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ある主張

作者: 雉白書屋

「それじゃあ、乾杯!」

「カンパーイ!」

「かんぱーい!」


 夜、とある飲み屋のテラス席。頭上には星々が煌めき、この出会いを祝福しているかのようだ……そんな陳腐な口上を述べたあと、六名の男女がグラスを掲げて乾杯した。合コンということで、どこか浮き足立った空気が漂っている。ただ一人を除いて……。


「じゃあ、まずは自己紹介からいきますか! では僭越ながら、自分から。えー、ロービード大学出身のミモトです。よろしく!」

「よろしくー!」

「えー! すごーい、名門大学じゃない!」


「ははは、おいおい、大学なんて関係ないだろ? 僕はマルビツ商事に勤めているニムラです。どうもよろしく」

「よろしくー!」

「すごい! 大企業!」


「ははは、お前ら露骨にアピールすんなよ。おれは普通にやるよ。どうも、イチガヤです。ちなみに、ミップリ区のタワーマンションに住んでまーす!」

「あはは、よろしくー!」

「えー! あそこ家賃高いよね。すごー!」


「ははは、お前もアピールしてんじゃん! じゃあ、次は女性陣の自己紹介お願いします!」

「はーい! あたしは――」


「あの」


「ん? どうしたの? 先に自己紹介する?」

「おー、いいね! 積極的!」

「いいよいいよー!」


「いや、そうじゃなくて、ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど、いいですか?」


「え、俺たちに? 別にいいけど、なあ」

「うん」

「なになに?」


「いえ、全員にお聞きしたいんです。皆さん、どこの出身ですか?」


「どこって、俺は生まれも育ちもここだけど」

「うん、僕も」

「おれはテックだけど」


「え、テック!? あたしと一緒じゃん!」

「え、マジ!? うわ、すげー偶然じゃん! 滅多に出会わないよ。これって運命――」


「あの!」


「え、はい」

「なに……?」


「私は、親がプロックの出身です」


「へー、そうなんだ」

「プロック? ふーん……」

「ほー」

「そう……」

「へー……」


「えー、じゃあ、この流れで引き続き、女性陣の自己紹介をお願いしま――」


「あの!」


「うお、びっくりした。何……?」


「私がプロックの出身だって聞いて、皆さんどう思いましたか?」


「え、どうって言われてもなあ」

「うん、よく知らないし」

「ああ」

「あたしたちも、ね」

「うん……」


「本当に知らないんですか? さっき、妙な間がありましたけど。本当は知っていることを隠しているんじゃないですか?」


「いや、本当に知らないし、急にどこの出身か言い出して、どうしたのかなと思って」


「本当に知らない?」


「え、うん。ははは、嘘つく理由がないし。なあ」

「ああ」


「本当に知らないのなら勉強不足でしょう!」


「うおっ、だから君、テーブルを叩くのはやめなよ……」


「差別主義者め……」


「ええ!? 俺が!?」


「あなただけじゃない、皆さんですよ!」


「いや、え? でも、何もしたり、言ってないよね」

「うん……」


「プロック出身者がどんな差別を受けてきたか知らないってことは、その差別の歴史を風化させたい勢力に加担していると同じことなんですよ! 差別主義者の仲間だ!」


「いや、ええぇ……」

「そもそも、出身なのは君じゃなくて、親なんだよね?」

「おい、よせよ……」


「正確には、祖父が、です」


「じゃあ、君はあまり関係ないんじゃないの?」

「おい、やめとけって」


「関係ない……? 関係ないって何!」


「だからやめとけって言ったのに……」

「また火がついたぞ……」

「いや、彼女、つきっぱなしでしょ」


「私を勝手にあなたたち差別主義者の仲間にしないでよ! いい!? 『知らない』からって『存在しないこと』にしないで! 私たちが差別を受けてきた歴史は存在するのよ!」


「おい、謝れよ……」

「ああ、その、ごめんなさい……」


「……謝ったらそれで終わりなの? ねえ、終わりなの!?」


「じゃあ、どうしたら終わるんだよ……」

「あの、あなたがどこの出身でも関係ないよ。気にしないし」

「おい、『関係ない』は……」


「か、関係ない……? 私がどれだけ悩んできたと思っているの……? 簡単に『関係ない』とか言わないでよ! 軽く扱わないで!」


「ねえ、君たち、どうして彼女を連れてきたの?」

「いや、あたしたちもよく知らないと言うか、一応彼女も同じ職場なんだけど……」

「来る予定の子が今日風邪で休みで、それで、なんか流れで……」


「あなたたちの無意識の偏見が、言葉や態度に現れて私を傷つけているの! それがわからないの!? わからないなら、人間なんてやめちまえよ! ケダモノ!」


「君は今、明確に人を傷つけていると思うけど……」


「差別は存在するの……。それで傷ついている人たちがいるのよ……。私はそれを伝えたい……」


「いや、知らなかったから差別のしようがないんじゃないか?」

「おい、だから『知らない』は禁句――」


「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」


「ほらー」

「わ、悪かったよ。今ネットで調べるからさ!」


「セクシャルハラスメント!」


「なんで!?」

「結局どうしたらいいんだ……」


「はあ……それを差別主義者のあなたたちが自発的に考えることが大切なんだってことに、まだ気づかないの?」


「はっきりと人を差別主義者と……」

「えっと、じゃあ、今ここで話し合ったらいいの?」

「合コンなんだけどなー」


「こんな公の場で差別を話題にするなんて、無神経!」


「もう手詰まりだよ……ん? なに見てんの?」

「調べてるんだ。えっと『宇宙動物保護庁によって救出されたプロック星の住民たちは、受け入れを表明した各星に移住し、コミュニティを築いている』」


「私たちの先祖がこの星に連れてこられてから、どんなひどい扱いを受けたか、うううぅぅぅぅぅぅ!」


「『彼らは汚染された民として迫害されたと主張し、現在も宇宙連邦から補助金が交付されている。プロック星は別名地球と言い、住民たちの環境破壊によって汚染物質が蔓延しており、入星は禁止されている』」

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