そう思うのは仕方ない。
Side Matthias
休み明け。フィンレーが学園に来た。確か、イーストフールの第二王子だったな。条件を満たさなきゃ来ない、隠し攻略対象の一人だった筈だ。
その条件のひとつが、現時点で三つ以上マティアスのイベントを起こすこと。……起こした記憶、俺はないんだがなぁ。
大体二人きりのイベントだから、アインと一緒だったらフラグも立たないと思ったのに。
別に一人増えるのはいい。アインルート解放の条件は鬼畜だし、そもそも何周目と言う概念がない現実にアインルートを解放できる訳がない。
俺も俺でアインにベタ惚れだから無問題。
マティアスルートの悪役令嬢、ジェシカもジークが好きだから完全に破壊できてる。
心配なのは、ジークルートだが……。そこはジェシカが主になんとかしてくれるだろう。俺も手伝うが、一番はジークの気持ちだからな。
では何が問題なのか。単にフィンレーの攻略難易度にある。
政治をある程度理解していなければお話にならないのだ。そしてサティは優秀ではあるが、政治に精通している訳ではない。
そのため、頭脳派キャラともイベントを起こす必要がある。主にハロルド。マティアスも優秀だが、別に頭脳派ではない。一応……アインも頭脳派の部類らしい。しかしフィンレーを攻略しないとアインルートには入れないため、本末転倒ではある。
対してマティアスは選択を間違えなければいいだけ。
分岐ルートが多いが、それだけ。
さて、サティを誰とくっつけようか。
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「やあ、初めまして。俺はマティアスだ。よろしく」
にこやかな笑みを浮かべてこちらに来る。左に座らせたアインが密かに警戒する。
「よろしく。セオドアは初めてだからな、色々と教えてくれると助かる」
「そうか?これから慣れていけばいい。時間はたくさんあるからな」
「そう言ってもらえて嬉しい」
よしよし、好感触のようだ。イーストフールはセオドアよりも大きい国だからな。仲良くしていて損はないだろう。
ジェシカとアインをフィンレーに紹介した。その時、ジェシカの目が、後で集まりましょうと言っていた。
まあ、そうだよな。俺も想定外だ。計画じゃ俺がサティポジでアインを攻略する予定だったのに。
「マティ様、少し用事があるので……」
申し訳なさそうに若干眉を下げるアイン。可愛い。
「ああ、構わないぞ」
正直、都合がよかったことは言うまでもない。
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「で、なんでフィンレーがここに?貴方まさかサティに会って……」
「そんな訳ないだろ。アインとなるべく一緒にいた。それにサティとアインは違う。イベントを起こそうと思っても起こせない」
俺は必死に冤罪を解こうと努力した。
アインは体幹がしっかりしているから、つまずいても転ぶことはない。ジェシカがいじめを行っていないため、それに関するイベントもない。
――厄介な。
それが俺とジェシカの共通認識だった。
「もしかして……私たちがストーリーを変えたから?」
「……かもしれないな」
そもそもなんで特に関わりのないフィンレーにマティアスが条件に入ってくるのかがよくわからない。
アインは分かる。だがフィンレーは謎だ。
王子繋がりか?そんな単純じゃないと思うんだが。
「最近は変な奴がアインの近くをうろうろしているようだし、想定外が起こる。まさか、転生者が俺たち意外にもいたりしてな」
「まさか。そうだったなら、もう少しうまい立ち回りくらいできるでしょ」
ありえない、と言った風にジェシカが口を手で押さえる。
「中途半端な知識しかないのかもしれんぞ?アインルートの存在自体を知らないやつにとって、アインは真のラスボスだしな。それにゲームのアインは、前髪で顔のほとんどを隠していた」
「すっかり忘れてたわ……。確か、そんな重大な役どころなんだから、ネットでは美形かもしれない、とか言われてたんだっけ。痩せ細っているのに誰よりも強いのが不気味だからか、否定派も多かったけど」
前世の俺は、そいつら相手に数少ない味方と共に、レスバに毎日励んでいたんだよな……。アインの魅力に気づけないあいつらが全面的に悪い。
「アインルートやりたかった!なぜ俺は直前で死ぬんだ!!」
「確かに!前髪の下があんな綺麗だって知った奴らの反応見てみたかったわよ!!」
「最高難易度、命の保証はない。どう考えても運営、アインに恋させる気がないだろ……」
「ハードルが高すぎるのよ、ハードルが。あのシナリオライターどうなってんのよ」
前世の世界にいるシナリオライターに呪詛をおくる。
「ついうっかり覗いてしまったネタバレも、大したことは書いてなかったしな……。結局アインが死ぬかサティが死ぬかの二択だ」
「サティが死んだらゲームオーバー、アインが死んだらバットエンド確実。――やっぱりノーマルエンドかしら?」
「今のところ、特に誰かのルートに入っている様子はないしな。今はそうでいいかもな」
「そうよね……。下手にくっつけて、変なことになるのは避けたいし。それに攻略対象って婚約者いる人がいるのよ。まあ、性格が終わってるんだけどね」
どこか遠い目をするジェシカ。どいつもこいつも本当に関わり合いになりたくない奴らばかりである。
「ハロルドの婚約者は金遣いの激しい高飛車な我儘女で、カースティスの婚約者は、死ぬ死ぬ詐欺が常套手段のメンヘラ女。ジェシカは選民思想激しめで陰湿な嫌がらせをする。フィンレーの婚約者は確か、男遊びが激しいヤ……阿婆擦れだったよな?その上男に貢いでるな」
「なんか酷い風評被害があったけど……ここまで突き抜けて悪役だったら、罪悪感も薄くなるわよね。告白は婚約破棄後だし」
そう。それまでサティと攻略対象は適度な距離を保っているのだ。婚約者がいる男にべたべたする厚顔無恥なタイプではない。それはこの世界のサティにも言えることだ。
その分断罪が早く来るが、最終的に魔王を倒す流れだ。色々な要素が盛り込まれてる。なぜどっちかにしなかったのか。そのおかげで問題が山積みだ。
「ところで話は大きく変わるが……」
「なにかしら?また何か問題が?」
「フィンレーの髪型、ブロッコリーじゃないか?」
「ブッ」




