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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第三章 すれ違い

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牽制

生徒会室でラファエルと二人きり。生徒会室で二人きりとなるにしても、マティ様かジェシカ様、サティくらいだから、案外初めてだったりする。


僕が茶菓子の準備をしていると、ラファエルが背後から話しかけてきた。


「なあ、いつスタンピードが来るとか……わかるのか?」

「さすがに分からない。わからなくとも、僕がすぐに対応できる体制を整えておけば、問題はない。それに……いや、何でもない」

ラファエルの疑問に僕は少し濁して答える。


皿を持つ手に思わず力が入る。

ずっとする嫌な予感。当たって欲しくないような、そんな感覚だ。昔感じた感覚。もう二度と感じたくなかった、そんな気配だった。まさか――いや、そんなこと、考えたくもない。



「は?なんだよ」

「……僕の思い過ごしかもしれない。それに、仮に思い過ごしじゃなかったとしても、必要以上に危険に晒す必要はないし。それに――それを口にすれば、現実になってしまうかもしれないから」

「ああ、フラグ建てたくないのか」

「フラグ……?」

「あ、いや、なんでもない」

ラファエルは謎の言葉を呟いたが、意味が解らなかった。前にペスケ・ビアンケの会話を盗聴した時に、謎の言葉がちらほらしていたが、それと同じ類なのだろう。

よく転生と言う言葉が聞こえていた。転生とは、生まれ変わる、と言う意味。特に前世が判明している人物が、転生者と呼ばれている。

しかも、異世界転生者。――ペスケ・ビアンケには、まだ僕が知らない事実があるのかもしれない。



「まあ、いいけれど。――僕はあまり自分の実力を晒したくないから、一人の方が都合がいい。昔やってたことよりも、はるかに楽だから、大船に乗ったつもりで、と言うよりもスタンピードのことは忘れていても構わない」

「いや、そこまで恩知らずじゃねーよ」

溜息を吐く声が聞こえる。


案外、ラファエルの性格はいい方だ。どんなに突き放しても、嫌な顔をしながらついてくる。だからこそ、天使という点のみで、邪険に扱うことを、申し訳なく感じてしまう瞬間がある。

だが、これは必要だ。こういうタイプはとことん突き放した方が、情が生まれなくなる。それに、対抗心を燃やした方が、恐らく強くなるだろう。



「なにが怖い?」

「は?何も怖くない。たとえ下手を打ったとしても、僕はもうとっくの昔に死んでいた筈の命。マティ様のために命を捨てれるなら、それが本望だよ。――死ぬ気はないけれどね」

「だろうな。お前はそういうやつだ。――そういうところが俺は気に入らない」

「そう。僕は軍人だ。別に誰かの護衛として腕を磨いたことはない。――命を確実に刈り取る。だから安心してよ。僕は護衛は畑違いだけれども、命を奪うことは専門なんだから」

生まれた時から僕は誰かを殺す手段を学んで生きてきた。研究をして、そこから目を逸らしていただけ。



――結局、九星である限り、軍人である限り、誰かを殺すことでしか生きていく手段がない。そもそも、僕はそれ以外に生き方を知らない。



「……スタンピードはお前に任せるよ。それが一番いい。だが、お前の主にメンケアはしてもらえよ」

「め、めん……?」

僕は振り返って、困惑した表情を向けた。


また不思議なことを言った。いや……一応ラファエルが異世界転生者だという事は知っているが、それを隠しているんじゃないか……?だからこそ、そういうオリジナルの言葉を言わないようにしていたと思っていたんだが……。



「え?あ、あー、メンタルケアのことだよ。多分主に聞けばわかる」

「は、はあ……」

それって、マティ様も異世界転生者だという事なのだろうか?いや、そんな素振りは一切なかったけれどな……。



「二人で何をしている?」

「「!!!」」

唐突にラファエルの後ろから声が聞こえた。全く、気配がなかった。だからこそ、とても驚いた。

ラファエルはマティ様の声に肩を大きく上下して驚いた後、僕が酷く驚いているのにさらに驚いていた。



「いいいい、いつから!!!???」

「アイン」

酷く動揺しているラファエルを押しのけ、マティ様は僕の目の前に立った。


何をするのだろう、そう漠然と思っていると、自分の頭が少し重くなった。そう思ったら、軽くなって、また重くなる。そんな優しい感触が何回も繰り返される。



「え……?」

だんだんとマティ様がしている行為に、思考が追いついていく。顔が熱くなっていくのを感じた。



「お前の髪は、本当にサラサラだな」

「ぇ……ぅ………ぁ…………」

「俺を守るのはお前だ。そして、その対価にお前をこの俺が守ってやろう。幼い頃のようにな」

「は、ぃ……」

僕は、何とか声にならない声で返事することしかできなかった。



「これ、貰っていくな。――ああ、それと」

マティ様は、茶菓子を一つ手に取って僕に微笑みかけてきた。そして、さっと振り返り、僕たちのやり取りを固まって見ていたラファエルに、そのままの表情で顔を向けた。


「アインは俺のものだ。だから、横取りなんて、考えるなよ?」

「横取り……?はあ?!い、いやいや!!?俺は男を好きになる趣味はないって!!!」

「そうか?まあ、コイツは俺のものだ。お前がいくら消そうしようが無駄だが、一応、な?」

「ああ!無駄無駄!!考えるだけで無駄だ!」

「なら無駄なことを俺に考えさせるなよ」

必死に取り繕うラファエルに苦笑しつつ、マティ様はそこから立ち去った。



「あ"ー怖っ!なんだよ、あの圧!」

「……///」

「あーそういうことか?」

僕の表情で、ラファエルは察してしまったらしい。さっきまで、自分の腕をさすっていたのだが、表情がにやけていた。


「うるさい……」

僕は小声で、それしか言うことができなかった。

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