逆落とし
「お断りいたします!」
「お断り?!どうして?!」
「南の拠点の防戦はお断りいたします。代わりに東の崖を下ることにします。」
「「?!」」
ウィルマと伯爵は口をあんぐりとあける。
「崖下りなどできるはずが……?!」
「レディー?いかがされますか?」
「……私は」
「ウィルマ。不可能だ!」
「私はやってみないとわからないと思います!」
ウィルマはレェーネの目を真っ直ぐに見つめた。
「では、兵と馬を用意していただきたい。」
「そんな事できるわけ…」
「おじいちゃん、やってみよう!これしかない!このまま南が陥落するのを待つよりこちらから奇襲するほうが勝算がある!」
「……わかった。」
ウィルマに説得されて伯爵はそれを許可した。
早速兵士達を集めたレェーネをみた兵士達はレェーネをバカにする。
「こんなちびに兵の指揮なんてできるわけない!」
「ふざけるな!戦争はあそびじゃねーんだ!」
「帰れ!」
それを聞いたウィルマは抗議しようとしたがレェーネが止める。
「よかろう。文句のあるやつはかかってこい!!」
そう言ったが最後、レェーネに逆らうものは誰1人としていなくなった。この時の事をウィルマはこう語る。あれは化け物か何かなのか?と……。それほどにレェーネは強かった。一体数人でも全く引けを取らないばかりか全ての挑戦者に怪我を負わせずに勝利した。あまりの力の差に恐怖すら覚えるほどだ。
「さぁ、文句はないな?では、ゆくぞ!」
兵士達は鎧をまとい武装して馬に乗る。レェーネは武装なしで乗る。
「大丈夫ですか?レェーネ様?」
「俺はこれで慣れていますので、では、失礼します!」
そう言って兵を率いて馬を走らせる。問題の崖など何のその。
先駆けするレェーネ。その姿は白馬の王子そのものであるのに血にまみれてゆく。ウィルマはそんなレェーネの姿を城から見守っていた。一騎当千、千人斬りの英雄。その言葉通りの姿だった。敵はあっという間に切り倒されてゆく。
「信じられん…伝説は本物だったのが!」
伯爵は驚きと歓喜から柵へと身を乗り出す。
「ええ、まさかあのおとぎ話のような、国が滅ぶ時、一騎当千の英雄が姫によって召喚される…あの伝説が本物となるなんて!」
ウィルマも敵をあっという間に倒してゆくレェーネに希望をいだいた。レェーネはみるみるうちに敵を倒して東の拠点を占拠してしまった。
「うぉおおおっ!!」
レェーネの声に答えるように兵士達も声を上げる。ウィルマはそんな夢のような光景にただただ目を輝かせるのだった。
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拠点占拠から兵士達はレェーネの事を慕うようになった。
「レェーネ様!次の作戦はどうなるのでしょうか?」
「レェーネ様!是非剣の稽古を付けていただきたい!」
皆レェーネを英雄のように扱いだした。
「レェーネ様!」
「ウィルマ様。」
ウィルマはレェーネへとかけて行く。
「レェーネ様!お見事にございます!」
「いえ、今回は運が良かっただけです。敵が崖に注力していなかったからできた作戦ですから。」
「いいえ、それで貴方の働きは目を疑うものでした。さすがは一騎当千の英雄様!」
そう言われたレェーネの顔は曇った。
「……英雄などではありません。ただの人殺しですよ。」
「……レェーネ様。お優しいのですね。」
「いいえ、全く。」
そこに伯爵がやってくる。
「レェーネ様!」
「ご老体。」
「素晴らしい働きでした!我が城を救ってくださり、ありがとうございます!」
「いえ、戦いはこれからです。」
「レェーネ様!血まみれですからお風呂でもどうでしょうか?」
「確かにそうだな。すぐに用意させます。」
「レディー、ご老体、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて…」
こうしてシャワーに向かったレェーネ。そんなレェーネの新しい服を持ってゆくウィルマ。シャワールームにて、
「ここにおめしかえを置いておきますね。」
「ありがとうございます。」
レェーネがシャワーを浴び始めた。ウィルマは部屋から出ようとしたその時、足を滑らして転んでしまった。そのひょうしにカーテンへと持たれかけてしまう。カーテンのその先へと転んだ。
「い、たた……ごめんなさっ……?!」
「レディー、大丈夫ですか?」
そこでウィルマは目にしたものに驚いた。
「え?じょ、女性?!」