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必ず死ぬ君を救うには  作者: 七海飛鳥
第三章 すれ違い
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魔障

Side Raphael


次々と脳裏に、前世の記憶が甦る。ホームシックにかかった気分だ。俺には、親がいない。だからなのだろうか。前世の妹がやっていたゲームに転生した俺は、特にこの世界に愛着なんぞ持ってない。

もとのせかいにもどりたい。


「大丈夫か?」

「はっ!」

俺は、どうしたんだ?



「……あんたは、本当に今まで魔障に触れたことがなかったのか。幼い魔族のような反応をする」

「――そう言うお前は、そういうことはなかったのかよ」

なんで、ここまでコイツは涼しい顔ができるのだろうか。俺は、過去の記憶に苛まれているというのに。


「……僕は、恐らく魔物から生まれた。強力な魔物だ、当然そこにある魔障も濃い」

「……だから、慣れているのか」

「そう。混血が生まれるくらいの魔障も、かなり濃い。繊細な人間なら、呼吸困難になるほどに」

「でもお前は……」

「そう。僕は確実に純血以上。どれほど濃い魔障だったのか、想像もつかないだろうね」

慣れている訳だ。こんな魔障、屁でもないのだろう。


「慣れていけばいい。これから、魔障に触れ合う機会は多くなる。それに、魔障の中では魔族は強力になる。力の特訓で行き詰ったら、魔障を見つけるといい。セオドアの西の森は、魔障がたまりやすい」

「俺を退学にさせる気か」

「まだ行き詰っていないだろう。長期休暇を利用すればいい」

セオドアの西の森、か。確か、そこは強力な魔物が多かった筈だ。魔物は魔障から生まれる。そして、言い方がおかしいかもしれないが、魔障の質が魔物の強さに直結していそうだ。

そして、異常なほど魔障が濃くなれば、彼岸が生まれる、と。



じゃあ、それなら混血なり、純血なりは、どんな意味を持つのだろうか。魔物から生まれたなら、混血と言われる筈なのに、アインは純血。


純血の意味は、異種や異民族の血が入っていないこと。混血の意味は、様々な血統が入り混じっていること。そう言う意味だ。

決して強さの指標となる言葉でもない。

確かに、吸血鬼とかによく聞きはするけども。



「ここだ」

「ここ、か……」

今までの比ではないくらい、魔障が濃い。禍々しいのに懐かしい。昔の記憶が、穢されていく……そんな気分になっていく。



少し見ていたら、魔物が生まれた。黒紫の闇が集まり、生物の形をとる。グレイウルフだ。そこそこ対魔物戦に慣れた頃に狩るような魔物だ。

初心者向けの魔物の一つとして有名である。


「グルルルルルルルル…………」

「うーん、出るなら、もう少し強いのだと思っていたけれど……」

アインがそう呟きながら、グレイウルフに近づく。驚いて声をかけようとしたら、アインがグレイウルフの首を掴んでいた。

いつの間に。グレイウルフも心なしか呆けた顔をしている。


「キャインッ」

「さて、何故魔障が強くなったのか。この辺りを詳しく調べてみれば、何かしら出てきそうだね」

「あ、ああ……」

突然血を噴出して絶命するグレイウルフ。呆気にとられ、魔障への気持ち悪さが一気になくなった。

一体、何をしたのだろうか?なにも理解できなかった。



少しの間、俺は固まっていたが、すぐに正気に戻り辺りを調べ始めた。

と言っても、あまり気になるところはない。


さっきまでは、魔障に気を取られすぎていたせいか、あたりを観察する余裕もなかった。

ここは何も使われていなさそうな建物だ。木製の床は、ところどころ抜けており、蔦やら苔やらが生い茂っている。

こんな場所が学園の近くにあったとは、気が付かなかった。



「なあ、魔障が強くなる原因とかって、分かるのか?」

「魔法陣が敷いてあれば、確定かな。後は、墓地とか暗い所は魔障が強くなる傾向が高い。反対に、人間が多くいたり、明るい場所は魔障はあまり強くならない。

ああ、あとは魔属性持ちの周りは魔障が漂っていて、聖属性持ちの周りには反対に聖気が漂っている。

だから、意図的に強くしたいときは、魔障が強い場所と繋ぐ魔法陣もしくは、大量の死体。それを探ればいい」

「なんだか納得するな」

魔障はあまりよくないイメージだ。ライトノベルでも、厄介で悪いもの扱いだ。


「魔障は彼岸――天国と地獄にあるものだ。だから、そこの環境に近くなるようなことをすれば魔障は濃くなる」

「天国もなのか!?」

そっちは聖なる力で満たされてそうだ。神々しいとか、そう言う言葉が似合いそうな。


「どっちも死者の世界だからな。だから彼岸なんだ。吸血鬼は地獄由来、天使は天国由来。でも感覚は同じ。能力の違いは同じ地獄由来の鬼人も同じことだしね」

「なんだか脳が……」

「人間の価値観は魔族と大きく違うからね。訳が分からなくなる」

確かに……。天国に行っても、地獄に行っても、死んでるのは同じだからな。そう考えれば、天国も地獄も一緒……?

なんか、そこは面白いな。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「見つけた」

「なにがあったんだ?」

「これ」

アインが何か見つけたようで、俺はそれをアインの背後からのぞき込んだ。

すると、薄く緑に妖しく輝く幾何学模様の円があった。これが、魔障を呼び込んだ魔法陣なのだろう。



「魔属性の魔力で描かれているね。これは、ここに漂う魔力を魔属性に変えるものみたいだ。しかも、描かれてからかなり時間が経っている」

「それってつまり?」

「スタンピードが起きる可能性がある」

「スタンピードって確か……」

「魔物が大量発生する現象のこと。自然発生はほぼあり得ない。しかも、描かれた時期と魔障の濃度がおかしい。薄すぎる」

「それって……別の場所に魔障がある、と。そういうことか?」

「そういう事。ここ、張られた結界がすごいね。ある程度の魔障なら、彼岸でさえ気が付かない」

「まじか……」

「学園で感じた魔障は、ここを出入りする時に漏れたものだと思う。そして、現れた魔物が弱かったのは……」

「本当にあの程度の魔物しか生まれないくらい、魔障が薄かった、という事か?」

「そうなるね」

全てが意図的だった。何者かが、あえてスタンピードを起こそうとしている。


「早く知らせなきゃ……!」

「いや、知らせる人は最小限にする必要がある。僕がいる以上、どんなスタンピードも止められる。どちらかと言えば、そんなことをした人物の目的を知りたい」

俺は突然変なことを言い出したアインを睨む。


「はあ!?こんな重大なこと、大々的に知らせる必要が……!」

「ない。余計な混乱を与えるだけな上、僕がセオドアにいることは、有名な筈。つまり、どんなことをしても、セオドアに対してダメージを与えることは決してできない」

「どれだけ自信過剰なんだよ……!」

表情一つ変えないアインの様子に、逆に信憑性が生まれる。あら不思議。


「少なくとも、スタンピードの一つや二つ、簡単に止められる実力になって欲しいよ」

「国一つ簡単に潰れるスタンピードを簡単に止めるな」

よくあるぞ、魔物が暴走して国一つ簡単に滅亡してる伝説が。普通に考えて、そんなものを一人で止めれるかよ。


「僕は何度も国を潰してきた。そういう実力がないと、王族の護衛になれない立場だったんだよ、僕は」

「お前って、どこまで強いんだよ……」

「この国の誰よりも強いという事は言っておく」

とんでもない自信過剰発言。俺も言ってみたい。


「そんなことよりも、調査は終わったんだ、マティ様と生徒会長に報告しよう。サティには誤魔化しておいた方がいいかもな」

「ギルマスにはいいか?」

「口外しないのなら」

「わかった」

アインの言っていることは、冷静に考えてみれば、頷けなくもない。変なことして、変なことになった結果責任が全て俺に向くのは面倒だ。すべて責任をアインに押し付けよう。

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