Case14. メリークリスマス殺人事件
「メリークリスマス!」
ある日のこと。真実が事務所を訪れると、サンタのコスプレをした藍が大きな白い袋を抱えて待っていた。真実は目と耳を疑った。ついこの間、一話前まで正月だったはずである。
「いやぁ、時が経つのは早いねえ」
「早過ぎるだろ。時系列どうなってんねん」
「真実君ももう少し歳取ったら分かるよ。本当に1年あっという間だから」
「知らんけど。お前もまだ20代だろうが」
真実はソファに寝っ転がり、『金田一少年の事件簿』の続きを読み始めた。少年というよりもはやオッサンだったが。ぶざまに生きる方がカッコつけて死ぬより100倍カッコよく見える時だってあるんだぜ?
「あれ? そうだったっけ? 長く連載を続けてると、自分の設定を忘れちゃうというか、整合性が取れなくなっちゃって。この間も推理中に、犯人の名前をド忘れしてさ」
「ぶざまな奴だなァ」
「それどころか、証拠もトリックも動機も、すっかり頭から抜け落ちちゃったんだよ」
「……ホントに忘れたのか? それとも最初からそんな事件、存在しなかったんじゃねーだろうな?」
「どうしようどうしようって焦って、だけど何か言わなきゃって、だから僕は犯人に向けてこう言ってやったんだよ。『犯人は……』」
「…………」
〜10年後〜
「『……あなたです』、ってね」
「え? 何今の? 10年後なの今??」
「いやぁ、時が経つのは早いねえ」
「早過ぎるだろ! どのタイミングで回想入ってんねん!」
「真実君ももう少し歳取ったら分かるよ。本当に10年あっという間だから」
「そういう問題じゃねーだろこれ」
「早いものね……あれからもう10年か……見て。桜よ。今年も咲いたわね……ふふ。あなたも天国から見てくれてるかしら……」
「お前誰やねん!?」
突如隣に出現した謎の女に、真実が思わず叫んだ。
「というかココどこやねん!? どうなってんの今の状況!?」
「真実君。覚えてないのかい?」
「は!? 何が??」
「あれは今から3年前……」
「3年前? 今から?」
「そう。その年にタイムマシンが完成して、さらにその2年と5ヶ月後……」
「何て??」
「つまり『最終回』から3話前」
「だからいつの話してるんだよ!? 回想挟み過ぎて訳分からん!」
黒電話が鳴った。どうやら殺人事件の依頼らしい。
「さて、おふざけはこのくらいにして」
「ふざけてんのか。この後も大概おふざけじゃねーかよ」
「今の”回想挟み過ぎギャグ”は、原作にはなかったからね。全くひどい原作改変だよ」
「何だよ原作って。存在しない原作を捏造するな。ちょっと伝わり辛いからって予防線張ってんじゃねーぞ」
「行こう! 過去のことばっかり話してないで、未来の方へ!」
「そんな名言みたいに言われても……」
藍が探偵コートを着込み、現場へと向かった。漫画の続きも気になったが、一応バイト代はもらってるので、真実は仕方なく彼の後を追った。
◻︎
事件は都内の某所クリスマスパーティ会場で起きていた。殺されたのはおもちゃメーカーの社長。会場ではジングルベルが止むこと無く延々と繰り返されており、窓際に置かれた大きなもみの木に、その死体は飾り付けられていた。
「そして被害者の背中には、血文字で『サンタさんへ Switch2が欲しいです』と」
「やかましいわ」
会場には多くの警察官が入り乱れ、現場検証を続けている。そこに部下の1人が駆けつけて、上司の耳元で囁いた。
「警部! 恐らくこれは……例の組織が一枚噛んでるかと」
「例の組織?」
「ええ。『名前が長いあの組織』です」
「うーむ……」警部が目を細め唸った。
「だとすると、やはり15年前のあの事件が関係しているのか」
「15年前……もしかして『東京ヘヴンズアウト事件』ですか?」
「嗚呼。あの時『風車の少年』が持っていた伝説のナイフ」
「いきなり風呂敷広げ過ぎだろ!」
側でその会話を聞いていた真実が思わずツッコんだ。
「適当なこと言うな! そういう思わせぶりなの、後になって苦しむんだから」
「良いじゃん。広げられるだけ広げといてさ」
隣にいた藍が助け舟を出した。
「別に無理に全部語らなくても、後から考察系なんちゃらがいくらでもこじ付けてくれるし」
「アイツらこそ適当じゃねーか」
「でもたまに当たってるのもあるよね」
藍は死体の隣に飾られていた、金色に光る硬貨を指差した。
「見て! あれは……『ニコラス兄弟の金貨』!」
「何て??」
「まさかあの金貨が『半分だけ白の夜』以外で見れるとは……!」
「コイツ……適当な単語を並べて後で考察系にストーリーを補完させようとしている」
「そんなことないよ。ちゃんと深い意味があるんだから」
「嘘つけ。じゃあ何て意味なんだよ?」
「それは……”『ニコラス兄弟の金貨』 検索"」
『はい。”ニコラス兄弟の金貨”というのは、19世紀後半のカリブ海で活躍した2人の海賊が……』
「信じるな信じるな! そんな単語ねぇよ! お前も変な単語AIに学習させんな!」
結局AIに犯人を聞き、田中が逮捕された。
数日後。
藍の目論見通り、YouTubeに事件の考察動画が上がった。事務所のモニターで早速再生を始める。
《つまり、あの『ニコラス兄弟の金貨』というのは実は真犯人の暗喩になっていてぇ……》
「す……すげえ。全部こじ付けられてる」
モニターを覗き込みながら、真実が唸る。その隣で藍が笑った。
「ここまで妄想力逞しかったら、むしろ作家になって欲しいよね」
《……冒頭の主人公の『メリークリスマス!』というセリフが、実はラスボスの示唆になっていて、ここに作者の隠された主張が》
「深読みし過ぎて訳わかんないこと言ってる!」
「自分の言いたいこといってるだけだろこれ」
《作者は神! 作者は神!》
「何だよ神って。創作活動って宗教か何かなのか?」
「ある意味そうかも知れないね。今は下手に作品否定すると信者に突撃粘着されるからねぇ」
『今後AIによって誰もがクリエイターになったら、作家神話は崩壊し、もう誰も"創造主"を必要としなくなるかもしれませんね』
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「……ん? 何だ? この線?」
不意に目の前に現れた線に、真実が眉をひそめた。和音が肩をすくめる。
『今回の話はここまでです』
「え? オチないの?」
『一応(例)として、お約束通りの終わりも載せますが……上の文章を各々持ち帰って、後はAIに好きなオチを考えてもらってください』
「そんなのアリかよ」
「オチも自由に生成できるんだ。すごい時代になったねぇ」
「思いつかなかっただけなんじゃねーの」
『うふふ。メリークリスマス♪』
「物語の終わり方をプレゼント、ってこと?」
「嫌なプレゼントだな……」
(例)やがてお約束通り、藍がフラフラと夕陽に向かって走り出し、この物語は終わった。




