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Prolog『いつかの記憶』

 どこにでもある、至って普通の日記帳。

そんなノートを、彼は手に取った。



━━━━━━━━━━━━━━━

"水無月

 その日は、気分も落ち込む様な大雨でした。


風も強く、人一人すら歩いていない天候。

そんな日に、私はお母様と散歩に出掛けました。"


━━━━━━━━━━━━━━



「お母様、どうしてこのような天気の中出掛けるのですか?」

その少女は、傘を差している母親を見上げ、首を傾げそう言った。

「ふふ、この様な日だから出かけるのですよ、鏡華」

母親はしゃがんで微笑み、まるで天の遣いのような顔を少女に向けた。

その少女『鏡華』は、さらに分からないと言った表情で、

「晴れている、晴天の天気の日に出掛けた方が気持ちがいいと思います」

透き通る、鈴のような可愛らしい声で言った。

「私もそう思います。ですが、散歩に天気など関係ないとも思っているのです。目的なんて要らない。歩きたい時、好きな場所を歩けばいい」

母親はまた歩き出した。

少しの間、無言が続いた。




「…だとしても、今日は天気が悪すぎます。」

「ふふ、私もそう思います」


━━━━━━━━━━━━━━


"お母様は、本当に分からない方でした。

自分から言ったことを、自分で否定する。でも、そんなお母様も私は好きです。



数刻後、思いもよらない事が起こりました。"



━━━━━━━━━━━━━━━



「お母様、本当に何の目的も無しに散歩をしているのですか?」少女は額に汗を浮かばせていた。

「…」

「お母様?」

しかし、母親は答えない。少女の顔が強ばっていく。

「散歩でこんなに山奥まで行くなんておかしいです。どうにかしています」

彼女達は、少し歪で暗い山道を歩いていた。

「…っ、」

「お母様っ!」

「どうしたのですか?気分が悪いのでしょうか。」

母親が突然傘を放り出し、蹲った。

風の影響で、傘がどこからへ飛んでゆく。

「ぁ…ぁ」

「お、お母様?」

バッ、と母親がいきなり鏡華の方へ向いた。

「っっ!!」

「お母様…?来ないで…!」

その声は震えていた。

「誰かっ…!誰か…!!」

少女の母親は、「怪異」へと変貌していたのだ。



━━━━━━━━━━━━━━━


"お母様が怪異に突然変異しまったのです。私は、その後の記憶がありません。しかし、目を覚ました時には見慣れた寝所に横たわっていました。




でも、その後、お母様の姿を見ることはありませんでした。お母様は、もう──"


━━━━━━━━━━━━━━━





彼は、そこまで読んで、その『日記帳』を燃やし尽くした。




「こんなのは、日記に記すようなものじゃ無い」




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