僅かな手掛かり
Side Nufist
「……で、オケディアにはもう既にいなかった、と」
「はい。姿を眩ませてから――もう既に何年も経っているようでした」
俺は、自分の主にオケディア――ステラ侵攻の結果を報告した。
「ではどこにいる?まさか、それも探れずにおめおめと帰ってきたのか?」
「……流石に、情報戦では、あちらの方が数段上です」
「そう言う事を言っているのでない!!」
我が主は、苛立ったように声を荒らげた。
「我は彼奴らよりも先に、見つけねばならん!そうして――殺さねば。さもなくば、死ぬのは、我になる。――のう、ヌフィストよ。貴様は死にたいのか?」
「いえ……。申し訳ございません。昔、世界中にあった痕跡も、今や消える一方……まるでこちらをおちょくるがごとく、簡単に痕跡を残し、そして消しているのです」
大量の追手を放って、彼を探させた。しかし、どれも空振り。彼の側に仕えたことがあるという男もいたのだが、いつの間にか姿を消していた。
「せっかく掴んだ手掛かり……それを無駄にすることは許さんぞ!」
そう横暴に我が主は告げた。しかし、それは無理な相談だ。
もう既に、オケディアから姿を消している。どこにいるか、皆目見当もつかない。
「我々は、あまりにもこの世界に慣れていなさすぎます……。それ故に、敵が齎した情報に翻弄されるしかない……。せめて、情報の精査をしましょう。そうすれば――」
「そうするよりも、全てを虱潰しにすればよいではないか。最終的に彼奴は我の前に現れる。結局、その時に彼奴を殺してしまえばいい。ただ、事前に殺しておいた方が都合がいいだけの話だ」
「確かに……。どこまで強くなったとて、誰も主様に敵う者などいる訳がない……」
どれだけ足搔こうが、抗おうが。我が主に敵う者など、永遠に現れない。何故なら――。
「そうだ。よくわかっているじゃないか、ヌフィスト。もう彼奴の唯一割れに対抗できる手段は、事前に潰してある。だからこそ、彼奴は人工的に作ろうとしたのだろう。しかし、失敗したようだがな」
「そうですね。神でさえ、作り出せない存在を――唯一神を殺すことができる存在を、ただの魔族である彼が作り出せる訳がない。だからこそ、逃げるしか方法がないのですよ」
そう、彼の目的は、永遠に果たされることはない。何故なら、手段が一つもないから。それでも俺は、念には念を重ねたい。たとえ、彼に我が主を殺す手段がなかったとしても……。
――彼――皇月影と言う男が生きているだけで、主を殺す可能性というものが生まれてしまう。それを俺は、看過できる訳がない……!
「主様。一度油断をした結果、貴方は事前に奴らにとっての切り札を潰したのです……。九星は主様にとって、脅威ではありませんでした。あまりにも、弱い。人類最強は、人類最強でしかありませんでした。それならまだ久遠の双子の方が手強かったです」
俺は脳裏に雪色の髪を持つ双子を思い浮かべる。彼らに一体どれくらいのウィキッドを殺されたのだろうか。
それに、彼らがいる限り、久遠にウィキッドが潜入することもできない……。
「しかし――皇月影は、その双子を軽く超える脅威です。未だ、完璧な論文すら見つかっていません。まだ、向こうにだって主様を殺す手立てがある、そういうことなのでしょう」
「それでも、人類最強を我は殺したことがある。どんな奴が来ようと、我の圧倒的な力で踏みつぶすのみよ」
「主様……!」
「手掛かりがあるのなら、即座にそこへ行け。そこに彼奴がいるかどうか――それはそこに行かぬ限り、分かるものではない。それか――貴様は我の命に背くのか?」
「い、いえ……。謹んで拝命いたします」
膝をつく。我が主は頑固だ。もう決めてしまった以上、それに従うしかない。
俺は、漆黒よりも暗い黒色の髪を持つ主が去るその後姿を、じっと見つめることしかできなかった……。
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Side Unidentified
「悪いな」
「ん-っ!!ん、んんーっ!!!」
猿轡をかませてあるため、呻くことしかできない。そんな男を僕は冷たい視線で見下した。ベッドに手足を括りつけ、身動きができないようにしてある。
「あんたには犠牲になってもらう。恨むなら、神を恨むんだな」
「んんーっ!!んーーっっ!!!!」
男はベッドの上で一際激しく暴れ始める。それが、生命の最期の輝きのように見えた。
「あんたらウィキッドは、彼岸の能力か、異能力でしか殺すことができない……。それ以外の方法で、できれば誰にでも殺せる方法で殺せるならば、それが一番いい。だから――その方法を探らせてもらう。
――ああ、安心してほしい。あんたは、苦しまずに逝かせてやる……」
「ん、……んん――ーー……. . . . . .」
男の首筋に注射器を刺した。それは、強力な睡眠薬だ。何をされても、目を覚ますことができない程の睡眠薬――。それで男の意識が完全になくなったことを確認してから、実験を始めた。
「まずは、前回の考察を確認してみるか……」




