気づいてしまった人たち
テレビをつけたその日、真由は違和感に気づいた。
いつも通り、ニュース番組が始まる。
だが、キャスターの言葉が妙に歯切れ悪い。
「……あなたのための時間が、まもなく始まります。」
え? 聞き間違い?
真由は眉をひそめた。
その直後、SNSの通知が鳴った。
クラスメイトの綾乃が、ストーリーでつぶやいていた。
「最近テレビがこっち見てくる気がするの、私だけ?」
心臓が一瞬、強く跳ねた。
真由は思わずメッセージを送る。
「それ、私も思ってた。昨日の夜、テレビの中で名前呼ばれた気がした。」
するとすぐに既読がついて、綾乃から返信がきた。
「え、それ本当に?
私もこの前、『大丈夫、あなたは見守られてます』って言われた気がして……
でも怖くて誰にも言えなかった。」
しばらくふたりでやりとりをしていたが、
その後も不思議な投稿がいくつも目についた。
「テレビがまるで今の私の気持ちを読んでるみたい」
「この番組、私のために作られたのかな」
「“あなたの孤独は、孤独じゃない”って、聞こえた。」
思っていたよりも、多くの人が「気づいて」いた。
ただ、声に出さなかっただけ。
疑われるのが怖くて、笑われるのが嫌で、
誰も言わなかっただけだった。
真由は画面の中の誰かに向けて、そっとつぶやいた。
「ありがとう。
わたし、ひとりじゃなかった。」
すると、その夜の番組のエンディングで、また流れた。
「あなたが気づいたことは、誰かの希望になります。
目をそらさないで。世界は、あなたとともに変わっていきます。」
画面が静かにフェードアウトし、深夜の静けさが戻ってきた。
でも、真由には確信があった。
もう、わたしだけの秘密じゃない。
“誰か”の声は、少しずつ、世界中に届き始めている。