拓哉と美鈴、危機一髪
魔法陣の中に入ると、一瞬で景色が変わった。
真っ暗で、何も見えない。
僕がフリージアに光の玉を出してもらおうと、声を掛けようとしたら、部屋の両側の松明に明かりが灯る。
手前から、だんだん奥に向かって明るくなってゆく。
始めは真っ暗だった部屋が明るくなり、部屋全体が見える様になった。
かなり広い部屋で、学校の体育館ほどの広さがありそうだ。
床も壁も天井も、総てが石作りだった。
1番奥には祭壇があり宝箱が1つ。
美鈴さんが「宝箱があるよ!」と言う。
アネモネに罠がないか?調べて欲しいと頼むと、アネモネが宝箱に向かって飛んで行く。
僕と美鈴さんは、宝箱に向かってゆっくり歩いて行った。
僕達が部屋の真ん中辺りに差し掛かった時、アネモネが宝箱に風の刃を放ち、攻撃を開始した。
どうやら、罠だったみたいだ。
宝箱の蓋が開くと、牙がびっしりと生えている。
確か…リッチと言う魔物を倒した時にも遭遇した魔物だ!
ミミックだっけ?
そんな事を考えていると、アネモネが魔物を倒した。
魔物は、光の粒子になって消える。
魔物がいた場所には、魔石が残っていた。
「あの宝箱…魔物だったんだ」美鈴さんは、お宝が出なくて残念だったみたいだ。
でも、こればかりは仕方ない。
僕は祭壇に歩いてゆき、魔石を拾って、巾着袋にしまった。
精霊達に部屋の中を調べて欲しいと頼むと、精霊達が、部屋の壁や天井等を調べ始める。
…なんだか、精霊達の様子がおかしい。
精霊達が集まり、会議?をしているみたいだ。
どうしたんだろう?
僕は精霊達のところへ歩いて行った。
精霊達から、危険とか、早く逃げろとかの感情が伝わってくる。
僕は美鈴さんに「精霊達が危険だから、早く逃げろ」と言っていると伝えて、2人急いで部屋の魔法陣のところに戻って行った。
2人で魔法陣の中に入るが、魔法陣が反応しない。
どう言う事だ?
ダンジョン1階にある魔法陣は、行ったり来たり出来るのに、どうなってるんだ?
僕達は、何度も魔法陣の中に、出たり入ったりするが、まったく反応しない。
ひょっとして、一方通行の魔法陣なのか?
これは、ヤバいぞ!
部屋の中に閉じ込められた!
マジでヤバい!
「美鈴さん。どうやら、一方通行の魔法陣みたいで、僕達はこの部屋に閉じ込められたみたい」と僕が言う。
すると美鈴さんは「焦っても良い考えが浮かばないから、お茶でも飲んで、落ちつこう!」
そう言って巾着袋から、お茶が入った水筒を出す。
僕も自分の巾着袋から、レジャーシートを出して床に敷く。
美鈴さんが「脳には糖分補給が良いらしいから、これ食べて」と言って、チョコレートを出してくれた。
僕達はレジャーシートに座り、お茶を飲みながらチョコレートを食べる。
僕は精霊達に、壁に隙間がないか?壁に薄い場所がないか?詳細に調べ欲しいと指示を出した。
精霊達が部屋の中をもう1度調べてくれた。
どうやら、空気が通る隙間も無いらしい。
つまり、この部屋の空気をすべて吸ってしまうと、窒息すると言う事だ!
これは、過去最大のピンチではないか?
マジでヤバいぞ。
あっ!そう言えば、土の上位精霊に会ったとき、ビオラの影魔法で、別の部屋に移動したな。
僕はビオラに影魔法で、ここから移動出来ないか?尋ねる。
するとビオラは影の中に消えていった。
暫くするとビオラが影の中から出てきて、うんうんと首を振る。
よし!ここから脱出が出来そうだ!
僕は美鈴さんに「ビオラの影魔法で、ここから脱出出来そうだよ!」と言う。
すると美鈴さんが「じゃあ片付けてから、脱出しようね!」と言って笑った。
僕はアンバーに魔法陣の破壊を命じる。
アンバーは、僕の指示に従い、土魔法で魔法陣を破壊した。
これで、僕達みたいに罠にかかる探索者はいないはずだ。
僕達は、荷物を片付けて手を繋ぐ。
そして、ビオラの魔法で影の中に入って行った。
フリージアが小さな光の玉を出してくれて、その光の玉の後を付いて行く。
暫く歩くと、光の玉が消える。
どうやら、目的の場所に辿り着いたみたいだ。
僕達の体がゆっくりと上に上がって行く。
そこは、最初に入った、大きな木の中に魔法陣がある部屋だった。
僕が魔法陣を見ると、魔法陣はもう光っていなかった。
多分、反対側の魔法陣を破壊したからだろう。
精神的に疲れた僕達は、今日の探索は終わりにして、戻る事にした。
探索者になってから、最大のピンチだった。
あ~疲れた。




