種類の違う天才
Side Theodore
「久しいな、ノアよ。息災で何よりだ」
「貴方こそお元気そうで。アイン君の様子はどうですか?役に立っているといいですけど」
そう微笑む緑髪の青年は、一切の油断も隙もない。
「ああ、マティがとても気に入っているようだ。今では強力な後ろ盾になっているさ」
「おや、それは何よりです」
目は全く笑っていない。
そんな若干緊迫とした状況に、緊張を隠しきれないアルフ、ルフィ、青髪の少女そして橙髪の青年。
「さて、何用かな?私と貴殿の仲だ、何もなしに来た、とは誤魔化すことはできない」
「おや、それもいいとは思うんですけれどね。……どうやらテオドール殿は早く僕との話を終わらせたくてたまらないようですね」
悲しいです、と言う風に言う彼は本当に悲しんでいる様子はなく、淡々としている。
――本当に厄介な相手だ。
即位してから十数年。父王が若くに死んでから、海千山千な厄介な人物たちをセオドア国王として相手取ってきた。しかし、その中には一人とたりとも未来が見える人間はいなかった。
アインだって厄介であることには変わりない。姿を見せない暗殺者。正体を知るのは、殺される時のみ。それが死神を連想させた。
しかし彼は子供だ。あちらもあちらでマティのことが気に入っている様子……。シリルに魔族について詳しく聞いてみたが、能力は高くとも考える頭は足りないような印象だ。
それにトラウマ持ち、人間不信は簡単に付け入る節がある。
ジェシカ嬢には申し訳ないが、アインにマティをやればステラと強力な関係を築くことができる。周りはマティがアインに入れ込んでいるように見てるが、どちらかと言えばより入れ込んでいるのはアインの方だ。
シリルからの情報も私の考えを後押しした。
アインは確かに頭はいい。今のアインとやり合うのは骨が折れるだろう。しかしそれでもノアほどではない。その上彼の性格は素直だからな。
ノアはそういうことが何一つない上、未来が見える。しかももう既に妻がいる上、側室は娶らないと公言している。愛妻家と国民からもてはやされている。つまり、この国の女性と政略結婚をさせることもできない。それに、国としての立場は向こうの方が上。
これなら、リセーアスのタヌキ爺とやり合う方が100倍マシだ。よかったのは、アインのような得体の知れなさがないことか……。
「同盟の結果ですよ。皇月影の保護。そのためには情報が必須なのは火を見るより明らかです。その情報を共有するために来たのですよ」
「ほう、それで国王自らか」
「ついでにアイン君に会いたいのですよ。あの二人ともね」
「しかし、ラース殿とは最近会ったことがあるのではないか?学園の臨時講師も務めて貰っていた記憶があるのだが」
「その件はどうも。……しかし、アイン君が九星の誰に会おうと、貴殿には一切の関係がないのでは?」
いい笑顔で言い切られる。まあ、確かに関係ない上、特に気になった訳でもないため、その話題は即座に流した。
「では、本題に入りましょうか。まず、ステラで事件が起きたことはご存じですよね?」
「当然だ」
「なら話が早い。それに月影がかかわっている可能性があります」
「……どういうことだ?確か、月影はそんな大それた事件など起こすような性格とは思えないが」
「ええ、僕もそう思います」
ノアは突然突拍子もないことを言い出したが、決して根拠のないことは言わない。
「侵略者……ウィキッドと言うらしいのですが、彼らはどうやら月影を探しにオケディアに来たらしいのですよ」
「オケディア?一体オケディアがステラになったのはいつの話だ。オケディアほどの大きな国だ、とっくに、世界中にオケディアがステラになったことは広がっている筈だ」
オケディアが革命されたという事件は、かなり大々的に報じられたのだ。
「それに月影は11年前にオケディアから姿を消しています。……情報を掴むのが遅すぎることが気になりますが、彼が原因で事件は起きている。そして……彼らは今の九星では歯が立たない」
「それは……本当か?」
とは言ってみたものの、表情は真剣そのものだ。……九星より強い存在が敵にいる。その事実を受け入れたくない。
「ええ、……本当に、本腰を入れて月影を探す必要があります。恐らく、月影は彼らに敵わない」
「奴らの目的が、月影の殺害と仮定するならば、今の状況は全くよくないな」
月影がどこにいるかわからない。
ウィキッドはこちら――九星と月影を引き合わさなければいいだけなのだが、九星は月影と会った上で、協力を得る必要がある。
月影が見つかるかどうかわからないのに月影に協力してもらえない可能性がある。しかしウィキッドの必須項目に、月影の殺害は入っていない。
「ノア、月影が行方不明になった原因の一端について、噂がある」
「どんな噂ですか!?」
「魔族は、そもそも強者至上主義だという事を知っているか?」
「ええ、それはそこはかとなく漂う雰囲気で」
「なら、今の魔王それに魔王太子が”強者”に該当しないことも知っているか?」
「……まさか」
何かに勘づいたようだ。
「鋭いな。つまり、そういうことだ」
「潜伏を続ける可能性が……」
「むしろ、今名乗り出たとして、月影にメリットが生まれる訳がない。評判からも、野心家な印象は全く見受けられない」
それに、煩わしくて仕方ないだろう。更に、九星に協力したと知られればなおさらだ。
「九星について、何よりも理解している筈なんですがね」
「それは、恐らくノア、貴殿がいるからではないか?」
愚痴っぽく話すノアに、意地悪く返す。
「……僕は、月影の立てた計画に強く反対しています。そもそもあり得ない」
「向こうはそう思っていない。だからこそ、今も姿を消したままだ」
駄々をこねた子供のようだが、魔族ならありえなくもない行動だ。特に力の強い魔族ならなおさらだ。
「……はあ、外堀を埋めるしか、本当に方法がないようですね」
「貴殿は身内に優しすぎるきらいがある。自分のなすべきことをなす。向こうはその気だぞ?」
「……僕は、彼の馬鹿馬鹿しい計画に付き合うつもりは毛頭ありません。それは、貴殿も同じでしょう?息子を悲しませることはしたくはない筈」
「そうだな。私は自分が親馬鹿だとつくづく思う。だからこそ、その内容も同盟に含めた」
ニヤリ、と悪い笑みを浮かべた。ノアも同じような笑みを浮かべる。そう、この同盟は決してメリットがない訳ではないのだ。たとえ、親心のみのメリットだったとしても。
「なら、まずは外堀。彼の頭脳は研究者基質です。為政者のような底意地の悪さは全くない。付け入る隙ならいくらでもあります」
「マティを最大限活用して、状況も作らなくてはな。舞台が完璧に整えられれば、自白するしかなくなる」
「そもそも感情も巻き込めばいいんですよ。好きな男にコロっといっちゃうまでに惚れさせれば」
「それはいい。しかし、やりすぎると保護者が出てくるな」
「彼が全て許せば問題ないのですよ。別に殺そうとしている訳じゃないですし、保護者の方々も理解してくれるでしょう」
フフフ……。悪い笑みを浮かべて悪い考えを互いに出し合う。ああ、月影が天才研究者で本当に良かった。
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