獣魔の卵から…
翌日、僕は何時ものルーティンを行う。
窓を開け放ち、風魔法で部屋の埃を外に吹き飛ばしてもらう。
次に裏山ダンジョンに向かう。
アンバーに入口を塞いでいる岩を退けてもらい中を覗くと、今日もスライムが湧いていた。
今日は精霊にスライム討伐をしてもらう前に、自分のスキルの実験をする事にする。
僕は手の平に小石を載せる。
そして、スライムを観察する。
体が透明な膜で出来ていて、体の中で魔石がゆっくりと動いている。
意識を魔石に集中して、手の平にある小石とスライムの魔石の場所が入れ替わるイメージをして…魔法を発動させる。
「チェンジ!」
すると、魔石と小石の場所が入れ替わった。
やったぞ!成功だ!
魔石が無くなったスライムが、光の粒子になって消えた。
そしてスライムが消えた場所には、僕が手に持っていた小石が落ちていた。
よし!実験成功だ!
僕はアンバーに残りのスライムの討伐を頼んだ。
アンバーが魔法を発動させる。
地面から、土の刺が飛び出して、次々にスライムが討伐され、光の粒子に変わった。
スライムの討伐が終わり、僕はアンバーに入口を塞いで欲しいとお願いし、今度は家庭菜園に向かうと、ルピナスが水魔法で野菜に水やりを終わらせてくれていた。
毎朝のルーティンを終わらせた僕は、自転車で中森家に向かった。
中森家に到着し、玄関を開けて中に入る。
「おはよう御座います!」
…おかしい…何時もなら、美鈴さんが出迎えてくれるのに…
僕は、そのまま家の中に入って行くと、和室に全員集まっていた。
美鈴さんにお母さん。
健太さんと、スノーに白玉。
それと…黒いトカゲ?
美鈴さんが「見て!拓哉さん。この子が新しく生まれた獣魔の黒蜜ちゃんです!」
美鈴さんが両手で持ち上げて見せてくれる。
うん…やはり、トカゲだ。
もふもふじゃなくて、ちょっぴり残念だ。
僕がそう思っていると、美鈴さんが衝撃の事実を口にする。
「黒蜜ちゃんは、ブラックドラゴンです!」
…いま、ドラゴンと言わなかったか?
「マジか?」
「うん。マジだよ!私の鑑定スキルで確認したから、間違いありません!」
「この子は、まだ子供だけど…大人になると、けっこう大きくなるみたいなの」
「それで、家で飼うのは難しいから、どうしようかって話してたの…」
「それなら、ダンジョン地下1階の天空の城が良いんじゃない?風の妖精達に危害を加えなければ、風の上位精霊もダメって言わない気がする」
「大きくなって、家で飼えなくなったら、天空の城に連れて行こう!」
「それに、必要な時には召喚すれば良いし…」
僕が風精霊のアネモネに、ダンジョンまで行って、風の上位精霊に打診して欲しいとお願いすると、アネモネは凄いスピードで飛んで行った。
…これは、もの凄い事が起こってしまったのではないだろうか?
スノーと白玉を見せた時も支店長は驚いていた。
これは、間違いなく支店長への報告案件だ。
昨日、獣魔の卵をゲットした事を支店長は知っている。
絶対にバレる。
報告しないと怒られる。
僕がそう考えていると「今度の土曜日に探索者協会に行って、獣魔登録するから拓哉さんも一緒に来てね!」
美鈴さんがそう言った。
「うん。分かった」僕は答える。
こうして僕達は、今度の土曜日に探索者協会の支店に行く事になった。
美鈴さんとお母さんが朝食の準備を始めた頃、アネモネが戻って来た。
うんうんと首を縦に振る。
どうやら風の上位精霊との話し合いは、上手くいったみたいで、僕は一安心した。




