支店長は右側の壁を調査する。
俺が忙しく仕事をしていると、拓哉がやってきた。
また、あいつが何かしたのか?
今は、地下2階の調査で手一杯なのに…
警戒していると、地下3階に行って魚の魔物を釣ると言う。
そして「餌は何が良いですか?」と聞いてきた。
こいつは、何を言ってるんだ?
意味が良く分からなかった。
俺が「知らない」と答える。
「拓哉。何故知らないか分かるか?危険なダンジョンで、釣りをする人間がいないからだ」すると、拓哉は暫く考え込んでから、黙って部屋を後にした。
あいつ、俺の言っている意味が、分かっただろうか?
それより、今は仕事だ。
溜まった仕事を片付けねば。
はぁ~しんどい。
予定通り、神官達がやって来たと報告があった。
しかし、俺のところに挨拶にも来ない。
C級ダンジョンに併設した支店の支店長だから、舐めているのか?
研究所のやつらとは、大違いだ。
まあ良い。
きちんと自分達の仕事さえしてくれれば、文句は無い。
俺は、明日に備えて、仕事を切り上げる。
無事に終わってくれ…
調査当日、みんなで地下2階に進む。
足場の設置も終わっていて、シーフの男を先頭に1列になって足場を登る。
上にたどり着くと、拓哉からの報告通り、トンネルが見える。
トンネルの前に集まり、装備の最終確認をする。
両手が塞がっていると、急な事態に対応出来ない。
ヘルメットにサーチライトをセットし、シーフの男を先頭に中に入った。
暫く進むと、レイスが現れた。
神官1名が結界を展開して防ぎ、その間にもう1名が呪文を唱える。
すると、魔法が展開し、レイスは光の粒子になって消えた。
後には魔石だけが残る。
その魔石を回収して、先に進む。
また、レイスが現れた。
今度は先ほどとは逆に、魔法の呪文を唱えた神官が結界を展開。
もう1人が聖魔法を唱える。
交代しながらレイスを倒す。
そのまま先に進んで行く。
魔法職のJOBを持ち、初級なら聖魔法が使える女性を予備人員として連れてきていた。
彼女に聞くと、結界魔法より聖魔法の方が魔力消費が大きいから、交代で聖魔法を使っていると聞いた。
俺は、魔法職では無いから知らない情報だった。
神官達がレイスを倒し、どんどん先に進む。
神官達が魔力ポーションを飲む。
貴重なドロップアイテムだ。
さすが、本部所属の神官だ。
レアアイテムを躊躇無く使う。
レイスを倒しながら、さらに先に進む。
神官達が、だいぶ疲れている様だった。
その時、シーフの男が罠を発見したと報告してきた。
拓哉からの情報は事前に伝えてある。
シーフの男が、ダンジョン内でも消えにくい特殊な塗料で、罠に目印を付ける。
道の真ん中と左側だ。
しかし、右の壁にある罠が、なかなか発見出来ない。
まあ、焦る必要は無い。
慌てて事故でも起きると厄介だ。
それに神官達を休ませる事が出来る。
30分ほど経過して、やっと右側の罠を発見したらしい。
「罠があると分かっていても、なかなか発見出来ない程の巧妙な罠だった」と、シーフの男が言った。
罠に目印を付けて、レイスを倒しながら、先に進む。
やっと奥にたどり着く。
拓哉からの報告通り、両開きの大きな扉があった。
神官達は、バテバテだ。
ここで休憩を取る事にする。
シーフの男に警戒を頼む。
それと、魔法職の女性に、もし、レイスが襲ってきたら、足止めを頼んだ。
レイスの魔石を数えると、19個だった。
拓哉が納品したレイスの魔石は200個を越えていた。
やはり、拓哉が数を減らしてくれていなかったら、ここまでたどり着けなかっただろう。
あいつに感謝だな。
休憩が終わり、シーフの男に扉を少しだけ開けるように言う。
中を確認する為だ。
俺の指示を受けたシーフの男が、扉を少しだけ開ける。
俺が中を覗こうとした時、シーフの男が扉を閉めた。
中の様子がまったく見えなかった。
俺はシーフの男を睨む。
するとシーフの男が後ろを指差す。
俺が振り返ると、神官2名が床に座り込み、ガタガタとふるえていた。
魔法職の女性も、何とか立っている状況だ。
「何があった?」俺が魔法職の女性に聞くと「物凄い魔力の風が吹き荒れた。その魔力の風は禍々しい魔力だった」と言った。
魔法職の人間は、魔力感知と言うスキルを持っているから、魔力に敏感だ。
きっと禍々しい魔力に当てられたのかも知れない。
俺が「探索を続けられるか?」と聞くと、神官は2名とも首を横に振る。
これ以上は無理だな。
頼みの神官がこれでは話にならない。
俺は、探索中止の決断をした。
「撤退する!」俺の指示を聞き、シーフの男を先頭にトンネル出口に向かって進む。
神官達は、腰が抜けていて、自力での歩行が困難な状況だったので、同行するスタッフが肩をかす。
そしてトンネルを出た俺達は、支店まで戻り、そこで解散した。
レイスはすべて討伐した。
これで、また、時間が稼げた。
しかし、根本的な解決にはならない。
どうしたものか…
取り敢えず、先に報告書の作成に取り掛かる。
すると、支店のスタッフが入ってきて「神官が2名とも帰ってしまいました」と報告しくる。
途中放棄か?しかも、支店長の俺に無断で!
ふざけやがって!!
俺は常務に文句を言おうと受話器をとる…いや、まてよ。
俺は受話器を降ろす。
神官達が本部に戻れば、常務は状況を聞くはずだ。
俺が電話で説明するより、神官達から直接説明させた方が良いか…。
俺は、報告書の作成を続けた。




