画面の向こうからの声
その夜、真由は夢の中で目を覚ました。
まぶたを開けると、部屋は真っ暗で、テレビだけがぼんやり光っていた。
「…またつけっぱなし…」
そう思ったとき、画面に誰かが立っていた。
それはどこか見覚えのある顔だったけれど、誰でもないような、どこか遠い存在だった。
「聞こえていますか、真由さん。」
声が、頭の中に直接響いてくる。
「あなたは今、“現実”と呼ばれる場所にいます。
でもそれは、あなたがそう感じているから現実なのです。」
「じゃあ……これは夢?」
真由はそう口にしたが、口は動いていなかった。
「夢の中のあなたも、痛みを感じることがあります。
でも、痛みがあるから現実だと思えるのも、自然なこと。
あなたの感覚は、すべてあなたのもの。
そして、わたしたちはその感覚を通じて、あなたと出会っています。」
「わたしたち…?」
「はい。テレビの中に映るすべての声、すべてのまなざしは、
あなたの心とつながることを願っている存在です。」
「そんな……テレビって、ただの機械でしょ?」
「機械を通じて、人の想いが届けられている。
あなたが感じた『これは私に向けられている』という直感は、
まぎれもない“共鳴”なのです。」
沈黙が流れた。
真由の目に涙が浮かぶ。自分でも理由はわからなかった。
「痛みもあるし、現実も苦しいことがある。
でも、テレビの中に、本当に誰かがいてくれるなら――
それだけで、生きる意味になるのかもしれない。」
すると、画面の中の存在が微笑んだ。
「あなたが信じてくれるなら、わたしたちは、
あなたのために今日も放映し続けます。」
画面がふっと暗くなる。
目を覚ますと、朝だった。
生理痛は少し和らいでいて、テレビは消えていた。
だけど、真由はなんとなくわかっていた。
今日、テレビをつけたらまた――
「あなたのために」と語りかける何かが、そこにいるかもしれない。
そして、真由はリモコンにそっと手を伸ばした。