表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI探偵・上尾藍  作者: てこ/ひかり
第二幕
16/18

Case14. メリークリスマス殺人事件

「メリークリスマス!」


 ある日のこと。真実が事務所を訪れると、サンタのコスプレをした藍が大きな白い袋を抱えて待っていた。真実は目と耳を疑った。ついこの間、一話前まで正月だったはずである。


「いやぁ、時が経つのは早いねえ」

「早過ぎるだろ。時系列どうなってんねん」

「真実君ももう少し歳取ったら分かるよ。本当に1年あっという間だから」

「知らんけど。お前もまだ20代だろうが」


 真実はソファに寝っ転がり、『金田一少年の事件簿』の続きを読み始めた。少年というよりもはやオッサンだったが。ぶざまに生きる方がカッコつけて死ぬより100倍カッコよく見える時だってあるんだぜ?


「あれ? そうだったっけ? 長く連載を続けてると、自分の設定を忘れちゃうというか、整合性が取れなくなっちゃって。この間も推理中に、犯人の名前をド忘れしてさ」

「ぶざまな奴だなァ」

「それどころか、証拠もトリックも動機も、すっかり頭から抜け落ちちゃったんだよ」

「……ホントに忘れたのか? それとも最初からそんな事件、存在しなかったんじゃねーだろうな?」

「どうしようどうしようって焦って、だけど何か言わなきゃって、だから僕は犯人に向けてこう言ってやったんだよ。『犯人は……』」

「…………」


 〜10年後〜


「『……あなたです』、ってね」

「え? 何今の? 10年後なの今??」

「いやぁ、時が経つのは早いねえ」

「早過ぎるだろ! どのタイミングで回想入ってんねん!」

「真実君ももう少し歳取ったら分かるよ。本当に10年あっという間だから」

「そういう問題じゃねーだろこれ」

「早いものね……あれからもう10年か……見て。桜よ。今年も咲いたわね……ふふ。あなたも天国から見てくれてるかしら……」

「お前誰やねん!?」


 突如隣に出現した謎の女に、真実が思わず叫んだ。


「というかココどこやねん!? どうなってんの今の状況!?」

「真実君。覚えてないのかい?」

「は!? 何が??」

「あれは今から3年前……」

「3年前? 今から?」

「そう。その年にタイムマシンが完成して、さらにその2年と5ヶ月後……」

「何て??」

「つまり『最終回』から3話前」

「だからいつの話してるんだよ!? 回想挟み過ぎて訳分からん!」

 

 黒電話が鳴った。どうやら殺人事件の依頼らしい。


「さて、おふざけはこのくらいにして」

「ふざけてんのか。この後も大概おふざけじゃねーかよ」

「今の”回想挟み過ぎギャグ”は、原作にはなかったからね。全くひどい原作改変だよ」

「何だよ原作って。存在しない原作を捏造するな。ちょっと伝わり辛いからって予防線張ってんじゃねーぞ」

「行こう! 過去のことばっかり話してないで、未来の方へ!」

「そんな名言みたいに言われても……」


 藍が探偵コートを着込み、現場へと向かった。漫画の続きも気になったが、一応バイト代はもらってるので、真実は仕方なく彼の後を追った。


◻︎


 事件は都内の某所クリスマスパーティ会場で起きていた。殺されたのはおもちゃメーカーの社長。会場ではジングルベルが止むこと無く延々と繰り返されており、窓際に置かれた大きなもみの木に、その死体は飾り付けられていた。


「そして被害者の背中には、血文字で『サンタさんへ Switch2が欲しいです』と」

「やかましいわ」


 会場には多くの警察官が入り乱れ、現場検証を続けている。そこに部下の1人が駆けつけて、上司の耳元で囁いた。


「警部! 恐らくこれは……例の組織が一枚噛んでるかと」

「例の組織?」

「ええ。『名前が長いあの組織』です」

「うーむ……」警部が目を細め唸った。

「だとすると、やはり15年前のあの事件が関係しているのか」

「15年前……もしかして『東京ヘヴンズアウト事件』ですか?」

「嗚呼。あの時『風車の少年』が持っていた伝説のナイフ」

「いきなり風呂敷広げ過ぎだろ!」


 側でその会話を聞いていた真実が思わずツッコんだ。


「適当なこと言うな! そういう思わせぶりなの、後になって苦しむんだから」

「良いじゃん。広げられるだけ広げといてさ」

 隣にいた藍が助け舟を出した。

「別に無理に全部語らなくても、後から考察系なんちゃらがいくらでもこじ付けてくれるし」

「アイツらこそ適当じゃねーか」

「でもたまに当たってるのもあるよね」


 藍は死体の隣に飾られていた、金色に光る硬貨を指差した。


「見て! あれは……『ニコラス兄弟の金貨』!」

「何て??」

「まさかあの金貨が『半分だけ白の夜』以外で見れるとは……!」

「コイツ……適当な単語を並べて後で考察系にストーリーを補完させようとしている」

「そんなことないよ。ちゃんと深い意味があるんだから」

「嘘つけ。じゃあ何て意味なんだよ?」

「それは……”『ニコラス兄弟の金貨』 検索"」

『はい。”ニコラス兄弟の金貨”というのは、19世紀後半のカリブ海で活躍した2人の海賊が……』

「信じるな信じるな! そんな単語ねぇよ! お前も変な単語AIに学習させんな!」


 結局AIに犯人を聞き、田中が逮捕された。


 数日後。

 藍の目論見通り、YouTubeに事件の考察動画が上がった。事務所のモニターで早速再生を始める。


《つまり、あの『ニコラス兄弟の金貨』というのは実は真犯人の暗喩になっていてぇ……》


「す……すげえ。全部こじ付けられてる」

 モニターを覗き込みながら、真実が唸る。その隣で藍が笑った。

「ここまで妄想力逞しかったら、むしろ作家になって欲しいよね」


《……冒頭の主人公の『メリークリスマス!』というセリフが、実はラスボスの示唆になっていて、ここに作者の隠された主張が》


「深読みし過ぎて訳わかんないこと言ってる!」

「自分の言いたいこといってるだけだろこれ」


《作者は神! 作者は神!》


「何だよ神って。創作活動って宗教か何かなのか?」

「ある意味そうかも知れないね。今は下手に作品否定すると信者に突撃粘着されるからねぇ」

『今後AIによって誰もがクリエイターになったら、作家神話は崩壊し、もう誰も"創造主"を必要としなくなるかもしれませんね』


_________


「……ん? 何だ? この線?」

 不意に目の前に現れた線に、真実が眉をひそめた。和音が肩をすくめる。

『今回の話はここまでです』

「え? オチないの?」

『一応(例)として、お約束通りの終わりも載せますが……上の文章を各々持ち帰って、後はAIに好きなオチを考えてもらってください』

「そんなのアリかよ」

「オチも自由に生成できるんだ。すごい時代になったねぇ」

「思いつかなかっただけなんじゃねーの」

『うふふ。メリークリスマス♪』

「物語の終わり方をプレゼント、ってこと?」

「嫌なプレゼントだな……」


(例)やがてお約束通り、藍がフラフラと夕陽に向かって走り出し、この物語は終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ