アイ、ライク、天使!
Side Raphael
非常に、物凄くわかりやすい説明と例えで彼岸の魔族とはどういうものかを説明していただきました。
……というか、天使って激レアだったのかよ!!更に純血とかも!
でも力を手に入れて強くなるのはいいけれど、逆に衝動って奴に苛まれるのか……。
しかも俺に半身はいない。つまり、衝動が起きれば、ギルマス含め、他のギルドメンバーに迷惑をかけることにもなる。――それに、俺自身の力で仲間を殺すかもしれない。
「ただまあ成程、とても興味深い……」
すっごい悪寒。いつか人体解剖されそう。
何故そう思うかって?……翼を間近で、嘗め回すかのごとく観察されているからだよ!!
「本題」
アインの奇行に、やや引き気味のギルマスがそう言った。ハッとした表情で俺から離れるアイン。なんなんだよ、コイツは。
「すまない。研究者なので。――天使の力を教える。それで桁違いの強さを得ることができる」
「断る。なんで吸血鬼なんだ。天使はいないのか」
「生憎、天使に研究結果を盗まれたことがあるので。以来天使にはあまり近づかないようにしていたんだ。――その馬鹿は、今や一生研究者として活動できないようになっているが」
「それは当然だな」
根っからの研究者なコイツには、どうにも腹に据えかねたようだ。そんなことを言うと、アインは少し驚いたような表情をした。
「へえ?天使なのに話が分かる。大体の天使は盗まれた方が悪い、と言うのに」
「なんだそれは。それと俺を同じに考えていたのか」
「そうだが?こっちにしても、騙された方が悪い、と思っているからね。あいつが盗んだ研究結果、ほぼ嘘しか書いていなかったんだよ」
「それでも盗んだ方が悪い、それで騙されたんなら自業自得というやつだ。そもそも盗まなければいいだけの話だからな」
「だが、同じ種族がやらかしたんだ。同じ種族として、庇う以外の考えはない」
「なんじゃそれ。それこそ同族の恥だろ」
そりゃあんな態度になるわ。初対面でも刺々しくなる理由だな。
「それはそうなんだがね。……なんでこんなに話が分かるのに、吸血鬼嫌いは天使と一緒なんだ?遺伝なんだろうか」
「本題」
また話が脱線している。俺のこと強くしてくれるらしいが、本職が思いっきり邪魔してる。
「ああ、そうだ。という訳で、天使の知り合いはいない。鬼人の知り合いはいるにはいるが、先の件でステラに帰ってしまったんだ」
「成程」
「天使についての知識もある。今のところ、適任は僕しかいない。それに、天使の力を扱えないという事は、他の天使が近くにいないということの証左だ」
「そうだ。天使どころか彼岸の魔族はラファエルしかいないぞ?」
「……なんで彼岸が一人なんだろう。彼岸が一人いたら、普通半身がいない限り二人以上いるのが定石なのに……。純血という事は、片親は確実に彼岸だし」
彼岸は、衝動というものと一生共に過ごさなければならない。そのために、必ずと言っていいほど二人以上が近くにいるらしい。互いが互いに衝動を治め合えるからだ。
「……それは黙秘したい」
「分かった。深くは聞かない」
その言葉にほっとした。あれには、あまりいい記憶がない。
「まず教えるべきは、翼の仕舞い方かな」
アインはそう言いながら俺の翼に目を向ける。
「学園では魔法で隠していたようだが、そもそも翼をなくす方法はある」
「どんな方法だ!!?」
いつも翼を厄介に思っていたので、かなり前のめりに聞いてしまう。突然の大声に、少し目を丸くしつつ、アインはこともなげに答えた。
「人族に擬態すればいい」
「……できるのか?」
「むしろそれでよく生きてこれたね。見た感じ成人直前くらいだけど、実際は500~600くらいでしょう?流石にそれくらいは……」
一気に桁数がおかしくなった。ん?話の流れ的に年齢の話だよな?
「は?何を言っているんだ?俺の年齢のことか?――俺、15だが」
「ああ、見た目は人間でいう15くらいだね。自分の身長をいじれるのは子供の間でしかできない筈。突然変異かな」
「いや、俺の年齢が15」
「とりあえず、普通は本能でできる筈だけど仕方ない。無理矢理変えるから、その感覚を覚えて欲しい」
「人の話を聞け!!」
俺の声が全く聞こえない感じでアインは目を閉じる。そしてゆっくり開くと、その瞳は赤くなっていた。
「”人族に擬態しろ”」
「!!」
背中の重みがなくなった。それに驚いて背中を見ると、あの翼がなくなっていた。
「さて、感想は?」
「あまり分からなかった」
「なんとなくは掴めたね、やって」
「スパルタすぎるだろ!!」
「頑張れー」
ギルマスは適当に手を振る。他人事だと思って。
――えーと?確か背中が軽くなったと思ったら翼が消えたから?背中を重くすればいいのか?
先程感じたのとは逆にやってみる。そうしたら、案外簡単にできた。
「おーできた」
「じゃあ、これを反対にすれば、翼を消せるのか?」
そう言いながら、翼を消す。正直、それ以外の変化がないために、擬態したのかどうかの見分けがつかない。
「できたようだね。じゃあ”光を出して”」
「手が、勝手に……?」
アインの言葉の後、勝手に手が動いた。それに勘違いでなければ、魔力とは違う力が動いた気がする……。
その力が一部、ちぎれるように分裂して、手の平に集まった。
すると、ポンっという効果音が似合う感じで、俺の手の上に光球が出てきた。
「なんか、神々しいな……。光属性とも、聖属性とも違う、崇め称えたい雰囲気を兼ね備えている気がする……」
ギルマスの言葉に、俺も頷いた。
「それを動かす練習をして。出し入れはしてもいいけれど、やりすぎには注意。何かおかしなところがあれば必ず僕に言って。先ほど説明したけれど、衝動が起きれば、人間じゃあ荷が重い。被害を無駄に広げたくなければ、衝動には気を付けて」
その言葉に、頷くことしかできなかった。
「聞きたいけどさ、衝動は当然吸血鬼にもある訳でしょう?どうして学園で騒ぎになっていないんだい?衝動は、そうそう起こりえないからかい?」
「吸血鬼は少し特別で、力を使わなくとも衝動は起きる。天使との違いは、天使は強力な力を使った代償、吸血鬼は魔力の枯渇の現象と一緒だね」
「ああ、一緒に見えるが、考え方が違うのか」
俺の言葉に、アインは頷く。
「当然、使えば使うほど衝動は起きやすくなるけれど、使わなかったとしても、衝動が起きない訳ではない。その分、衝動を楽に治めることができるから、そこだけが救いだね」
「なら俺も吸血鬼に……」
「衝動を治めるのは楽だが、代わりに味覚が死ぬ」
「え"」
なにその爆弾。元々死んでいる目が、更に死んでいる……。気のせいでもなんでもない。
「それに、半身に出会ったとしても、血が必要な半面、天使は側にいるだけでいい。更に吸血鬼はさほど腕っ節がある訳でもない。どちらにもいい面と悪い面がある、という具合かな」
「つまり、命を取るか、それ以外を取るか、という事か?」
ギルマスの言葉に、アインが頷く。
「衝動を治めなければ、命の危機があるが、吸血鬼にはそれがない。それ以外の例外も同じことが言える。が、それ以外を犠牲にしている」
生まれて初めて、天使でよかったと思った。




