無用の長物
Side Lars
「なァリズ姉……、ガントレット作って欲しい」
「アンタには刀があるだろう?それで我慢しな」
「俺近接で戦いてェんだよ。だから、刀と同じくらい強力なのが欲しいンだよ」
俺はリズ姉に懇願していた。だが俺の申し出はすげなくリズ姉に断られる。
「アンタはその刀で十分さ。それにいくら打ったところで、今のアタシに最高傑作を作れないさ」
「大槌があるだろ?」
「あれは例外だよ。刀、刀、大剣、小刀。アタシは最高の鍛冶師を目指したきっかけは、とある男の刀だったンだ。あの刀の美しさ。あれを自分で創りたい、そう思った。
エルフは基本、魔法を使って戦うのは知っているかい?エルフは、人工物――特に金属を嫌う。けれどアタシには、それが退屈だった。だから余計に、金属でできた人工物の輝きに、魅入られたンだよ」
リズ姉は、遠い昔を思い出す目をしてた。だがリズ姉の年齢は29歳だった筈だ。
「それは初めて知ったな。でも、最高の鍛冶師になるには、刀以外も完璧に作れないと駄目じゃなねェか?」
「安心しな、アタシの作る刀はまだ、最高傑作じゃない。もっと、高みを目指せる筈さ。ある程度満足できる刀を打つことができれば、その時にガントレットを作ってやるさ。楽しみにしているといいさ」
「ゼス兄はすぐ銃を作ってもらっているのにな」
「アタシの腕の問題だねェ、それは。もう少し腕がよければ、頻繁に変えることもないけれどねェ……」
あとゼス兄は、狙撃系の異能力者という事もあって、案外近距離が苦手な印象を持たれがちだ。
実際、対策をしなければそうだが、リズ姉は近距離戦主体の銃も作ってある。それに、超長距離、長距離、中距離全てに使う銃の種類は違うらしい。その上室内戦向け、屋外戦向けもあるらしい。
銃多すぎて潰れそうだなァ……。ああでも、風属性なり闇属性なりがあるから、案外持ち運びには困らないのか。でも腰とか背中にたくさん背負ってるんだが……。あ、でもアインやらミリアみたいな魔法の化物じゃねェから、魔法を使うと隙ができンのか……。
でも、普段抱えてンのでも背中に中距離二丁、腰のホルスターにピストル二丁だから、使ってると言えば使ってンのか。
「俺もガントレット……」
「アンタの場合、ガントレットが相手とアンタの拳の間で挟まれてすぐガタが来る。作っても、火力は上がらないし、意味がないから作らない」
「うぐううぅぅぅぅぅ………………」
ぐうの音しかでん。完全に言いくるめられてしまった。
「ラース君、またかな」
「ノア兄」
「ノア、アンタからも言ってやってくれよ。ラースがガントレットが欲しいと言ってきかないンだ」
「ラース君、高望みはよくないね」
「ノア兄!?」
即刻ノア兄が敵に回った。
「リズちゃん、この本よろしくね」
「いいよ、今度はどういう系統で揃えるかい?前回は火属性、その前は水属性、その前は風属性……土属性はもう作ったから、今度は光属性かい?」
「これ禁書から見つけてきたんだよね。アイン君に協力してもらって、魔法陣はできてるから、それをこの本に付与してくれる?」
「これ、アタシが里から出た時にかなり話題になってた本かい?――ああでも納得だね。でも、いいのかい?」
「いいよ。全てを利用する気で行くんだ。九星の悲願を達成する、そのためにいらないプライドは犬にでも食わすよ」
「いいねェ。アタシにも、この魔方陣の効果について教えてくれないかい?」
「もちろん」
「なァ、その本の内容は何だよ。俺にも教えてくれよ!」
俺は、二人しかわからない内容の会話に痺れを切らす。
「ああ、これは――」
ノア兄は俺の方に向いて、今ノア兄さんが持っている比較的新しい本の内容を口にした。
「皇月影の加筆・添削付きの論文だよ」
「いやそれのなにが重大なンだよ。大げさに言うな」
「分かっていないね、ラース君。これはかなり重大なんだよ」
「それのどこが……」
「ラース、いくら久遠の魔王子だとしても、それだけで論文の内容が有名になることはまずないさ。有名になるにしても、論文の内容じゃなくて、論文を出したことになる。つまり、その論文の内容が特徴的だったから、有名になったンだよ」
「特徴的ィ?」
あまり効かない言葉だな。それとも、誰も研究しない分野の論文だからか?
「そう。それはね、明らかに論文の内容がおかしいんだ。他の研究者がいくら再現しようとしても、再現できない。それに、明らかにページ数枚分がなくなっている。編集の時点で抜かれていたんだ。つまり、まともな論文じゃない、という事だよ」
「何でそんなこと……」
「論文の内容はすべて真実。けれど重要な所はなくなっている。つまり、そこに論文として世間に発表してはいけない何かがあった、という事だと僕は思うよ」
「むしろ良くその論文の内容が本当だとわかったな」
俺としては、そっちの方が気になる。
「小さい研究は全て再現できたからね。それに、一度論文を書き上げて、そこから一部を抜いたような感じなんだ。要するに、文章が繋がっていない。そういうところもあって、論文の内容は真実だ、と判断されたんだろうね」
「何でそンなことを?」
「これは僕の考えだけどね、この論文は、完成形がある。それとこの本。それを合わせることで、月影の完璧な論文を手に入れることができる仕組みになっている、という事かな」
複雑な隠し方だな。天才の考えることは、よくわからん。
「そんなに完璧な論文を隠したいのか?なら論文を書かなければよかったのにな」
「書く必要があったんだろうね。理由は分からないけれど。でも、そういう考察をする人物も多かったから、当時はちょっとした宝探しになったそうだよ」
「なりそうだな、主に研究者が」
「ちなみに今も見つかっていないらしい」
「大勢探してそうなのにな」
「ラース君の割にはすぐに分かったね。――それを見越して、たぶん限られた人しかその論文のありかに辿り着けないようにしたんじゃないかな。それくらいはできそうだし」
「さすがに俺でも察せるわ!」
俺が吠えると、ノア兄はケタケタ笑ってた。リズ姉も一緒だ。人をバカにしすぎだろ!