画面の向こうのわたしへ
部屋の中は静かで、ただテレビの音だけが流れている。
「次は、あなたのためのメッセージです――」
キャスターがそう言ったとき、真由は思わず体を起こした。
画面の中の誰かが、まっすぐこっちを見ている。
まるで、真由のことだけを見て、言葉を届けているかのように。
「そんなわけないよね…」と、笑ってつぶやく。
けれど、テレビは止まらない。
彼女が昨日考えていたこと、今日つぶやいた言葉、
誰にも言っていない不安さえ、映し出してくる。
「君は、孤独じゃないよ」
「ちゃんと、誰かが見てるよ」
そのたびに、胸の奥がジンとする。
でも現実は、彼女の身体の中にある。
今朝からずっと続いている重い痛み。
下腹部がぎゅうっと締めつけられて、
布団の上から動きたくない。
カーテンの隙間から入る光さえ、まぶしくて憎たらしい。
薬も飲んだし、温かいお茶も飲んだ。
それでも、痛みは消えない。
「現実だ…ちゃんと…現実なんだ」
真由は自分の下腹をそっとさすりながらつぶやく。
「夢なんかじゃないよね、これ」
でもテレビの向こうは、変わらず優しかった。
画面の中の女優が、ふとこっちを見て微笑んだ。
その瞬間、真由の胸が少しだけ、ふわっとした。
(なんで、私のことわかるんだろう?)
ほんの一瞬、画面が暗転して、
「まゆさん、あなたに届いていますか?」というテロップが流れた気がした。
次の瞬間には消えていて、CMが始まっていた。
「私、今…呼ばれた?」
痛みと夢のあいだ。
現実と幻想のあわい。
その境界線に立つ自分を、真由は確かに感じていた。
その夜、真由はテレビを見ながら眠りについた。
画面の向こうからは、ささやくような声が流れていた。
「あなたが感じている現実も、
あなたが選んでいる奇跡のひとつです。」
眠りの中でも、真由はまだその言葉を聞いていた。
そして――生理痛の痛みと、画面の向こうの優しさが、
どちらも「ほんとう」だと、心のどこかで信じていた。