支店長は忙しい①
俺が仕事をしていると、拓哉がやってきた。
今日は、ダンジョン地下2階に行ってきたと言う。
「あそこには、何も無かっただろう?」俺が言うと、拓哉が左側の壁の上の話を始める。
鋭い刺のある、サボテンみたいな植物が生えていた事や、大きな岩の間を体を横向きに進み、進んだ先に女神の石像があった事。
足元に宝箱があり、中から大きな卵が出てきた事を話す。
そしてリュックサックから魔獣の卵を取り出し、俺に見せる。
あの壁の上に、そんなものがあったのか!
その報告を聞いた俺は、探索者協会として、調査が必要だと判断する。
しかし、あの壁をどうやって登った?
壁は粘土質だ、よじ登るなんて不可能だ。
俺が聞くと「精霊の風魔法で登りました」と言う。
そんな事を報告書に書ける訳無いだろう!
俺は心の中で、叫んだ。
話はそれで終わらなかった。
右側の壁の上にトンネルがあると言う。
トンネルの中には、大量のレイスがいたそうだ。
後で、拓哉が納品した魔石を確認すれば、本当か?すぐに分かる。
拓哉が嘘をついているとは思えない。
さらに話は続く。
罠があったとか、トンネルの奥に両開きの扉があり、扉を開けて中に入ったら、大きな魔法陣が現れて、リッチが召喚されたと言う。
リッチだと!
そんな化物が現れたと聞き、俺の背中に汗が伝う。
しかし拓哉は「フリージアが肩にタッチしたら消えちゃったんですよ~」と呑気に言う。
あり得ないだろう!?でも…光の精霊なら、あり得るのか?
俺がそんな事を考えていると、拓哉はリュックサックから魔石を取り出す。
それは、見た事も無い巨大な魔石で、しかも赤い色だった。
俺は赤い色の魔石なんて初めて見た。
さらに、ミミックを倒し、宝箱の中から、また、魔獣の卵が出たと言い、リュックサックから取り出して、俺に見せる。
これは不味い。
もし魔物が飽和状態になり、トンネルから溢れ出てきたらと思うと、鳥肌が立つ。
あの階層は新人探索者しかいない。
もし、そんな事になれば、大災害が発生するところだった。
拓哉が討伐したから、次の魔物が発生し、飽和状態になるまで、まだ、時間があるハズだ。
なるべく早く、調査しなければ…
拓哉が帰った後、俺は大急ぎで報告書を作成した。
俺は、危険が少ない、左側の壁の上から調査する事にする。
誰を探索メンバーとして連れて行くか?
壁の上に登るには足場を組む必要がある。
建設会社に足場を組む仕事の発注をしたら、
現地を確認したいと言われ案内したり、地盤が弱いから、補強が必要だと言われ手配を依頼したり、見積書を確認したり、本当に忙しい。
俺には通常の仕事もある。
それをやりながら、探索の準備だ。
毎日、残業続き。
そこで俺は、地区本部に増員を申請した。
しかし、一時的な事に増員は出来ないと却下された。
くそー!
すると、電話がかかってきた。
相手は、地区本部の副部長だった。
俺が以前、北関東にあるA級ダンジョンに併設された支店に勤務していた時、支店長をしていた人だ。
俺に仕事を教えてくれた師匠でもある。
副部長は「君が大変だろうから、僕の部下1名を期限付きで応援に行かせる」と言ってくれた。
本当にありがたい。
あの人は、現場上がりだから、現場の苦労をわかってる。
副部長の事だ、優秀な人材を派遣してくれるだろう。
その人に、俺の通常業務の一部を頼み、空いた時間を探索準備に充てられる。
そして、俺は仕事の続きを始める。
今日も残業だ。
俺は管理職だから、いくら残業しても残業代も出ない。
でも、探索者達は命掛けで頑張っているんだ。
俺も頑張るしかない。




