話せないワケ
――どうして何もしない?
僕はそればかりずっと渦巻いている。目が覚めた時にはもう5日過ぎていて、その間にオケディアとチーズルが滅亡していた。この時点でもう分らない。
九星は?
遠征途中の02は?
前線へ出向いたばかりの03は?
本部に籠って負傷兵を治していた04は?
暫く寝ると言って別れた05は?
未来が見え、九星のリーダーだった06は?
激戦区を常に渡り歩いている07は?
国に張った結界を維持するために国に残っている08は?
九星のメンバーそれぞれに合った武器や防具を作ってくれる09は?
僕は二年前までの情報しか知らない。
たとえ、彼らが死んでも判らないんだ。
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僕は、見知らぬ所で目が覚めた。辺りを見回し、僕は情報収集をする。
――一体ここは……?何故ここに?ああ、僕は。
「気が付いたか」
勢いよく振り向くと、そこには王太子がいた。近くには筋肉達磨騎士団長もいる。あの人間、確か僕が気を失う前に戦った相手だ。
「……」
僕はいつものように腕に隠し持っている短剣を取り出そうとして、ようやく今着ている服が自前でないことに気が付いた。
「気分はどうだ?」
「……」
最悪だ、という意味の視線で返す。僕が睨んでいるのにも拘らず、王太子は口元に笑みを浮かべている。
僕は右足が今まで僕が寝ていたベッドに鎖でくくりつけられている。武器も全て取り上げられ、履物もない。おまけに、筋肉達磨までいる。
「ああ、話せないんだったな?ほら、紙とペン。これで話せるだろ?」
王太子が僕に万年筆と手帳を投げ渡す。気分は最悪だ。僕は魔力で万年筆をコーティングしようとしてできないことに気付く。
――この足枷、魔力封じか。
仕方ないので、吸血鬼の力を万年筆に纏わせ、王太子に投げる。
ただの八つ当たりで、世界に一人しかいない自分の半身を殺す訳はないが、何か怪我させてやりたかった。筋肉達磨が万年筆をキャッチする。そして、濃密な殺気が立ち込めた。
その瞬間、僕の中で何かが変わった気がした。それはいつも慣れ親しんだ感触だった。
――ころすか。
僕は親指を噛む。そうして出た血で吸血鬼の力の一つ、血操術で紅いナイフを創り、飛ばす。それを筋肉達磨は腰から抜いた剣で弾き返す。幾らナイフの形状をしていたとしても、所詮は血である。形を保てなくなった血が辺り一面に飛び交う。それで筋肉達磨を貫こうとすると――。
「待て。殺し合いをしにここに来た訳ではない」
「……」
僕は、ほとんど無意識に筋肉達磨を攻撃しようとしていた血を止め、地面に落とす。それと同時に筋肉達磨も剣を仕舞った。
「さて、暗殺者。オケディアの情報についてどれだけ知っている?」
「……」
「そうだな、アルフレッド、暗殺者に少し近づけ」
「わ、わかりました」
「――――ッ!!」
筋肉達磨が近づいたその瞬間、思い起こしたくない記憶が蘇る。
目の前には、忌まわしきあの男達がいた。
―――ああ、話か。話はあるぞ?たァっぷりとなァ?その体に用があるんだ!!
―――いつも澄ました顔で、お高い所にとまりやがって……!おまけに生意気なんだよ!!
―――いや、こいつ吸血鬼だし、大丈夫だ。
―――そもそもここまでされて生きてるとか、化物だよな。
―――誰もこんな気持ち悪い奴、好きになる訳ないしな。
―――そうそう。誰の助けを呼んだんだろうな?
――ッ来るな来るな!!!嫌だ、嫌、痛いの嫌……!怖いのも嫌――!
僕は混乱して血操術でその男たちを攻撃する。衝動的な分、威力は弱いが、足止めには十分だった。
僕は、筋肉達磨が近づいてくるのを見て、唐突にある記憶がフラッシュバックする。僕はもう、現実が見えていなかった。
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――6年前
「――――、―――」
僕は目の前の大男に問いかける。元々前線にいたらしく、あの苛烈な場所を長年生き延びたという実績を持つその体は、分厚い筋肉で覆われていた。
他にも似たような男たちがいる。どの人間もニヤニヤしていて、かなり不快だった。
「ああ、話か。話はあるぞ?たァっぷりとなァ?その体に用があるんだ!!」
「!!??」
「いつも澄ました顔で、お高い所に居やがって……!おまけに生意気なんだよ!!」
「―――!!??」
僕は突然出された大声と、その内容に驚き、動けなくなっている隙に、鳩尾に体が浮くようなパンチを決められた。
息を吐く間もなく顔を殴られ、後頭部を蹴られ、腹を思いきり踏み付けられた。最初は暴力だけだったものの、水責め、火責め、超音波、高電圧電流。どんどんエスカレートしていき、最後は……。
「おいおい、流石にそれは駄目だろww」
「いや、こいつ吸血鬼だし、大丈夫だ」
「そもそもここまでされて生きてるとか、化物だよなww」
「………………」
「もう、何も話さなくなっちゃったな」
「あーあ。もっと、助けて!とか、やめて!とか、痛い!とか聞きたかったのにな」
「悪w」
「まあでもさ、心臓にナイフ突き立てられたらさ、少しは黙りたくなるんじゃないか?」
「だよなw声を上げる度にエスカレートしたもんなww」
「誰もこんな気持ち悪い奴、好きになる訳ないしな」
「そうそう。誰の助けを呼んだんだろうな?」
僕はその後、血溜まりの中で変わり果てた状態で03と05、後は2人と共にいた参謀たち3人に発見された。体中に暴行の跡があり、左胸には、立派な短剣が刺さっていたらしい。
僕は、それでは死なないものの、心は死んでいた。元々乏しかった感情があの時強烈に植え付けられた恐怖以外なくなり、時々見せていた表情は、もう二度と見ることはなかった。
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「おい!やめろ!聞こえているのか?!おい!――!」
「殿下!?」
だれかがなにかをいっているようなきがする。
「どうしてそんなに苦しそうなんだ?」