口は最も致命的な凶器です
「最近、怪我をする生徒が多いですね」
サティが生徒会室でそう言った。
「ええ、そうね。魔物討伐の課外授業は常に怪我人は出るけれど……だんだん増えて言っているわね」
「え、そうなんですの!?ハロルド様、課外授業は欠席してくださいまし。私、婚約者としてハロルド様がお怪我をするのが嫌なんですの」
「そうか」
「さすがにそれは無理だね~。自分の婚約者がこの学園から退学するのは許容できるの?」
「貴方には何も言っていませんわ」
「これ……失敗した?」
「ザック……。流石に赤の他人が分かる訳ないさ。こういう不仲は他人に知られないようにするからな」
サティの発言にジェシカ様が心配そうな声を上げるが、オストワルト様がハロルド様の行動を縛りにかかる。過去、ハロルド様が言っていた通りの人だった。
一見しただけでは、聡明そうな女性と言うしかなかったのに、言動がすさまじい。
普段とあまり変わらなそうなカーティス様の目が、とてつもなく冷たい。それに気が付いているのかいないのか。いや、気が付いていてあの態度なんだろうな。
「フン、貴様如きが俺の将来の側近の行動に口出しするな。全く持って不愉快だ」
「――ッ!」
「キャッ!」
流石に王太子に睨まれれば、まずいという事は理解しているんだろう。悔しそうな表情をし、生徒会室から外に出て行った。
その時に、サティにわざと肩をぶつけていった。
「大丈夫か」
「はい……。あの、その――なんだか癖の強い人でしたね」
「昔から変わらん。ただ家柄もオストワルト家の方が、マルティン家よりもいい。だからああいう態度を取っているのだろうな」
「それで、マティアス様には素直に言う事を聞くと……なんだか、その……」
「カーティスのよりはまだましだ。あれはいつか婚約破棄をされるだろうな」
「ぶっちゃけすぎですよ~」
カーティス様は、笑っていたがやはり目は笑っていなかった。
「話を戻しますが……。怪我人が増えた原因に心当たりがあります。――調査してもよろしいですか?」
「ああ、構わない。お前の方が人間よりもわかるだろうしな」
「ありがとうございます」
僕はマティ様に頭を下げた。
「アイン、原因って何だい?」
「お前が何か原因じゃないのか?」
「あまり確証がない状況で変なことをと言いたくありません。ただそこの天使に向けて言うと、本気でそう思っているならば、あなたは今すぐこの学園から退学して、この世界のどこかに引っ込んでください。世界の損失です」
「いいすぎじゃないか?もっと言いようがあるだろ!それに、俺はそこまで言われるようなことしたか?」
「……なら、今夜あなたの寮室に向かいます。共に調査しましょう。――それでも理解できなければ、自分の組織に引き籠ってなさい」
僕は怒気が込められた溜息を吐き出した。この天使は、こんな調子で一体何ができるのだろうか。こんな、禍々しくどこか懐かしい――そんな空気がゆっくりと、しかし格段に濃くなっているのに気が付いていないのだろうか。
そうだとすれば、九星にこの天使がかかわることが、九星にとって最も致命的になる。どんな厳しいことを言って、その結果僕の周りに誰もいなくなってしまっても構わない。
僕は、必ず目的を果たさなければならない。――計画は、確実に達成させる。そのための雑音は、徹底的に潰す。
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Side Raphael
俺は吸血鬼に言われた内容が頭にずっと残っていた。
――――この世界のどこかに引っ込んでください。
とても厳しい言葉。しかし俺の本能が、その言葉は限りなく正しいと、そう判断していた。
あいつは――俺の目を見ちゃいなかった。いつも俺の方をしっかりとみて、言葉をくれる。しかし――今日、完全に失望されてしまったのだろう。もう、見る価値もないってか。
「くそ……っ。一体何なんだよ。一体、一体……ッ!」
「荒れているみたいだね。まあ――考えなしじゃない、と言う事実はかなり喜ばしいよ」
後ろからそんな声が聞こえた。驚いて振り返ると、そこにはアインがいた。昼と同じ格好だと思っていたが、よく見たら腰に刀を差している。……転生者いるだろ。
「それは――刀か?」
「よくわかったね。知らないと思ったのに……」
そうアインが刀に目を向ける。その視線には、宝物を見るような、そんな優しい感情がこもっていた。
「さすがに、これを使うことはないと思う。ただの調査な上、これを使うほどの大物ならどんな鈍感でも、気が付くだろうね。――気づかないなら、生物を辞めている」
「そこまでなのか……」
「救いようがない。もはやそれだけで、戦闘に関しての才能が一切ないことになる」
……まだそこまでじゃないようで何よりである。
「で、どこを調査する気なんだ?」
「気配が最も強くなるところ」
とても簡潔に教えていただきありがとうございます。
「気配なんて、今まで碌に戦闘してなかった俺に感じ取れる訳がないだろ」
「心地いい気配がある筈だ。さて、学園の外にでる」
「分かった」
息をするように学園から抜け出すんだな。俺もしているし、学園の外でアインと会ったことがあるから、特に驚きもしなかったが。
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「一体、どこに行くんだよ!なあ!」
「進めばわかる」
「……なあ、本当にこの先へと進むのか?なんだか……不安を感じる」
「そうか?――何故だか、懐かしい気分になる。それは彼岸である限り、変わらない筈なんだが……」
「そう思うからこそ不安なんだよ」
さっきからずっと、懐かしい気分になった。例えるなら、転生する前の記憶――日本に関しての夢が出てきたような感覚だった。
そんな懐かしいもの、この世界には一つもない。だからこそ、不意に日本――前世と関係があるものが出てくるかもしれない、と不安を覚えるのだ。
「――魔物は、一体何から生まれるのか。授業でもやっているから、知っている筈だ」
「魔障から生まれる」
夏休み前の授業で聞いた。
「そう。そして彼岸はその魔障を見つけるのに長けている。何故なら、彼岸の先祖は元々魔障しかない世界で生きていたから。そう言われている」
「――だから、俺が魔障に気が付かないことに、失望したのか」
生きるのに必要な本能がない、そう判断されてしまうのだろう。
「そう。普段生きていて、魔障があそこまで強くなることはない。だからこそ――」
「気が付いて当然、なのか」
「そう。普通は本能でわかるのだが、あんたはその本能が著しく低いようだ。――それは知識を身に着ければ、カバーができる範囲でもある」
「本能……」
今までで、一回も本能が囁いたことはない。自分の力も、アインに教えて貰えるまで、何一つ扱えなかった。
「そう。彼岸は親が全てを教えてくれない。だからこそ、十二分に戦えないのなら、意味がない」
「それって、かなりレアケースなんじゃ……」
俺も、そのレアケースの一員だと思うが。
「彼岸は親と子の種族や使う言語が違うことがある。ラース兄さんがその例だ」
「ラースってあの……!?」
俺は、あの臨時教師の不敵な笑みを思い出していた。
「そう。臨時教師だよ。背の低い鬼人」
「確かに背は低かったな」
「あまり本人に言わない方がいい。あんたは天使だ、軽く心臓は抉り出されることはされる。あんたの完成は人間よりだから、彼岸の目の前では失言はしない方がいい」
自分で言っておきながら、そう忠告する。心臓を抉り出すとか、彼岸は野蛮だな……。
「それって、死ぬのでは……?」
「彼岸は特別な手順を踏まないと死なない。まず絶対に、そういう死ぬ手順は、親も教えてくれない。それが、彼岸が本能で悟ることだ」
「死ぬ、方法……」
「天使は脳を光で焼くことで死ぬ。種族共通の死因だから、もし何かの拍子で彼岸を殺す方法を見つけたとしても、口外しない方がいい。――その種族全体を全て敵に回す」
「キヲツケマス」
と言うか、脳を焼かれたら誰でも死ぬのでは?ああでも、心臓潰しても死なないし、何なら首を切られても死なないのか。でも、痛みは感じるんだよな……?怖っ!
ザック「今まで聞いたことないほど鋭かったな……。言葉の棘が」
マティ「従者は主に似る、と。よく言うだろう?」
ジェシ「似て欲しくないところに似ちゃったわ……。アインのいい所は、意外に可愛いというところなのに……」
ハロルド,カティ,サティ,フィン,ザック,ウェン,ノエ,シエ,「「「「「「「「可愛い???」」」」」」」」
マティ「あれでかなり抜けているからな。――よくわかっているじゃないか、ジェシカ」