失礼な奴
Side Raphael
「なあ、どういうことだ?アイツとは、邪魔しないという取り決めがあったんじゃないのか?」
「どういうことだい?」
「ステラが襲われたらしい」
「ああ、それか」
何やらギルマスは心当たりがあるらしい。
「いや、本当にそれは俺じゃない。そもそも向こうの方が手腕としては上なんだ。変なことをして邪魔者認定くらったら、こちらとしても困る」
「そうだな」
一睨みでギルマス含め、この場を制圧することができる実力。そんな化け物にどう勝てばいいのやら。
「たぶん、向こうはこちらが転生者、という事は知っていると思う」
「は?なんでまた……」
こちらのアドバンテージの一つだぞ。
「これは俺の落ち度もあるかな。自然に俺たちが知りえない筈の情報を出されたんだよ。つい頷いちゃった」
「馬鹿が」
「でも、こっちの人は転生という概念はない筈なんだけどね?」
「そうだな。転生?何それ美味しいの?状態だからな」
「そう。アインが転生者じゃないのは確定なんだけどなー!」
「何でだ?」
「だって、これに全く動じなかった……というより見向きもしなかったからね」
と言ってギルマスが指さしたのは、日本語で書かれた本だった。
「気づかなかっただけじゃないか?」
「ないでしょ。あの時この本は、俺の机の上にあった。俺の後ろに回り込んだアインもをれに気が付いてたけど、一瞥しただけだった。この世界には、日本に似ている国はあれど、日本語に似ている言語はどこにもない。つまり、転生者なら大なり小なり反応を示したっていい筈だ。それに、合言葉に桃を使ってるしね」
「あー、日本語に桃。この世界を知っている人物なら、これだけで俺たちが転生者仲間なのもわかるってか」
「名前も知ってただろうしね。ペスケ・ビアンケは白桃という意味がある。これで気が付いてもおかしくない」
「気づかんどころかどスルーだもんな。なら転生者説は消えるか」
それで気が付かないなら、そもそも俺達より上手なんて評価は相応しくない。そもそも知らないと考える方が自然だ。
コンコンコン。
「誰だ?」
「マスター、ラファエル様、客でございます」
「客?今日の予定にはないが」
「急を要する。そこにあの天使がいるなら話が早い」
「お前……!」
「ラファエルに興味があるのかい?――まあいいや。入っていいよ」
そうは言ってきたのは、先程話題にしてたアインその人だった――。
「誰だ?」
――と思ったら全くの別人だった。
赤茶の髪に、健康そうに日焼けした肌。そばかすが散らばっていて、その瞳は鋭い。ついでに……美形。
「ああ、あんたはあの日、あそこにいなかったか」
そう言いながら鬘を取りンハンカチで顔を拭いていた。その下から出てきたのは、アインその人だった。
「魔法じゃないのかよ!」
「魔法で変装して痛い目見たことがあったからね。――知っていると思うけど」
「あ、ああ、確かに……――ハッ!」
「主従諸共迂闊なようで」
盛大な皮肉を前に、何も言い返せない。
「で、何の用?あれは俺たちの所為じゃ――」
「あれの正体も目的も知っている。そもそも、あんたたちが原因なら、あんなに慌てることもない」
「失礼な奴だな」
「戦争も経験したことのない身で、英雄とまで称えられる僕たちが負ける筈がない」
「その戦争は、11歳で終わったけど?戦争に関われる年齢じゃない。それに、戦争の原因は、オケディアじゃないか」
「そうだね。原因の一旦は確実に僕らだ。僕たちがいたから、奴らは欲を出した」
その表情に、陰りが見えた気がした。しかし、それも一瞬で消え去った。
「本題に入る。そこの天使を貸してほしい。もちろん、そちらにも益はある」
「は?嫌だが?」
誰が吸血鬼風情と――。
「話を聞こう」
「ギ、ギルマス!?」
「話を聞くだけだから」
「そこの天使を鍛える。僕は研究資料が手に入る、そっちは手駒が強くなる。どうだろうか」
「ん―、でも今のままでも十分強いよ?」
「そうだ。お前の手を借りるつもりはない!!」
「どこが強いんだ。彼岸最弱が」
呆れたように言うアインの言葉に、知らないものが混ざった。
「「は?」」
「ん?おかしなことを言ったか?」
呆気にとられたように声を発した俺達と、首をかしげるアイン。じっと俺を見つめて、更に考えに耽る。
「どう見たって天使の筈なのに、きちんと言葉が喋れて感情のままに暴れたりもしない。翼だって、混血の奴よりかは素晴らしい。下手な純血よりも。なら、それなりに歳はいっている筈なのに、衝動という衝動がないように見える。吸血鬼に会って、好き嫌い言っているだけ」
「おい手前、俺を虚仮にするなよ」
珍しい長文に少し圧倒されつつ、癇に障る言葉に少しキレる。まあ?前世は社会人だったし?これくらいで子供にキレたりしないし?
「考え込んでいるところ悪いが、彼岸とはあの世のことだよな?」
「え?」
「「ん?」」
……どうやら、認識が違うようだ。




