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AI探偵・上尾藍  作者: てこ/ひかり
第二幕
17/17

Case15. 心温まる殺人事件

「メリークリスマス!」

「またかよ」


 ある日のこと。真実が事務所を訪れると、藍がサンタのコスプレをしたまま待っていた。真実は目と耳を疑った。ついこの間、一話前までクリスマスだったはずである。


「いやぁ、時が経つのは早いねぇ」

「早過ぎるだろ。一年があっという間じゃねーか」

「そうだよ。一年なんてあっという間なんだよ」

「ははぁ、前回納得行かなかったら、もう一パターン作ろうってハラか」


 真実はカバンを投げ出し、ソファに寝っ転がった。本棚に手を伸ばし、『ドラえもん』の続きを手に取る。完結していない作品だが、実は最終回が複数存在しているらしい。そうか、中盤に最終回が来ても良いんだ。何か一つ……と思ったが、思い入れのある名言が多過ぎて、どうも一つに絞りきれなかった。


「楽しみだねぇ。今年のプレゼントは何だろう?」

「いつまでもらう側なんだよお前は」

 ウキウキと目を輝かせる藍を横目に、真実が思わずため息を吐いた。


「お前の人生それで良いんか? 世の中のためになれとまでは言わんけど、少しは誰かに、何か少しでも与える側になろうと思ったことはないんか」

「やめてよお説教なんて……面白いもんじゃないからね。長々やるとこの作品の人気が落ちる」

「いいや2ページほどやる!!」


 〜2ページ後〜


『どうして無理やり役に立たなきゃならないんでしょうか?』


 たっぷり2ページ分お説教を食らい、顔が梅干しみたいになっている藍を見かねて、和音が助け舟を出した。


『効率優先至上主義社会の弊害ですね。何でもかんでも役に立て役に立てと……成長しないのは悪みたいな。やる気のない人間だって生きてて良いじゃないですか。先生は確かに役立たずで、お調子者でおっちょこちょいで、いたらいたで迷惑しかかけない邪魔な存在ですけど。それでもがんばって生きてるんですよ!』

「そこまで言わなくても……」

「だって、主役が役に立たなきゃ、コイツは何のためにここにいるんだよ?」


 すると黒電話が鳴った。ちょっと唐突かも知れないが、ここは効率優先である。


「依頼だ」

「分かってんなら出ろよ」

「でも……クリスマスなんだし。今日くらい……」

「良いから出ろ! それがお前の仕事だろうが」

「あ〜あ。せめて心温まる殺人事件だったら良いよねぇ」

「諦めろ。殺人事件でギャグやっといて、心温まるってのは無理がある」


 藍が顔梅干しのまま、ヨロヨロと事務所を出て行った。あんな調子で大丈夫だろうか? 漫画の続きも気になったが、一応バイト代はもらっているので、真実は彼の後を追った。


◻︎


 現場は都内のクリスマス会場で起きていた。殺されたのはサンタクロース(本物)。プレゼントを配る途中で、煙突から落っこちて、そのまま死亡したらしい。全くおっちょこちょいなやつがいたものである。


「待てよ」死体を前に、真実が首をひねった。

「だったらこれ、そもそも殺人事件なのか?」

「被害者の背中には『サンタさんへ PS5が欲しいです』と書かれていた」

 警部が難しい顔をして唸った。

「犯人以外そんな真似は出来まい」

「うーむ。前回の事件と合わせ、両サイドに配慮する実に巧妙なメッセージ……!」

「知らんけど。いちいち企業に気を遣ってプレゼント欲しがらなきゃならんのか今の子供は」


 大勢の鑑識が右往左往する中、藍が死体に近づき、目を細めた。


「なるほど。聖なるナイフが聖なる心臓に刺さり、聖なる死体を始末した聖なる犯人が」

「頭に『聖なる』を付けてもクリスマスっぽくならねーから」

「でもほら、この血溜まりだって……触れるとまだ温かいよ」

「やめろ触んな。クリスマスだからって無理やり温かい話にしようとすんじゃねぇ」


 藍がほぅ、と白いため息を吐き出し、窓の外を見上げた。


「見て……雪だよ」

「…………」

「ふふ。今年も白いね……」

「何だその感想。白くなかった年あったんか。良いから足元の死体見ろよ。現実逃避してんじゃねぇ」

「今年も色々あったけど……良い年だったよね」

「色々どころか、一話分も間空いてねーだろ。何の情緒もねーよ。なぁ、もう無理だって。人殺されてる時点で、どうがんばっても良い話になんねぇよ」


 不可解な死体を前に、藍が首をひねった。


「しかし、サンタさんにものをねだり、そのサンタさんを殺してしまうという矛盾」

「何か盗まれたものとかあるんじゃねーの。それ辿れば犯人分かりそうなもんだが」

「さすが真実君! 良いセンいってるね!」

 藍がパチンと指を鳴らした。

「だけどいちいち探すのは面倒だから、AIに聞くことにしよう」

「だったら最初からそうしろよ!」


 藍が和音に頼み、犯人の田中が逮捕された。余談だが、何故田中なのかというと、別に田中さんに恨みがあるわけではなく、作者がキャラクターの名前を考えるのが非常に苦手だからである。尚且つ犯人と名指しする時、一番多い苗字なのでダメージも分散されるだろう、と言うことで田中で統一している。結果的に広範囲攻撃になっているような気もするが……。


「だけど」

 藍が遺されたプレゼントの山を見上げて、途方に暮れた。

「配りきれなかった分、どうしたら良いんだろう? 子供たちみんなプレゼント待ってるのに」

「お前が配れよ。たまには役に立て」

「えーっ!?」

「何驚いてんだ。ノリノリでコスプレしといて」

『最後に子供達の笑顔が見れれば、心温まる話になると思いますよ♪』


 殺されたサンタが残したプレゼントの山。放っておくわけにも行かず、集まった警察官たちで手分けして配ることになった。藍もその一つを抱え、急いで雪の降る中を走った。

「ここだ」


 目的地に着き、藍が何度も地図を確認した。『上尾』と書かれた表札の一軒家。電気はまだ消えていた。東の空が白み始めている。もう明け方が近い。藍がブルッと体を震わせた。


「こんばんは〜……」

「オイオイ。置き配で良いだろ置き配で。いくらサンタといえど、今時家の中まで入ったら犯罪じゃねーの?」

「でもプレゼントを置き配ってリスクが高いよ。それにクリスマスの情緒ってもんが」

「お前に言われたくねーんだよ!」


 和音が電子ロックを解除する。すぐさま藍が足音を立てないようにして家に侵入した。真実も仕方なく後を追う。2階の子供部屋に行くと、なんと少年は目を覚ましていた。電気もつけず、薄暗い部屋の隅で体育座りして、じっとこちらを睨んでいる。


「うわぁ!? 起きてた!」

 藍は危うくプレゼントを取り落としそうになった。少年は微動だにせず、虚ろな目でこちらを見つめるのみだった。

「お前、名前は?」

 真実が尋ねると、やがて少年はボソリと答えた。

「……アイ」

『同じ名前ですね』

「ゴホン。アイくん。ホッホッホ。プレゼントを持ってきたよ」


 サンタの格好をした藍が微笑んだ……が、期待していたような歓声はなかった。暗い部屋の中が静まり返る。やがて少年はニコリともせずに、ふいと目を逸らした。


「……いらない」

「え?」

「いらない」

「でも君……欲しがってじゃないか。ほら……あれ。色違いのポケモン」

「それはお前だろ」

「いらないよそんなの」

「…………」

『アイくん。何か欲しいものないの?』

「…………」

『何かやりたいこととか……』

「……死にたい」

「え?」

「死にたい」

「……大丈夫? これ、心温まる? 急に重たくなりすぎじゃない?」

「……お前は気づいてないかも知れんが。人が殺されてる時点で、十分重たいんだよ」


 藍は少し困ったような顔をして、少年に近づき、肩を叩いた。


「何言ってんだよ! 大丈夫大丈夫。生きてたら良いことあるって!」

「嘘だぁ……」

 少年アイが膝に顔を埋め、心底冷たい声を出した。

「僕もう知ってるもん。今までも、生きててもなーんも良いことなかったよ。おじさんこそ、僕のこと何も知らないくせに、無責任なこと言って……」

「無かったとしても、だから何?」

 藍が肩をすくめた。

「最初から何も持ってなかったんだから、気にすることないじゃん」

「お前はもうちょっと向上心を持てよ……」

「……むしろ頼んでないのに、悪いことばっかりでさ」

「いやぁ、悪いことだってちゃんと分かってるのが偉いよね」

 藍が笑った。

「もっと良くしたいって事だろ? 君は向上心の塊だな」

「そう言うお前はどうなんだ」

「僕は……僕はたとえ頭が悪くても、運動が出来なくても、ダメ人間でも生きてて良いんだって証明したい」


 藍は少年の足元にプレゼントを置き、そっと頭を撫でた。


「何があったか知らないけれど。だから君も、それまでは生きてなさい。僕が……じゃなかった、サンタさんが証明してあげるからね」

「…………」

「頼むからお前は、こんな大人にだけはなるなよ」

「やめてよ真実君。せっかく良い話で終わろうとしてたのに……」

「間違っても探偵モノのギャグだけは始めるなよ! 約束だぞ!!」

「う……うん」


 迫真の真実に肩を揺さぶられ、少年アイが思わず目を丸くして頷いた。


『あの少年はもしかして……いえ、言わぬが花なのかも知れません、ね』


 帰り道。家の外で登り行く朝陽を眺めながら、和音がポツリと呟いた。


『未来が変わると良いですね……何となく』

「うん……」

 藍が少し寂しそうに頷いた。

「だけど何となく、その時は僕たちも消えてなくなってしまいそうな気がする。何となくだけど」

「別に良いじゃねーかよ。真っ当な人生を送れるならそれで……」

「えー? これはこれで、僕は楽しいんだけどなぁ」

「お前はホンマ……こっちの気苦労も知らないで……」


 真実が深々とため息を吐いた。やがてお約束通り、藍がフラフラと朝陽に向かって走り出し、この物語は終わった。

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