔を綻ばせた。

「オーディションという名の闇のゲームを始めようか。フフフ」

「無理やりカードゲームに引っ掛けなくて良いから」

「僕にとってカードゲームは青春……いや、人生の一部と言っても良いかも知れない」

「そりゃお前にとってカードゲームは人生かも知れんけど、人生はカードゲームじゃないぞ。配られるかも分かんねぇモン待ってるだけじゃ、あっという間に終わっちまうからな」

「僕らもカードゲーム化されたら……もっと人気が出るのかな。『レア凶器カード』とか」

「誰が欲しがんねん。そんな時代に逆行したカード」

「とりあえず目ぼしい新人探偵には声かけといたから。早速この事務所を会場に改装しよう」

「没ネタ発表会をするわけだな」

「没ネタって言わないで。ここから次の連載の主人公が生まれるかも知れないんだから」


 そう言うと、藍がやたら忙しなく動き始め、事務所の椅子やら机やらを動かし始めた。どれくらい時間が経っただろうか。ちょうど準備も整った頃、没ネタ……もとい新キャラたちがゾロゾロと事務所にやってきた。


◻︎


 やがて集まった次世代の探偵たちを相手に、オーディションが始まった。

「それでは最初のエントリーの方……」

「面接?」

 藍が1人目の探偵を呼びつける。扉を開けて別室に入ってきたのは、やせぎすの、少し神経質そうな若い男だった。藍が机に並べられた書類を見ながら男に質問を投げかけた。


「あなたは何探偵ですか?」

「私は……『AI探偵』です」

「いきなり被っとるやないか」

「証拠も凶器も、全部AIや3Dプリンタで生成してしまおうという……」

「なるほど。その手があったか」

「どちらかと言うと犯人側じゃねーかよ」


 藍の隣に座っていた真実がツッコむ。こんな感じでダラダラ続いて行くので、どうぞよろしくお願いします。



「俺は『銀河統一探偵』! 俺と一緒に宇宙怪獣をブッ倒し、世界を平和にしようぜ!」

「スケールが大きすぎる」

「探偵やってる場合じゃねぇだろもう」



「俺は、『オッサンが転生したけどモノホンのホームズ・スキルもらったから、異世界ロンドンで助手の溺愛悪役令嬢と超絶時刻表トリック推理無双する〜犯人は田中〜』」

「タイトルで完結してるやつ」

「異世界ロンドンって何やねん」



「私は『冷暖房兼除湿加湿冷蔵冷凍血中酸素心電図地図付探偵』! 私に出来ないことはないわ!」

「機能盛り過ぎて最初の目的見失ってるやつ」

「やっぱ餅は餅屋だな」



「私は『政治語り探偵』。どんな小さな出来事も最終的に政治に絡めて推理する探偵さ」

「政治語り?」

「あーいるいる。ネットで良く見かけるわ。結論ありきの色眼鏡野郎な」

「ちょっと面白いかも」

 藍が嬉しそうに身を乗り出した。

「どんな話題振っても結局政治の話に収束していくの?」

「もちろん」

「じゃあ……『デオキシリボ核酸』」

「ゴホン。我々の身体はデオキシリボ核酸によって設計されています。ところが……最近聞こえませんか? デオキシリボ核酸の悲鳴が」

「聞こえるかそんなもん」

「つまり……全部政治が悪いよ政治が!」

「碌に語れやしねぇじゃねーか」

「『発泡スチロール』」

「ゴホン。我々の生活はもはや発泡スチロール無しでは成り立たないでしょう。ところが……最近聞こえませんか? 発泡スチロールの悲鳴が」

「一緒じゃねーか。くだらねぇ、テンプレで語ってるだけだコイツ」

「良いね。ネタの広がりを感じる。彼はさっきの『野球探偵』と『宗教探偵』と合わせて、トリオで売り出そう」

「ファイヤーフォーメーションにも程があるだろ」



「僕は『頭ファンタジー探偵』。頭がファンタジー過ぎてポンコツな推理を繰り返す迷探偵さ」

「それ昔のネタだから」

「『一行目探偵』とかもあったよね。事件が一行目で解決するやつ」

「昔からやってることさっぱり変わらんな」


 他にも『解決したくない探偵』『ぶっ殺す探偵』『広告収入で生きていく探偵』『弱者探偵』『三流の探偵』『巻き込まれない探偵』『推理パートでひたすらスパイダーマンについて語っている探偵』などなど……こうして並べてみると、『AI探偵』がまだマシな部類だと分かってもらえるはずである。



「あなたは?」

「私は……『最終学歴だけでゴリ押しする探偵』」

「最終学歴だけでゴリ押しする探偵」

「さっきから出オチなんだよどいつもこいつも」

「私の推理は正しい! 何故なら私は有名大学卒だから!」

「ムカつくわぁ」

「犯人のスキームはアジェンダがコモディティ化したマイルストーンだったんだよ!」

「なんて??」

「無理やりカタカナ語使おうとして何にも伝わって来ないやつだ」

「否定するのかね!? これは世界的権威のベストセラー著書の引用なんだぞ!」

「え? そうなの? そう言われると何だか正しい気がしてきた……」

「”頭の良い人がそう言ってたから"と"AIがそう言ってたから"って、自分で考えてない時点で大差ねーよな」



「さて……」


 一通りオーディションを終えた藍が、書類をトントンしながら首を傾げた。


「この中に次世代のホープ、主人公候補がいるかも知れないね。真実君は誰が良かった?」

「ん? あぁ……スマン。途中で寝てたわ」

「あはは! よし、せっかくだからAIに決めてもらおうか」

「笑って誤魔化すなよ。所詮没ネタは没ネタだから。やっぱ没になるだけあるなって」

「”この中で連載するならどの探偵?”」


 藍がAIに尋ねると、


一位:頭ファンタジー探偵

二位:政治語り探偵

三位:解決したくない探偵


 と言う結果になった。


「だから一位と三位はもうやったんだよ。昔のネタもう一回やってもなぁ」

「と言うことは……『政治語り探偵』になってしまう」

「うわ面倒くせぇ。そんなもんお前、ネット眺めてりゃいくらでもいるだろそんなやつ」

「ちなみに”一番連載に向いてなさそうな探偵”を尋ねたら、『AI探偵』でした」

「ダメじゃねーかよ!」

「”面白いがテーマがワンパターン化しやすい”だそうです」

「分かってるならやらせるな! テメーがプロット書くって言うから、こっちは短編で終わらせるつもりだったのに……」

「あはは!」


 やがてお約束通り、藍がブラインドを少し指で開けて夕陽に目を細め、この物語は終わった。

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