正木君とドンスラ。
僕はドンスラを頭の上に載せて草原を歩く。
僕の行く手を阻む、愚かなスライムを倒しながら歩く。
討伐したスライムの魔石を拾う時も、ドンスラが頭の上から落ちない様、気を付けながら拾う。
そして一本道に辿りつく。
今度は一本道をダンジョン地下2階に向かって歩いて行く。
スライムなんか倒しても、たいした経験値にもならない。
だから僕は、ゴブリン狩りをする事にしたのだ。
ゴブリンなら僕一人で倒せる。
僕は成長したのだ!
ダンジョン地下3階に居る角ウサギの魔物は動きが速い。
角ウサギとの戦闘の時、ドンスラを頭から落としてしまうかも知れない。
だから僕は、1人でゴブリン狩りをする事にしたのだ。
暫く歩いて、地下1階から2階の階層を繋ぐ洞窟に辿りつく。
僕が洞窟に入ろうとするが、何故か?入れない。
…何故だ?
何か目に見えない透明な膜?みたいな物に行く手を阻まれてしまい、先に進めない。
どうなってるんだ?
僕は何時かチャレンジしたけどダメ駄目だった。
何故なんだ?
僕が考え込んでいると、後ろの方から話し声が聞こえてきた。
誰か?来たみたいだ。
僕が後ろを振り返ると、探索者パーティーが歩いてくるところだった。
若い男女で、装備も新しい。
新人パーティーか…
パーティーリーダーらしい男性が話し掛けてくる。
「あの~何をしているんですか?」
僕は「下の階層に行きたいんだけど、何かに阻まれて、先に進めないんだ」と答える。
「そうなんですか…確か…探索者協会の新人研修で、魔物は階層を越えられないって、言ってたような…」
「ところで、何故?スライムを頭に載せてるんですか?」
ヤバい。
テイマーになって、美鈴さんとお近づきになろう作戦がバレてしまう。
もし、白石の耳にでも入ったら、絶対に邪魔される。
「うるさい!早くどっか行け!」
僕が怒鳴ると、新人探索パーティーは、それ以上何も言わずに歩いて行った。
探索者達が見えなくなり、僕は今の状況を考える。
…そうか…ドンスラがいるから階層を越えられないのか…
魔物はダンジョンの階層を越えられない。
例外は2つ。
テイムされた魔物の場合。
それと、ダンジョンスタンピードの時だ。
この2つの例外以外は、魔物はダンジョンの階層を越えられない。
そう講師が言っていた。
さっきの新人探索者達が言っているのを聞いて、思い出した。
僕は頭の上にドンスラを載せている。
だから先に進めなかったのだ。
まあ、仕方ないか…
僕はこの階層で、スライム狩りをしながら時間を潰し、ドンスラのテイムに成功するのを待つ事にした。
また、探索者達に話し掛けてられたら面倒だな。
だから僕は、一本道を避けて草原に向かう事にした。
途中で見掛けたスライムを倒しながら草原を進む。
うん?
何だ?
何だか…頭の天辺がむず痒い。
頭の上にドンスラを載せてるし…汗でも掻いたのかな?
僕はそのままスライムを倒しながら、草原を進んで行く。
ううん?
何だか、頭の上がヒリヒリし出した。
痛痒い感じだ。
何と表現したら良いか…日焼けした後みたいな感じ?
僕はそのまま草原を進む。
すると、だんだん頭の上が痛くなる。
い…痛い…!
僕の頭に何が起こってるんだ?
僕は顎紐を外し、頭の上からドンスラを降ろす。
ドンスラが逃げない様に、網ネットに中に入れたままだ。
僕は左手で頭の上を触る。
う~ん?
何か?おかしいぞ…髪の毛が無い?
僕の左手が、本来なら髪の毛があるハズの場所を素通りして、ダイレクトに地肌に触れた。
い…痛い!
僕は左手の指を見る。
すると、かすかに血が付いていた。
何だ?
何が起こった?
僕は左手で頭を触りながら確認する。
すると…頭の天辺の髪が、丸いお皿の様に無くなっていた。
何故だ?
僕の髪の毛は、いったい何処へいった?
僕は考える。
…そう言えば、スライムは何でも溶かして食べてしまう魔物じゃなかったか?
ひょっとして…こいつ…僕の大切な髪の毛を食べたのか?
僕はドンスラを見つめる。
おい!食べたか?
食べたのか?
僕の大切な髪の毛を…
こいつ!!
この馬鹿スライム!
ふざけやがって!!
頭にきた僕は、剣でドンスラを始末する。
お洒落にも一切手を抜かない、僕の…大切な髪の毛を食べるなんて!
この馬鹿スライムが!!
くそー!
僕の頭はカッパの様になった。
不味い!一刻も早く治療をしなくては…
恥ずかしくて、学校に行けなくなってしまう!
僕は急ぎ足で草原を抜け、ダンジョンゲートに向かった。
★★★★★
ダンジョンゲートを抜けた僕は、探索者協会の支店に併設されている診療所に向かう。
支店の中で、何人かの探索者とすれ違う。
「その頭…どうした?」
話し掛けてくる探索者もいたが、そんなのは、当然無視だ!
今はそれどころじゃない。
早く治療してもらわなくては…
僕が診療所の中に入ると、看護師さんが「どうしましたか?」と聞いてくる。
僕は頭を屈めて、頭の天辺を見せる。
「血が出てますね~診察室にお入り下さい」
僕は診察室に入る。
医師が「どうしたの?」と聞いてくる。
いま、看護師に見せただろ!
何度も同じ事聞きやがって!
僕は黙って頭の天辺を見せる。
「これは酷いね~で…どうしたの?」
見れば分かるだろ!
僕は仕方なく説明する。
「頭の上にスライムを載せていたら、こうなりました…」
「成る程…スライムは何でも溶かしてしまうからね~それで髪の毛や皮膚を溶かされてしまったんだね?」
「…はい…そうです…」
「取り敢えず消毒しようか」
医師が僕の頭を消毒する
消毒液を浸したガーゼをピンセットで摘み、僕の頭をポンポンする。
い…痛い…染みる…
医師が「治療方法なんだけど、塗り薬とポーション。どっちにする?塗り薬なら保険適用だけど、ポーションは保険の適用外だから高いよ?その代わり治療も早く終わるけど…」
僕には宝くじの当選金がある。
だから答えは1つ!
「ポーションで!」
その後、医師が僕の頭にポーションをかけてくれる。
そのお陰で頭の痛みがなくなった僕は、ほっと溜め息をついた。
そして頭を触る…
う~ん?
…おかしい…
髪の毛が生えていない。
ポーションをかけたから、元通りじゃないの?
「先生!髪の毛が生えていませんが?」僕は先生に聞く。
すると「それはそうだよ。皮膚だけじゃ無くて、毛根まで溶かされたんだから…もう生えて来ないよ」
…ふざけんな!
僕はこの先、ずーっとカッパみたいな頭で過ごさないといけないのか?
うそだよねー?
「ポーションで皮膚は再生したから治療は終了。毛根まで再生させるのは無理なんだよ」と先生が言う。
ふふふ。
僕には宝くじの当選金があるのだ!
「先生!もっとランクの高いポーションは無いんですか?例えばエクサーとか?」
「ああ、エクサーってライトノベルに書いてあるらしいね。たまに探索者から聞かれるんだよ」
「でも、エクサーと言われる様な物は、今のところ発見されていないよ」
「…そうですか…」
その日、家に戻った僕は、鏡に映る自分の姿を見た。
僕の頭はカッパの様になっていた。
あの馬鹿スライムめ!
怒りが込み上げてくる。
チキショー!!
僕は仕方なく、学校を休んでカツラを買いに行った。
★★★★★
正木君が頭の治療をしていた時、カーテン1枚隔てた隣で、怪我の治療をしていた探索者がいた。
そして、先生と正木君の会話を聞いていた。
人の口に戸は立てられぬ。
瞬く間に正木君の噂話が広がる。
正木君は勇者を名乗っている。
だから、当然、探索者達の注目が集まる。
そして探索者達が、正木君の噂話を広めて行く…
その日から正木君は探索者達から“カッパの勇者”と影で呼ばれる様になった。
正木君の二つ名である。




